ビジネスマンに必要なユーモアとは何だろう。商談中に爆笑をしてもらう必要はないが、相手との距離を縮めたり、よい空気をつくりたい。心をくすぐる程よいスパイス加減とは。各界の先達たちの言葉からそのあり様を探った。

歌手の和田アキ子からは直接、話を聞いたことがある。森繁久弥のユーモアについて、彼女は話してくれた。和田アキ子がテレビドラマで森繁久弥と共演したときのことだ。彼女がセリフをしゃべることに苦労していたら、森繁が「ここへおいで」と手で招いた。

「アッコちゃん、いいかい、セリフは歌うようにしゃべれ、歌は語るように歌えという言葉がある。わたしはね、いつも歌うつもりでセリフをしゃべっているんだ」

「知床旅情」という大ヒット曲を持つ森繁は歌手の気持ちにも通じていた。だから、後輩の緊張をほぐすことができた。

このように、直接、笑いにつながらなくとも、相手の緊張をほぐし、相手の共感を得ることができればそれはユーモアであり、ユーモアの精神だ。相手を笑わせることばかりを追求するのは、他人のことを想った行為とは言えない。「あいつを笑わせてやった」と自慢する行為はユーモアの精神からは遠く離れているもので、ただの自分勝手ではないか。

戦後を席巻したジャズバンド兼お笑いグループ、クレージーキャッツのリーダー、ハナ肇のユーモアもまた、相手の気持ちを考えたものだった。話者は植木等である。

ハナ肇が病死する少し前のこと、クレージーキャッツのメンバーだった植木等と桜井センリは自宅でふせっていたハナ肇を見舞った。

「ずいぶん弱っていて、もう、もたないことがわかった。だが、ハナは何か話したい様子なんだよ。弱々しい声で切れ切れに『ああ、カツ、カツ』と言う。涙を抑えながら、桜井センリが聞いた。『ハナちゃん、何、カツって何なの?』。ハナは言うんだ。『はあはあ、カツ丼が』と。桜井は泣きそうな顔になっていた。『そうだねえ。うんうん、ハナちゃんはカツ丼が好きだったもの。食べたいんだね』。そばで見ていた私もつらかった。

だが、ハナはまだ話したい様子だ。もう一度、『カツ、カツ』と呟いた。『ハナ、聞いてやるぞ。何でも言ってごらん』とオレが言ったところ、あいつはぜえぜえしながら、『カッ、カツカレーも』と……。

オレたちは爆笑した。『ハナ、カツ丼とカツカレーじゃ食べすぎだ。そりゃ多いよ』。あいつは最後、オレたちを見て、にやっとしていた」

ハナ肇は死ぬ前でも、仲間に笑ってもらいたかった。仲間の悲しい気分を吹き飛ばすために、わざとジョークを言ったのだ。自分のためでなく、あくまで相手のことを思っての言葉だった。

人から親近感を持たれるには相手のことを思い、自分のことを笑い飛ばすことのできる度量がいる。

本田宗一郎とともにホンダを成長させた藤沢武夫は「本田は人に好かれる男だった」と言っている。

「社長にはむしろ欠点が必要なのです。欠点があるから魅力がある。つきあっていて、自分のほうが勝ちだと思ったとき、相手に親近感を持つ。理詰めのものではだめなんですね」

(ノンフィクション作家 野地秩嘉=文)