注目の社会起業家8組が語る「成功」の定義

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Aquaphytex:日々30万人に清潔な飲み水を供給

Pedro Tomas Delgado | ペドロ・トーマス・デルガド



「世界では約9億人が水問題に苦しんでいる。毎日彼らに清潔な飲み水を届けられるようにするのがぼくらの使命なんだ」。今年27歳になったこのスペイン人の青年は、10年前にある植物を使って化学物質やエネルギーを使わない浄水方法を見出した。いまではスペイン、バハマ、ブラジル、ケニアに浄水設備を設置し、日々30万人に清潔な飲み水を供給している。今後いち早く9億人を救うべく、オープンソース型のビジネスモデルに変えようとしている。

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──会社の使命と利益の関係についてどう考えていますか?



ぼくらの使命は人々に水を供給することであって、自社の技術を守ることでお金を稼ぎたいわけではない。だからこれからはオープンなビジネスモデルにするんだ。



──そのオープンソースのアイデアはいつどこで見つけたのですか?



今回の船の中だよ。メンターや一緒のルームメイトのアドヴァイスをもとに考えたソリューションなんだ。いま、それを実現するために船の中で42人の学生が毎晩ずっと一緒に働いてくれているよ。



──成功を定義してください。



ぼくは、ひとつの使命をもって起業した。それは世界中の人々に清潔な水を供給すること。成功とは、お金を儲けるということではない。自分ひとりの力では成し遂げられないものを実現して、よりよい世界をつくっていくことなんだよ。












Protei:風力で動くロボット船を使ってゴミを回収

Cesar Harada | セザール原田(右)

Gabriella Levine | ガブリエラ・レヴァイン(左)



人類の命の源である海に蓄積される流出油や農業排水、そしてプラスティックはたったいま生産をやめたとしても50年間はそこに残り、生物に影響を与え続けるという。そうしたゴミを風力で動くロボット船を使って回収するという彼らのアイデアは、オープンソースプラットフォームを通じて実現されようとしている。世界中の子どもたちがインターネットで船を操縦して世界の海をクリーンにする。このアイデアはやがて宇宙にも向かうかもしれない。




──成功を定義してください。



成功は結果であって、プロセスのほうが大事。例えば、AやBやCといったアイデアが出てきたとき、結果としてひとつしか実現できないかもしれない。でもほかのアイデアが次の成功に結びつくかもしれないでしょ。(原田)



──いい会社と悪い会社をそれぞれ定義してください。



いい会社は社会に対して何か目的をもって取り組んでいて、そのために必要な雇用などのリソースも社会に提供しようしている。対して、悪い会社とは自己中心的なアプローチで自分の周囲や身近なことだけを見ていて、社会という考え方が狭くなっている会社だね。(原田)



──起業家と社会起業家の違いとは?



「ソーシャル」というのは本当の意味で社会を考えることだと思う。いま話題になっているソーシャルメディアというのは流行語であって、彼らのビジネスはいわゆる「ソーシャルアントレプレナー(社会起業家)」ではない。本来、社会起業家とは社会の利益を中心に考え、そのために起業という形態をとる人のことを指すものなんだ。(原田)



──最もクールな職業は何だと思いますか? また、それはなぜですか?



わたしはジョージ・キャンベルの考え方が好きなの。やりたい仕事が世の中になければ自分でつくる。船をつくり始めたのもそんな思いからだったわ。いろいろなスキルにそれぞれ可能性があり、それがたくさんの成功の機会を生み出すかもしれない。パッションがあればそれは実行可能なのよ。すべての人が成功できるとは思わないけど、わたしはいまのプロジェクトはとてもクールだと思って取り組むことができているわ。(レヴァイン)



──世界の子どもたちにいまいちばん何を教えたいですか?



