取材・文: 編集部  ポートレート写真: 三宅英正

日本のファッション界最重要人物のひとり、栗野宏文氏。日本を代表するファッション小売業 (株) UNITED ARROWS (以下: (株) UA) のクリエイティブディレクション担当上級顧問であり、日本のファッション業界をドメスティックとインターナショナルな視点から俯瞰的に語ることができる数少ないファッション・ジャーナリストでもある。業界歴35年というキャリアもさることながら、政治経済・音楽・映画・アートから国内外情勢を投影した時代の潮流(ソーシャルストリーム)を捉えるマーケターとしても、国内外で高く評価されている。栗野氏にとって、ファッション業界の過去・現在・未来とは?

(第1回/全4回) 【インタビュー】(株) ユナイテッドアローズのクリエイティブディレクション担当上級顧問 栗野宏文氏が語る、ディレクションや流行予測のエッセンス

(第3回/全4回) 【インタビュー】(株) ユナイテッドアローズのクリエイティブディレクション担当上級顧問 栗野宏文氏が語る、JFWと日本のファッションの最大の特徴

 (第4回/全4回)【インタビュー】(株) ユナイテッドアローズのクリエイティブディレクション担当上級顧問 栗野宏文氏が語る、いま気になるブランドと海外で勝負をする際の注意点

- いま不況などが叫ばれている世の中ですが、日本のアパレル市場はこれからどういう方向に向かっていくとおもわれますか?

もし経済状況のことだけを言ったらひとつも良いことはないと思います。もっと洋服が売れなくなると思います。ただ、逆に言うと、それほど経済や好況不況という言葉に対して深く追求をしていない人や、理由を考えていない人ほど、不況で服が売れないと言うんですよ。私が洋服業界に入ってから35年くらい経ちますが、結局、景気が良かったから服が売れたとか、景気が悪くなって服が売れなかったということは、いままでありませんでした。もし景気が悪いから服が売れないのだとしたら、とっくに服なんか売れなくなっていますし、景気が良くて服が売れるのだったら、もっと服は売れるとおもいます。


UNITED ARROWS women's head store

もちろん、一部のラグジュアリーブランドや一部のファストファッションのように、景気とすごくリンクしている存在というのもありますけど、私が扱ってきた商品や(株)UAが扱っている商品というのは、景気が良くてお金が入ったから買いにいく服でもないだろうし、景気が悪くなって自分の収入が減ったから買うのをやめる服でもない。いままで景気に大きく左右されない買い付けをしてきましたし、ショップや会社作りをしてきました。自分の中でも景気というのを言い訳にしない。このことはこれまでほぼ30年間変わっていません。

- バイイングを行うときは、なにを考えていますか? 

バイイングの時点では既にモノになっているので、そのモノが良いか悪いかしかありません。例えばこの手帳が1万円だとします。自分たちのお客さんはこれを1万円で買ってくれるか、いやこれは2万円でも買ってくれるよ。あるいはこれ、5千円ぐらいではないかというふうに、モノの完成度とプライスから瞬時にジャッジして、自分たちが扱うのにふさわしいとおもうかどうかというのを決めていくのがバイヤーの仕事ですね。

- 仕事柄よく海外に行かれてセレクトショップやデパートなどをご覧になるとおもうのですが、注目しているセレクトショップやデパートはありますか?

 あらかたみなさんが見ているようなものは見尽しているので、ここは新しいというのはなかなかないです。好みで言えば、ニューヨークのBergdorf Goodman (バーグドルフ・グッドマン) やパリのLe Bon Marché (ル・ボン・マルシェ) といったデパートは好きです。セレクトショップだと、イタリアの田舎に良いお店がたくさんあります。小さい街にすごく良いお店がありまして、ボローニャにあるBarrow (バーロー) というお店や、フィレンツェとラヴェンナにある SPACE (スペース) というお店は、行くたびに勉強になりますね。


Le Bon Marché


 

1/2ページ: アントワープ王立芸術アカデミーでのベルンハルト・ウィルヘルムやクリス・ヴァン・アッシュとの出会い

 

- Royal Academy of Fine Arts Antwerp (アントワープ王立芸術アカデミー) のファッション科の卒業審査員を1996年から2002年までなさっていたということですが、思い出に残っているような出来事はありますでしょうか?



