世界各国でトップが交代した昨年の国際政治において、最大のインパクトを残した韓国・朴槿恵(パク・クネ)大統領の誕生。朝鮮半島の未来は、彼女の双肩にかかっています。

2012年は世界各国で政権交代や国政選挙が行なわれた歴史的一年でした。先日、東アジアの政治経済を数十年ウオッチしてきたハーバード大学の学者と、「格付けをしよう」という話になりました。確固たる評価基準があるわけではなく、あくまでぼくたちの感覚です。

ふたりの投票を足して2で割った結果は、最下位から順にフランス、ロシア、日本、北朝鮮、中国、アメリカ、台湾、そして1位は韓国。最下位と最上位は意見が一致しました。

韓国の朴槿恵大統領は今年2月25日に就任式を迎えたばかりですが、ぼくたちが高評価を与えた理由は明快です。対立候補の文在寅(ムン・ジェイン)氏と争った昨年12月の選挙戦が大接戦だったこと。投票率が75・8%と高かったこと。そして何より韓国初、いや北東アジア地域で初めて女性指導者が誕生したことです。

韓国大統領選挙には政治のダイナミズムがぎっしり詰まっていた。ハーバード大学でも、この選挙に関する特別シンポジウムが行なわれるなど、大いに注目を集めました。ぼく個人の実感としても、朴槿恵政権の誕生は、アメリカでオバマが初の黒人大統領になったときと同様のインパクトがありました。

朴槿恵を理解する上で重要なポイントのひとつが、かつて韓国に軍事独裁政権を築いた朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領の娘であるという点です。

国際政治の世界では、「軍事政権時代の“闇”をオープンにしなければ、韓国は真の民主国家になれない」という議論があります。多くの韓国の歴代大統領が任期終了後に平穏ならぬ晩節を迎えたあたりにも、この“闇”の一端が垣間見える。この闇を、朴正煕の娘である朴槿恵が白日の下にさらすことで、韓国は歴史を塗り替えるのかもしれません。

先日、ソウルの財界人を相手に講演をしてきたのですが、多くの人たちは彼女の手腕に大いなる期待を寄せていました。

韓国が抱えるもうひとつの重大なイシューが対北朝鮮政策です。昨年末から北朝鮮は事実上のミサイル発射実験や核実験を強行し、韓国世論はシビアな方向に傾いています。短期的には制裁、圧力という方向へと舵を切らざるを得ないでしょう。

しかし、将来的に朴槿恵は南北統一に向け積極的に動く可能性があると思います。ぼくは2年前に初めて韓国を訪れた際、金大中(キム・デジュン)や盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の中で“太陽政策”を仕切っていた数名のキーマンにじっくり話を伺いました。彼らは一様に「朴槿恵は南北統一を進める大統領になる。われわれも進言していく」と意気込んでいました。

ただ、そんな朴槿恵政権の動向は、北朝鮮の背後で糸を引く中国にとっては不安材料です。北朝鮮に崩壊されては困るが、かといって南北統一が実現に向かうプロセスは韓国主導で進む可能性が高く、結果的にアメリカの発言力が大きくなる。結局、現状維持が一番いい―。これが中国の本心なのです。

自国の利益にしか興味を示さないアメリカと中国という両大国が互いに引けない関係である以上、彼らに任せていては長期化は避けられない。だからこそ韓国は、南北統一を掲げるのであれば、アメリカの国益いかんにかかわらず、自ら能動的にリーダーシップをとっていくしかないのです。ソウルで交流した財界人のほとんどが南北統一を支持していたのが印象的でした。

いずれにせよ、朴槿恵率いる韓国の動向は大いに見ものです。近年の外交を見ても、アメリカと中国という大国に挟まれながら柔軟に動いている。少なくとも日本よりはフットワークが軽く、国家戦略も可視化されている。同じく米中の狭間(はざま)にいる日本は、なぜいつまでも“戦略なき迷走”を続けているのか。なぜ日本人はその理由を問おうとしないのか。逆に教えて!!

今週のひと言

北東アジア初の女性指導者が、

南北統一のカギを握っています!

●加藤嘉一(かとう・よしかず)

日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。現在はハーバード大学ケネディスクールフェロー。新天地で米中関係を研究しながら武者修行中。本連載をもとに書き下ろしを加えて再構成した最新刊『逆転思考 激動の中国、ぼくは駆け抜けた』(小社刊)が大好評発売中!