ポタラ宮からラサの街を眺める  (Photo:©Alt Invest Com)

写真拡大

 当事者でも専門家でもない私がチベット問題を軽々しく論じることはできない。そこでここでは、チベットの旅で感じたことを備忘録風に記しておきたい。

(1) 欧米人のチベットに対するロマン主義的な感情がもっともよく表われているのは、ブラッド・ピット主演の映画『セブン・イヤーズ・イン・チベット』だ。

 この作品は、アイガー北壁の初登頂に成功したオーストリアの登山家ハインリッヒ・ハラー(ナチス親衛隊員でもあった)の自伝をもとにしている(邦訳は『セブン・イヤーズ・イン・チベット―チベットの7年』〈角川ソフィア文庫〉)。

 ヒマラヤ遠征の途中で第二次世界大戦が勃発し、イギリス領インドで捕虜になったハラーは、親友のペーターとともに収容所を脱走し、険しい峠を越えてチベットに逃れる。賓客として宮殿に招かれた2人はそこで利発な少年と出会い、その人柄に魅了される。ハラーは少年に外国語と欧米の学問を教え、少年はハラーに精神世界の奥深さを伝える。ポタラ宮の主人であるこの少年こそがダライ・ラマだった……。

 ハラーの数奇な体験が現在に至るまで多くの欧米人を魅了するのは、「近代社会から隔絶したどこか遠くに文明に毒されていない無垢で高貴なひとたちが暮らしている」という夢物語を現実のものにしたからだ。

 科学が進歩し、生活がゆたかになり、なにもかもが便利になるにつれて“かつてあった純真なものが汚されていく”と感じるのは万国共通で、その幻影を自分たちとは異なる社会に投影して自己満足に耽ることを、パレスチナ生まれの文学者エドワード・サイードは「オリエンタリズム」と名づけて批判した。

続きはこちら(ダイヤモンド・オンラインへの会員登録が必要な場合があります)