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やる気のない部下を鼓舞せんと、前向きなビジョンや解決策を提示したのに、ますます組織の状態は悪化するばかり。その理由はいったいどこにあるのか?

■なぜ不満に対してポジティブな言葉が意味をなさないか

「我慢の限界がきそうだ」。金融サービス会社の営業部門を率いるダンは、そう嘆いた。「会社は成長しており、仕事は面白く、ボーナスも今年はかなりいいはずだ。それなのに聞こえてくるのは不満ばかりだ」。

部下に調子はどうだいと聞くと、彼らは決まって顧客について批判的な言葉を口にしたり、仕事量に不平を言ったりした。

「部下たちの間に広がっている後ろ向きの姿勢を変えるにはどうすればいいんだろう」と、ダンは私に尋ねた。私が現在はどのように対応しているのかと質問すると、彼はこう答えた。

「われわれの前にどれだけ大きな機会が広がっているかを説明し、わが社の理念を説いた。どんな目的のために働いているのかを思い出させたいと思ったんだ。でもうんざりだ。彼らを沈滞から引きずり出したい」

ダンの対応はごく当たり前の、直観に沿ったものだが、まったく効果がない。彼は最初、後ろ向きの姿勢に前向きな姿勢で対応しようとした。それがうまくいかないとわかると、彼自身が後ろ向きの対応をするようになった。が、どちらの対応も部下の後ろ向きの姿勢を強めた。

相手の後ろ向きの姿勢に前向きな姿勢で対応するやり方がうまくいかないのは、それが相手に反論することになるからだ。人は自分の感情を否定されるのを嫌う。しかも、そんな説得を試みるのがリーダーである場合はさらに悪い結果になる。そのようなリーダーは部下が経験している現実を把握しておらず、部下の置かれている状況に無関心なように見えるからだ。

もう一つの、相手の後ろ向きの姿勢に後ろ向きで対応する方法がうまくいかないのは、相手の感情を強化するためだ。後ろ向きの姿勢に後ろ向きに対応したら火に油を注ぐだけだ。

■妻との会話で学んだ「共感する」力

では、どうすればいいのか。私がその答えに気づいたのは、妻のエレノアが子どもたちのケンカについて愚痴をこぼし、それに対して私がダンと同じ過ちを犯したときだった。私は最初、子どもは誰でもケンカするもので、うちの場合はさほどひどいケンカではないと、妻を説得しようとした。妻は納得せずにさらに泣き言を言い、私はそれにいら立って妻に負けないくらい不平を言ったのだ。

妻は怒った。が、その後、私に自分が何を求めているのかを説明してくれたのだ。

「私は一緒に考えようと言ってもらいたい。それに、あなたが私のもどかしい思いに共感してくれるかどうかも知りたいの」

実際には、私は妻が感じているもどかしさに共感していたのだが、後ろ向きになるまいとしていたのである。そして、それは彼女とのやりとり全体をさらに後ろ向きにした。

この後、私は思いがけないひらめきを得た。対応そのものではなく、方向を変えるだけでよいことに気づいたのだ。

ダンが部下に対してとったのは、部下に反論する形での後ろ向きの対応(「彼らを沈滞から引きずり出したい」)と、同じく反論する形での前向きの対応だった(「どれだけ大きな機会が広がっているかを説明」)。が、それよりはるかに生産的な対応は、相手に共感する形で後ろ向きの対応をし、共感する形で前向きの対応をすることだ。後ろ向きの人々を前向きにさせる3段階の方法を紹介しよう。

■こうすれば相手はみるみる前向きになっていく

■ステップ1:相手の気持ちを理解し、それを認める

これは容易ではないかもしれない。相手の気持ちをさらに後ろ向きにさせているように感じるかもしれないからだ。だが、気持ちを理解したからといって相手に同意したり、相手の後ろ向きの気持ちを正当化したりすることにはならない。こちらが気持ちを理解していることを、相手に知らせているだけなのだ。

■ステップ2:同意できる部分を見つける

すべてに同意する必要はないが、できれば相手が感じていることの一部に同意しよう。相手の不満の一部に共感できる場合は、どの部分に共感できるかを相手に知らせよう。

ステップ1とステップ2の間、あなたは相手に反論する形でではなく共感する形で後ろ向きに対応していることになる。これによって相手は気持ちを和らげ、心を開く。相手に自分は孤立無援ではないし、上司は実態を把握していないわけではないと感じさせる効果もある。

私は妻に、それほど悲観的になるべきではないと言う代わりに、私も彼女と同じもどかしさを感じていること、また、それにどう対処すればよいか私も途方にくれ、無力感を感じることを伝えた。それは全部本当のことだった。「気持ちはわかるよ」と言うだけでなく具体的に伝えることが必要なのだ。

■ステップ3:相手が前向きな感情を持っている対象を見つけて、その感情を強化する

これは前向きになるよう相手を説得しようとすることではない。相手が示す前向きな感情に関心を示すということだ。相手はおそらくなんらかの前向きな感情を示しているはず。100%後ろ向きな人間などめったにいないからだ。万が一相手が100%後ろ向きな人間だったら、前向きな姿勢を示した人間をあなたが支援しているところをその人物が目にするような状況をつくろう。前向きな感情に対して前向きな関心を示して、現実的な希望を与えるのだ。自分の考えを押しつけるのではなく、相手がすでに持っている前向きな感情をベースにする。

ステップ3の間、あなたは相手に反論する形でではなく共感する形で前向きに対応していることになる。自分が相手を応援していること、前向きな言動を示したら、上司の支援と関心という見返りが得られることを相手に伝えていることになる。下降スパイラルを上昇スパイラルに変えているわけだ。

私自身は妻に対し、子どもをケンカせず遊ばせるのに、これまでどんなことが効果があったかと聞いてみた。彼女は、私たちが子どもたちと一緒に工作をすることで、彼らを前向きにさせたときのことを思い出した。

5分もしないうちに、妻との会話は後ろ向きなものから前向きなものへと変わった。

これら3つのステップをやり通すのは簡単なことではない。私たちは愚痴をこぼす人を否定的に見る傾向があり、その傾向と戦わなければならないからだ。

■ダメ組織が、大逆転した瞬間

私がダンと最初に話したとき、彼は部下の何人かを今にも解雇しようとしていた。しかし、実際、彼はそうせずに、部下の後ろ向きの感情に耳を傾け、それを認めるようになった。そして彼らが不満を口にするのは、実は不安を感じているからだということに気づいた。会社は先ごろレイオフを実施しており、残った者たちもクビになるのではと動揺していたのである。

ダンは君たちは大丈夫だとは言えなかった。不満ばかり言う部下を解雇しようとしていたのだからなおさらだ。代わりに彼は部下の不満に耳を傾け、不安の一部に共感を示した。解雇への不安に対してではなく、仕事が山ほどあるのに人の数は減った状況で不安定な気持ちになっていることに対してだ。要するに、彼らに共感する形で後ろ向きに対応したのである。

その後、会社の成長と雇用の確保に役立っている部下たちの前向きな部分に焦点を当てて賞賛した。賢くリスクをとる、複雑な営業案件について協力する、顧客とうまく協働する、などだ。部下に共感する形で前向きに対応したのである。

ダンは部下の前向きな姿勢に注目し、それを賞賛する機会を見逃さなくなっていた。やがてムードが変わり、チーム全員が協力して、会社の歴史上、最も大口の顧客を獲得したのである。

(ピーター・ブレグマン=文 ディプロマット=翻訳 Getty Images=写真)