社会に対して目を開くということ。子どもたちが育つ環境はそれぞれだけれど、そこにある社会にかかわって、いろいろ考えるようになってほしいね。(原田)












Vita Beans:優秀な先生を育てるためのソリューション

Amruth BR | アムルース・BR(中央)

Anand Joshi | アナンド・ジョシ(右)

Shivananda Salgame | シヴァナンダ・サルガメ(左)



いま世界は800万人の教師不足に直面している。優秀な先生を育てることをミッションとして掲げる彼らは、個々の生徒の学習状況を把握できるテクノロジーによってその問題解決に挑んでいる。CEOのアムルース・BRは、「いい会社は、未来のヴィジョンが明確だけど、悪い会社は、よりよい未来をつくることよりもお金を稼ぐことが重要だと考えてしまう」と言う。彼らのヴィジョンは共感を呼び、インド10州で商用採用された実績などにつながっている。




──会社の使命と利益の関係についてどう考えていますか?



船と企業は似ているよ。使命とは会社がどこに向かうかを決めて、利益はその方向に進むための燃料になる。



──いい会社と悪い会社の違いについてはどう考えていますか?



いい会社には、いいチームメンバーが揃っていて、未来をよりよくする明確なヴィジョンがある。悪い会社は、お金儲けが最も重要になっていて、いいチームをつくることや、素晴らしい未来をつくることへの関心が薄くなってしまっている会社だね。



──最もクールな職業は何だと思いますか? また、それはなぜですか?



アーティストとして素晴らしいアートをつくることかな。アーティストという肩書きは、最も素直に伝播力のあるかたちで表現ができる人なら誰にでも当てはまると思ってるんだ。よりよい社会をつくっていくために、何百万人ものマインドセットを変えるには、そういった人たちのやり方がベストだと思う。












Prakti Design:国連にコンロを提供する唯一の会社

Mouhsine Serrar | モーシン・セラール



発展途上国では、コンロの煙で毎年160万人以上が命を落とし、収入の最大40%がその燃料代に費やされている。モトローラで携帯電話をデザインしていたセラールは、その問題を解決するべく、世界中を巡って探求を重ねた末に、インドで起業。いまでは4カ国25万人の台所を支え、国連にコンロを提供する唯一の会社として認められるまでになった。今後の目標は、途上国向けに特化した世界初のグローバルテクノロジー企業になることだという。




──世界の子どもたちにいまいちばん何を教えたいですか?



急ぎすぎず、探求しよう。親が言うことを全部やらなくてもいい。



──起業家と社会起業家の違いをどう考えていますか?



起業家は、働くことでお金を稼いだあとに、そのお金を使って幸せをつかもうとする。対して、社会起業家はより効率的にひとつのステップで幸せを実現する。取り組んでいて幸せだと感じられる社会の課題に立ち向かうんだ。



──会社の使命と利益の関係についてどう考えていますか?



使命は自分たちに幸せにするもので、ポジティヴなインパクトをもたらしてくれる。利益はより多く、そして速く世の中にインパクトをもたらすもので、それによってもっと幸せになっていくんだ。



──もし第2の事業として会社を立ち上げられるとしたら何をしますか?



高い効率性を発揮し、低いコストでつくれる風力発電機を貧しい国々に提供したいな。












Evotech:多くの機材をモバイル化して医療改革を促進

Peter Ueda | ピーター・ウエダ(左)

Moshe Zilversmit | モシュー・ジルヴァースミット(右)



高度な医療機器を簡単に使えるようにできれば、どれだけ多くの命を救えることだろう。彼らの挑戦はノートパソコンにプラグアンドプレイするだけで使える内視鏡の開発に始まり、さらに多くの機材をモバイル化することで医療改革を進めようとしている。「いい企業とは役に立つ存在として人々に尊敬されていること」という彼らの製品は、低価格に抑えられていて、開発途上国はもちろん、へき地や被災地での治療にも役立てられようとしている。




──あなたたちの考える成功とはどんなことですか?



