生活保護費をギャンブルに使うのはダメ。見つけたら市民は速やかに通報して―。

兵庫県小野市の市議会に、そんな内容の条例(「小野市福祉給付制度適正化条例」)案が提出されたのは2月27日のこと。

この件についての報道がされると、小野市役所には全国から賛否のメール、電話が殺到することに。

「3月6日までに197件のメールと電話があり(内訳は賛成が110件、反対が73件、不明が14件)、市始まって以来の反響です」(小野市・市民福祉部の担当者)

なかでも、小野市が神経を尖らせたのが反対派の声。ギャンブル禁止には「生活保護受給者の自己決定権を損ねるもの」、市民の通報義務には「監視社会を招く」などの強い批判が寄せられている。

だが、小野市によると、この批判は的外れらしい。

「報道が間違っていたのです。条例案は『ギャンブルで浪費してはいけない』と言っているだけで、禁止ではない。生活に影響しない範囲での少額なら、受給者がギャンブルを楽しんでも構いません。通報義務も誤報です。ギャンブルに保護費を使い果たす受給者がいたら、『市まで連絡を』とお願いしているだけ。地域住民による見守り社会をつくりたいだけで、監視社会になるかのような報道は心外」(市民福祉部担当者)

しかし、批判の声が収まる様子はない。3月8日には兵庫県弁護士会が反対声明を出すなど、条例案の撤回を求める動きも起こっている。

ただ、ここで気になるデータが。それは小野市の生活保護受給率。わずか0・29%(120世帯)で、全国平均の約5分の1。トップの大阪市と比べると、実に約20分の1にすぎない。つまり、小野市では生活保護問題は大した問題になっていないのだ。

なのに、これだけ物議を醸(かも)すような独自の条例を、なぜ、わざわざ提案しているのか?

実は、言い出しっぺは小野市の蓬莱務(ほうらい・つとむ)市長。「生活保護費をパチンコに使う人がいる」という市民の声を聞き、昨年4月に条例を検討するよう、市に厳命したことがきっかけだった。

「市長のモットーは先手対応。確かに、小野市の生活保護受給率は低いですが、将来はどうなるかわからない。だったら、前もって対策をしようというわけです。『あちこちから叩かれるかもしれない。でも、国も県も何もしないのなら、批判覚悟でもやる』というのが、蓬莱市長の考えなんです」(市民福祉部担当者)

だが、それは建前で市長のホンネは別にあるとの声も。市内の飲食店主が明かす。

「先日、蓬莱市長に会ったとき、『条例案を出した理由はいろいろだけど、その5割は日本で初めてのことをやって目立ちたいから』と言っていました。市長の口グセは『日本初、全国で一番最初の政策をやりたい』というもの。とにかく目立ちたがり屋なんです」

地元紙の元記者によれば、蓬莱市長は4期14年の名物市長。市職員数を300人から200人にリストラしたり、15歳までの医療費を無料にしたり。その実績から、支持率は100%近いのだとか。

前出の地元紙元記者が語る。

「ただ、14年間も無投票で市長に当選すると、周りはイエスマンばかり。そのため、一部からは“小野市のヒトラー”と呼ばれています(苦笑)。今回の条例案を聞いて、市長はいよいよ天狗(てんぐ)になったのかと思いました。条例が成立すれば、本当に困窮している人が生活保護の申請をためらうケースも出るはず。『日本初をやりたい。目立ちたい』ということにこだわりすぎると、“小野市のヒトラー”だけに暴走しかねないのではと心配しています」

地方自治体が生活保護の適正受給に乗り出すのに異論はない。でも、その動機が市長の目立ちたがり願望というのは……。なんだかなぁ。

(取材/ボールルーム)