その霊が成仏せずに幽霊となっているようですね」と断言し、除霊を行っていた姿をテレビで見た記憶がある。

そんなメディアでの派手な取りあげられ方がウソのように、筆者の目の前の入り口は悲しいくらいに静かだ。

はっきり言って怖い……。

クルマごと吸い込まれそうな錯覚に陥るが、意を決して全長約300メートルのトンネルに突入した。

幅はやはり狭く、自家用車でも対面通行は難しいというレベルだ。

坑口に入るやいなや、ガタッ!という音がしてクルマは大きく揺れ始める。

アスファルトがガタガタになっている。

スピードを緩めトンネルの中を見回す。

照明がないため、クルマのヘッドライトだけが頼りという状態だ。

トンネル内部も汚れており、石組みでところどころ暴走族の落書きまで見える。

そしてなぜだかこのトンネル、音響効果はバツグンなのだ。

エンジンの音がトンネル内でこだまし、エンジンが絶叫しているような状態だった。

幸いなことに今回、筆者は何かを「見る」ことはなく、反対側の坑口にたどり着いた。

坑口に生えていた苔は、トンネルでの恐怖も相まってか、先の口のよりも一層深く、ぞっとするような色彩に感じられた。

「伊世賀美隧道」の看板文字までもが、ホラー映画に出てきそうなくらい苔むしている。

一昔前までは、人々の物流を支える道であったというのに。

少しもの悲しい気持ちにもなりながらトンネルを後にした……。

はずだったのだが、トンネルを出てしばらく走った先の道が完全に凍結していたため、夜も更けた時間に真っ暗な旧伊勢神トンネルを通って引き返すことになったのだ。

入り口付近に陽光が差し込む昼間ならまだしも、完全に日が落ちた後だと、暗闇で得体のしれない何かがこちらをうかがっているのでは、という錯覚にとらわれてしまう。

とはいえ、辺りの様子を見ながら徐行運転するのもある意味恐ろしい。

なんせこのトンネル、幅が狭いのに一通ではないのだ。

反対側から大型車が来た場合には道を譲るため、行ったり来たりを繰り返さなければならなくなる可能性だってある。

この旧伊勢神トンネルで度胸を試したいという方、よほどの度胸を用意して、夜に訪れていただくといいだろう。

きっと、「もう二度と度胸試しなどするものか!」と実感できるはずだ。

●information旧伊勢神トンネル愛知県豊田市明川町通リ洞