スマホのアプリに“時限爆弾方式”のウイルスを埋め込んで大量にばらまき、警察や救急などのインフラを無力化する方法もあるという

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中国によるアメリカへの「サイバー攻撃」問題により、これまで以上に世界中の企業でセキュリティ対策が重要視されている。しかし、サイバー攻撃で狙われる可能性があるのは、大きな組織だけではない。高い技術力を持つ日本の中小企業も警戒する必要があるのだ。

セキュリティ対策を専門に行なう、ラック社の広報担当、飯村正彦氏はこう語る。

「以前、東京都内の町工場から、熟練職人が作った設計図面のデータがすべて盗まれたという事案を耳にしました。設計データを盗めば、技術も、品質も、それがもたらす経済効果も、すべて盗んだのと同じことを意味します。世界的に開放されたマーケットの中で、日本企業が莫大な投資と技術の蓄積によって生み出した製品とまったく同じ機能を持った製品を、技術情報を盗んだ海外の企業が廉価で売りまくる。その一方で本来、世界にはばたくはずだった日本の企業は次々と潰されていく……ということにもなりかねません」

このケースが中国発と特定されたわけではないが、あらゆるコピー製品を生み出している中国の現状を考えると、同じような事例は山ほどあると見て間違いない。

さらに、技術や情報のみならず「人材」までも、サイバー攻撃を利用して流出させられているという。飯村氏が続ける。

「企業の人事情報をウイルスなどで盗み取り、そこから高い技術力を持つ職人、定年退職や早期退職間近のエンジニアなどをピックアップして、自国企業に引き抜く。中国や韓国のメーカーに日本の優秀な技術者が流出するケースが増えていますが、その背景にサイバー攻撃があった可能性も十分に考えられます」

われわれ一般市民だってサイバー攻撃とは無関係ではない。そのツールとなるのが、昨年爆発的な勢いで利用者が増えたスマートフォンだ。

例えば、1000円で売られている人気のゲームアプリをダウンロードし、「ある一定の日時に、自動的に110番通報させる」時限爆弾のようなウイルスを仕込む。それを閲覧者が多いネット掲示板などに「無料で差し上げます」とアップしたら……。

陸上自衛隊システム防護隊の初代隊長で、現在はラック社のサイバーセキュリティ研究所で所長を務める伊東寛氏はこう警告する。

「1万人のスマホユーザーがそのアプリをダウンロードし、同時にウイルスが作動したら、警察の指令室はパニックに陥ります。どれが本当の110番通報かわからず、パトカーを出動させることもできない。交換機もコンピューターで管理されているので、いずれシステムダウンを起こす。そのとき、街はいったいどうなっているでしょうか?」

その日時をあらかじめ知っている者にとっては、やりたい放題の無法地帯になるということだ。

国家や公的機関だけでなく、民間企業、果ては個人まで否応なく巻き込まれる「世界サイバー戦争」。その火ぶたは、すでに切られている。

(取材・文/本誌軍事班[協力/世良光弘]、興山英雄)