どの年もおもしろかったのですが、強いてあげるとすれば Bernhard Willhelm (ベルンハルト・ウィルヘルム) と Kris Van Assche (クリス・ヴァン・アッシュ) です。Bernhard は、私が96年に最初に審査をしたときはまだ2年生だったのですが、ものすごい存在感を放っていて、彼は絶対大物になるだろうとみんな言っていました。実際にすばらしいコレクションを作っていました。アントワープの良いところは、卒業ショーの中で、1年生から4年生まで全員が服を発表できるところです。Bernhard の2年生から卒業までの作品を見ましたけど、その人の成長のプロセスが分かるんです。だから彼がどう成長したのか、その後どう大きくなっていったか、どこが変わっていなくてどこが変わったというのをつぶさに見ることができました。17、8年前くらいですね。

Kris は98年に卒業したのですが、卒業するときに僕に手紙をくれて、これからどうしたら良いのかと相談してきました。そのころはちょうど私が Hedi Slimane (エディ・スリマン) の Yves Saint Laurent (イヴ サンローラン) を日本に導入したときでした。当時、Hedi はアシスタントがいなくてすべてひとりでやっていて、てんてこ舞いでした。なので、優秀なアシスタントが入れば、彼にとっても、これから絶対伸びるであろうブランドに参加できるアシスタントにとっても、きっと勉強になるとおもったのです。そこで Kris と Hedi の面接をセッティングしたのです。そうしたらすぐに Hedi が Kris を気に入ってくれました。Kris にとっては卒業をしてすぐ仕事が見つかり、Hedi にとっては最初のアシスタントが見つかったわけです。

それから6年間くらい、彼らは一緒に仕事をしました。だから彼らは未だに自分にとって子どもみたいな想いがあります。とくに Kris に関しては、ああいう形で育っていくのを見てやはりうれしいです。Krisは、人間的にものすごくまともな人で、とても礼儀を尽くす人です。2005年に彼自身のコレクションを立ち上げたときも、展示会場に行ったらわざわざ彼の両親を呼んでくれて、「この人が僕を Hedi に紹介してくれた方です」と言ってくれて、彼の両親とも仲良くなりました。それ以降も、彼はショーに毎回両親を呼ぶのですが、その都度私は挨拶をしています。親戚みたいなものですね。

アントワープ王立芸術アカデミーは本当にレベル高いです。毎年60人入学しますが、2年生になると大体30人になる。3年生では15人くらいになって、最近でこそ10人くらいは卒業しますけど、私が7年間審査員をやった中で一番少ないときは4人しかいませんでした。15分の1に減ったということですね。直近だと、4年前の2009年に、久々に審査を依頼されたのですが、おもしろかったです。


Fashion Academy Antwerp's t SHOW 2012 Backstage, Photo: Boy Kortekaas



Fashion Academy Antwerp's SHOW 2012 Backstage, Photo: Boy Kortekaas


(第1回/全4回) 【インタビュー】(株) ユナイテッドアローズのクリエイティブディレクション担当上級顧問 栗野宏文氏が語る、ディレクションや流行予測のエッセンス

(第3回/全4回) 【インタビュー】(株) ユナイテッドアローズのクリエイティブディレクション担当上級顧問 栗野宏文氏が語る、JFWと日本のファッションの最大の特徴

 (第4回/全4回)【インタビュー】(株) ユナイテッドアローズのクリエイティブディレクション担当上級顧問 栗野宏文氏が語る、いま気になるブランドと海外で勝負をする際の注意点

栗野宏文 (くりの ひろふみ)
株式会社ユナイテッドアローズ
クリエイティブディレクション担当 上級顧問

1953年生まれ。主に東京・世田谷で育つ。中学・高校時代は音楽やイラストレーションに熱中。1977年からファッション業界に身をおく。

株式会社ユナイテッドアローズでは、長年にわたりバイヤーやブランドディレクターを担うと同時に、社会潮流を読みディレクションを発信する全社のクリエイティブディレクション担当上級顧問を務める。政治経済・音楽・映画・アートから国内外情勢を投影した時代の潮流(ソーシャルストリーム)を捉えるマーケターとして、またそこからファッションを読むファッションジャーナリストとして数々の連載寄稿・取材や講演を行なう。

国内外におけるファッション文化貢献活動にも参画。Royal Academy of Fine Arts Antwerp (アントワープ王立芸術アカデミー) では度々卒業ショーの審査員も務める。2004年には、英王立芸術大学院「Royal College of Art」からHonorary Fellowship(名誉研究員)を授与。現在日本ファッション・ウィーク推進機構 コレクション事業委員会 委員として東京コレクションの開催運営に関するアドバイザーや、国際的な服地見本市のプルミエール・ヴィジョン(PV)が2009年9月展から新設した、出展社の最新生地を対にした「PVアワード」の初代審査委員メンバーに就く。

UNITED ARROWS LTD.
URL: http://www.united-arrows.co.jp