直ちに「使えない子」と考えるのは早計だが

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仕事上、多くの会社の人事担当者とお話しする機会があります。その中で、最近の新入社員について「どこか幼い」「ストレスに弱い」「人間関係の摩擦に耐えられない」という言葉を聞くことが多いのが事実です。

「入社何か月経っても学生気分が抜け切らない」と嘆く担当者もいます。もちろん個人差はありますし、先輩たちにも頼りない人たちがいるのは承知しています。しかし、それでも「未熟」な若者が増えているという傾向はあるのではないかという気がしています。

集団内の葛藤体験に慣れていない「今どきの若者」

一方、臨床の場面において最近問題になっているのが「未熟型うつ」の存在です。職場の些細なストレスがきっかけで気持ちが落ち込み、意欲が出なくなり、会社に来られなくなってしまうケースです。

専門的には「ディスチミア親和性うつ病」と呼ばれ、最近の20代〜30代に多いことが明らかになっています。

病院に行けば「うつ状態」と診断され、療養を指示されるものの、「ストレスから離れて自分の好きなことをしながらゆっくりしなさい」という主治医の助言には忠実に従うことができ、趣味的なことはいつも通り楽しむことができる。

傍から見ると病気で休みが必要な状態とは思えず、「本当に休職が必要なのか」「単なるワガママなのでは」と感じてしまう社員が増加しているのです。

このような社員の増加には、今どきの若い人たちを取り巻く歴史的、社会的背景があると思われます。たとえば以前の子どもたちは、大勢の集団の中で仲間はずれにされないために、たびたび我慢を強いられ、他人と折り合いを付けていくことを学んでいきました。

しかし、少子化やそれに伴う親の養育態様の変化により、子どもたちは保護的な環境下に置かれるようになり、集団内の葛藤体験などを経験することのないまま社会に出てくることが増えたのでは、と考えられます。

「頑張れと言ってはいけない」は半分間違い

とはいえ、彼らを直ちに「使えない子たち」と考えるのは早計でしょう。彼らは個人の能力が劣っているわけではなく、集団への適応能力が十分に発達しきっていないだけです。

「個性」や「自由」と言われて育ってきたのに、社会に入って急に「協調性」や「規律」を求められても、なかなかうまく適応できなくても仕方ありません。

重要なことは、彼らをさまざまな摩擦や葛藤を克服していける成熟した大人に育て上げたうえで、本来的な個性を発揮してもらうという視点です。

このことは、「未熟型うつ」への周囲の対応にも関係してきます。巷では、うつ病の患者に対して「頑張れ」と言ってはいけないという知識が一人歩きしていますが、これは半分は正解であり、半分は間違いです。

確かに、うつの状態がひどいときには、頑張れと励ますことは禁忌です。気分の落ち込みや意欲の減退がひどく、頑張りたくてもできない状態の時には「頑張れ」と声をかけることは好ましくありません。

しかし、ゆくゆくは頑張ることができなければ、一人前の仕事は務まりません。病状が回復し本人が職場復帰したい状態の時には、「無理をさせてはいけない」という保護的な対応だけではなく、本人の頑張りを適切に支援してあげることが求められるのです。

「情緒的共感性」を持った人材育成が急務

つまり、「うつになったらもう使えない、企業では戦力外」ではなく、「うつになったからこそ人の痛みや苦しみを理解でき、自分のストレス徴候を把握して、より打たれ強い人間になった」と経験をプラスに持っていける支援が重要だと思います。

「うつになったヤツに期待しない世の中」から「うつになった経験を生かせる世の中」への転換です。

同じように未熟型社員に対しても、切って捨てるのではなく、彼らを成長させるという視点で企業が接していくことが重要なんだと考えます。

いま、私たちのグループでは、このような「未成熟社会における成長支援」について、メカニズムと対応策について研究を進めています。今年7月には日本産業精神保健学会において、具体的な解決策を含めた提案をする予定です。

上司や先輩も例外ではありませんが、企業においても仕事を通じて、人の痛みの分かる思いやりのある「情緒的共感性」を持った人材を育成していくことが、これからの世の中では大事になると思います。

今回の筆者:吉野聡(よしの・さとし) 筑波大学大学院 社会医学系 助教(精神科医、医学博士、法務博士)。うつ病からの職場復帰と、企業におけるメンタルヘルス不全の予防法務が研究テーマ。東京都知事部局健康管理医、筑波大学附属学校教育局、キリンビール取手工場など多くの職場で産業医を務める。著書に「それってホントにうつ?」(講談社)、「現役精神科産業医が教えるうつからの職場復帰のポイント」(秀和システム)。