もしも科学シリーズ(51):もしも眠れぬ夜が続いたら


初夏のようなさわやかな陽気が続いた。春眠暁(あかつき)を覚えずの言葉通り、通勤電車でも眠たげな人を多く見かける。



ナポレオンは毎日3時間睡眠だったと聞くが、眠らなくても大丈夫なのか?断眠が続くと感覚障害から始まり、錯覚や幻覚、意識の瞬断が起き日常生活すら危うくなる。寝過ぎても健康を害するほど、人間にとって睡眠は大事な役割を果たしているのだ。



■夢の3時間睡眠



睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があり、レム睡眠は身体が眠った状態で動かせないが、脳は目覚めている時と同様に活動している状態を、ノンレム睡眠は呼吸/脈拍/体温が低下し、脳も身体も休息している状態を指す。



レム/ノンレムの比率は、新生児のときはほぼ50:50で、その後は年齢とともにレム睡眠が少なくなっていく。年齢とレム睡眠の割合を大まかにあらわすと、



 ・新生児(0歳) … 50%



 ・3歳 … 25%



 ・14〜18歳 … 20%



 ・33〜45歳 … 18.9%



 ・70〜85歳 … 13.8%



となる。睡眠時間は新生児の16時間に対して70〜85歳では6時間程度に短縮されるが、ノンレム睡眠の比率が高くなるので十分に休める仕組みだ。



断眠の世界記録は、1965年にアメリカ人のランディ・ガードナーが打ち立てた264時間12分だ。断眠開始から2日ほどで、目の焦点が合わず視力の低下が始まる。



3〜5日目にはイライラ、運動機能の低下、記憶力/集中力の低下が顕著にあらわれ、それ以降は幻覚や錯覚、知覚障害、9〜11日目になると眼球が左右バラバラに動く、まとまった話ができないなど、深刻な症状が起きる。



脳波には1〜2秒の微小睡眠が頻繁に記録され、本人の自覚とは裏腹に意識の瞬断が起きていたようだから、この状態で出歩いたら大事故につながりかねない。



11日以上に及ぶこの記録は、いったんはギネス世界記録に認定されたものの、後に健康上望ましくないとの理由で抹消されたと聞く。新たなチャレンジャーが名乗り出ないことを祈ろう。



健康に過ごせる睡眠時間は3時間程度と考えられていたが、これらのデータをもとに、集中力や作業効率を維持するには最低でも6時間は必要とした説が多い。



睡眠時間の短縮は活動時間の延長につながるので、疲労は加速度的に蓄積する。寝ている/起きている時間の比率は6時間睡眠なら1:3だが、4.5時間なら1:4.3、3時間まで短縮すると1:7となり、疲れがとれるヒマもなくなってしまうからだ。



ナポレオンにまつわる睡眠の逸話は、持病の癇癪(かんしゃく)が原因という説が強い。



夜中にも発作を起こし騒ぎ立てたため、起きていたように思われていたが、これは誤解で「眠れなかった」が真相のようだ。



毎日21時間勤務で成し遂げた偉業は、実は癇癪だったと聞くと、何だか裏切られたような気分になる。



■寝る子は育たない



逆に睡眠時間が延びるとどうなるか?新生児のように毎日16時間も眠れば、脳も身体も十分に休まると思ったのだが、かえって健康に悪いというデータがある。



アメリカがん協会によると、睡眠時間と6年後の生存率は逆V字型のグラフを示しているのだ。もっとも生存率が高いのは7〜8時間で、これより短いと生存率は低くなる。



男女ともに高齢者ほど顕著で、特に男性は5時間以下になると生存率は極端に低下する。



休みが増えても生存率が下がるのは興味深い点で、毎日10時間以上寝ると、生存率は8時間睡眠の人の半分以下になってしまうのだ。



過剰な休息が健康を害する例に、廃用(はいよう)症候群がある。長期の入院などで筋肉や関節の機能低下、貧血などの循環器障害、自律神経障害など、休ませ過ぎた身体がナマってしまうのが原因だ。



具合が悪い時は寝るのが一番だが、寝過ぎで具合が悪くなったらどう治せば良いのか。考えると眠れなくなりそうだ。



■まとめ



かのアインシュタインは1日10時間以上のロング・スリーパーだったと聞く。誰にも邪魔されないよう寝室に鍵をかけるほど、睡眠への執着は尋常ではなかったそうだ。



常人の何倍も働く脳が睡眠を欲したのか、それとも眠りながら考えていたのだろうか。凡人の私は、寝過ぎてナマらないようにするのが精いっぱいだ。



(関口 寿/ガリレオワークス)