3年前にこのビジネスの“ガレージアイデア”を思いついたんだ(シリコンヴァレーのスタートアップがビジネスを始めたときと同じような状況というニュアンス)。初めて手術を受けたとき、わたしは幸いにも成功して生き延びることができた。そのときに世の中にはいろいろな手術があることを知ったんだ。そして、それがうまくいくことを手助けする方法を考えようと思ったんだ。



例えば、ここにある製品はまだプロトタイプだけど、ラップトップパソコンにUSBケーブルでつなぐだけで簡単に動き、どこにでも持ち運んで使うことができるんだ。使い方は簡単で、将来的にはスコープの部分を取り外せるようにしたりして、改善を重ねていきたい。



──起業家と社会起業家の違いをどう考えていますか?



起業家もビジネスによって何らかの問題を解決しようと考えているけど、社会起業家が目指すのは人々を助けること。その方法のひとつとして、ビジネスをつくるんだ。



──ではいい会社と悪い会社の違いは?



それは尊敬されるかどうかだね。いい企業は世界中の人々に尊敬されている。それは何らかのかたちで人々の役に立つ存在だからでしょう。



──会社の使命と利益の関係についてどう考えていますか?



例えば、手術の技術を高めるというのはひとつの利益だと考えていて、ミッションによって利益の考え方というのは変わってくるものだと思うね。



──最もクールな職業は何だと思いますか?



ぼくがクールだと思うのはレゴデザイナーだね。彼らはピースをひとつずつ組み合わせて、宇宙船や城をつくったり、いろいろな世界をつくり上げることができる。ものすごく夢のある仕事だと思う。



──世界の子どもたちにいまいちばん何を教えたいですか?



どうやって教えたらいいかわからないけれど、大きな夢をもってそれに挑むこと、ジャンプアップすることを教えられればいいね。何かをやりたいと思ったらそれについて常に考えて、それに向かってトライすることが大事だということを知ってほしい。












One Earth Designs:太陽光で動く調理器を開発

Catlin Powers | ケイトリン・パワーズ



彼女はパラボラ状の円盤で集めた太陽光で動く調理器を開発した。それが広まれば、森林伐採やCO2排出による環境破壊を抑えるだけでなく、非効率な家事から女性たちを解放するきっかけにもなる。「エネルギーやテクノロジーをもっとコントロールできれば、サステイナブルな社会を生み出せる」という彼女の信念を支えようと、世界トップクラスの技術をもつ企業が協力。技術と資金の両面から支援を集めることに成功している。




──起業家と社会起業家の違いをどう考えていますか?



社会起業家は、社会の状況を向上させることを目指しているの。人々と一緒に利益を分かち合いたい。それがシリコンヴァレーでの起業とは違うところよ。



──会社の使命と利益の関係についてどう考えていますか?



先ほどの回答とかぶるけど、利益とはより多くの人々と分かち合い、社会で共有できるもの。テックバブルでお金が儲かったから寄付するというのではなくて、社会に還元することがわたしたちのミッションだと思っているの。



──どうしてエネルギーという、とても大きな課題を起業のテーマとして選んだのでしょうか?



中国ではエネルギー問題がとても深刻な課題になっているでしょ。燃料もとても高価。だからそれを手に入れやすくすれば、人々の生活や社会は大きく変わる。そう思ったからよ。



──世界の子どもたちにいまいちばん何を教えたいですか?



世界を変えられるチャンスがあるということを伝えたい。そのために教育はとても必要だと思うわ。








Solar Ear:太陽光で動く補聴器を安く製作

Tendekayi Katsiga | テェンデキエイ・カシンガ



世界に約6億いる耳が不自由な人たちの3分の2は発展途上国で暮らし、それだけで仕事や教育など多くの機会を奪われている。太陽光で動く補聴器を安くつくり、生まれ育ったボツワナだけでなく、多くの人たちの人生をよりよくしたいという彼は、「企業も人と一緒で成長し続けることが成功につながり、社会から得られるアイデアが最も成長させてくれる」とも語る。人々にとっての太陽のような存在になりたいという強い思いこそが、世界を変える原動力になる。




──起業家と社会起業家の違いをどう考えていますか?



