どんなビジネスであれ、やるのは人間である。人間と人間がつくった社会がビジネスの舞台なのだから、それらを正しく理解することが働くうえでも生きるうえでも役に立つ。マネジメントのテクニックや財務諸表の見方といった技術はあくまで技術にすぎず、やる気さえあれば簡単に身につけることができる。すぐには役立たない知識こそが人生を豊かにするのだ。

企業や社会のリーダー層に限っていえば、日本は圧倒的に低学歴である。たとえば、国連の幹部登用はドクターかマスターでなければそもそも受験資格がない。海外のリーダー層ではそれが当たり前である。一方、日本では青田買いされた学生がさほど勉強しないまま社会に出てしまう。これでは国際的な競争に勝てるわけがなく、日本の株価が低い根本的な原因がそこにある。教養のない人がリーダーになっても、有効な手の打ちようがないではないか。

これからグローバルで勝負していくには欧米にとどまらず中国やイスラム、ペルシャ等の幅広い知識が必要であり、他方で自国の歴史を知っておかねばならない。人間を理解するにはすべての活動のもとになっている脳の構造を知る必要があるし、同時に感情の発露である愛や戦争についても知っておく必要がある。教養は好奇心の表れともいえ、人間と社会を知れば知るほど世界が広がり、より人生が楽しくなるだろう。

■『定本 想像の共同体』ベネディクト・アンダーソン
現在の世界の枠組みを形成する国民国家がどのようにできたか教えてくれる。人間の歴史や社会、近代を学ぶうえでの必読書。

■『昭和史 1926-1945』半藤一利
いまの日本は第二次世界大戦の廃墟の後に築かれた。なぜ戦争を始め、負けたのか。輪郭だけでもきちんと見ておくべき。

■『クアトロ・ラガッツィ 上・下』小若桑みどり
日本が最も輝いていた時代と暗転していく時代を共に描ききった感動的な作品。世界史の大きな流れの中で日本を捉える。

■『単純な脳、複雑な「私」』池谷裕二
人間の脳がどういう構造を持っており、どう情報を取り込んで人間の個性を形成するかをわかりやすく叙述した名著。

■『曾根崎心中・冥途の飛脚 他五篇』近松門左衛門
男女の愛を抜きにして人間は理解できない。愛情がどういうものかを知るには、恋愛の極致を描いた近松の戯曲がよい。

■『ヘンリー六世』ウィリアム・シェイクスピア
動物たる人間にとって戦いは最も大切なもの。薔薇戦争を描いた本書はシェークスピア最高傑作の一つ。小田島訳が秀逸。

■『三國志逍遙』中村 愿、安野光雅
日本は中国と離れて生きていけない。中国を理解するには日本人に馴染みのある三国志がいい。安野光雅の絵もすばらしい。

■『アンダルシーア風土記』永川玲二
世界のこれからを理解するにはイスラムがどんな世界かを知る必要がある。本書はイスラムの世界をおもしろく読める。

■『王書』フェルドウスィー
忘れがちだが世界の歴史に占めるペルシャの割合は大きい。本書はペルシャにおける古事記、平家物語のような存在である。

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ライフネット生命社長 出口治明

1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業後、日本生命に入社。ロンドン現地法人社長などを経て同社を退職し、ライフネット生命設立に参画。2008年4月より現職。

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(ライフネット生命社長 出口治明 構成=宮内 健 撮影=向井 渉)