社会起業家は社会の問題に立ち向かって新たに仕事を生み出そうとする。アフリカでは会社で働く以前に教育などの問題があり、それを変える方法として、ぼくらのような存在があるんだ。



──成功を定義してください。



成功とは人々と企業が一緒に成長していけること。社会から得られるアイデアは自分たちを変えてくれる。そうやって、この補聴器もつくられたのさ。



──いい会社と悪い会社をそれぞれ定義してください。



いい会社は上を目指して成長できる。それは技術の向上だけでなく、組織のマネジメントを改善したり従業員を増やしたりということも含まれる。悪い会社は力をコントロールできず、結果的に崩壊してしまうような組織だね。



──会社の使命と利益の関係についてどう考えていますか?



ぼくが取り組んでいるミッションは少し複雑なところがある。残念ながら、現状ではぼくたちの製品で得られる利益はそれほど大きくはない。なぜならとても安い製品をつくろうとしているから。利益を上げることは大事だけど、それよりもぼくたちの製品で社会の状況を変えるという目的がもっと大切なんだ。とはいえ、収益との関係を考えるのはこれからの課題だね。



──もし第2の事業として会社を立ち上げられるとしたら何をしますか?



次に始めるとすれば製造業を立ち上げるといったことに興味があるね。Solar Earでプロダクトの面白さを知ったからなんだ。日本はその分野では素晴らしい技術をもっているから、とても勉強になるんじゃないかな。



──世界の子どもたちにいまいちばん何を教えたいですか?



いまは目に見えない、知られざるアイデアを共有して、育てていくことの大事さだね。












Damascus Fortune:排ガスをカーボンナノチューブに変換

Venkatesh | ヴェンカテッシュ(左)

Abhishek Modi | アビシェーク・モディ(右)



「夢は大きくもって、時間をかけて真剣に取り組むべきだ。そうすれば何でも実現することができる」と語るが、実際彼らはその言葉に負けないほど夢のある事業を行っている。産業排ガスや自動車排ガスの炭素含有物を捕捉し、多様な用途をもつ、カーボンナノチューブに変換する仕組みを開発。地球環境を守りながら、自動車、宇宙船、建造物、ノートパソコンなどの製造に利用できるという驚異的な技術に、世界の注目が集まり始めている。




──会社の使命と利益の関係についてどう考えていますか?



企業にはみんながついてこられるような明確な使命と強い目的が必要。みんながそれに注目したとき、きっと利益が生まれる。そうすると使命もまたさらに強化されていくと思うんだ。



──起業家と社会起業家の違いをどう考えていますか?



いい質問だね。社会起業家は社会問題に注目して、起業することでそれを解決に導こうとする。対して、起業家は従業員やクライアントとのかかわりのなかで社会の状況や人々の期待を認識しておく必要はあるものの、製品やサーヴィスが社会問題の解決に向いていなくてもいいんだ。



──最もクールな職業は何だと思いますか?



いまやっている仕事はなかなかクールだと思ってるよ。社会の大きなふたつの課題に対してひとつのプロセスで解決しようとしているからね。世界中を旅するフードライターや、MVPクリケットプレイヤーになるのも悪くないけどね(笑)。



──世界の子どもたちにいまいちばん何を教えたいですか?



大きな夢を抱いて、自信をもって一生懸命それに取り組むように教えたいね。例えばもし空飛ぶクルマとか踊るロボットとかをつくることを夢見ているのであれば、そういったことは十分実現可能なのだということを知ってほしいんだ。時間をかけて、じっくりと取り組み続ければ何でも実現することはできるんだよ。








日本でも以前から社会起業家の存在は知られているが、NPOやヴォランティア組織のイメージが強く、ビジネスとして収益をあげるかたちで運営されているようなところはまだ少ない。



企業が社会貢献事業を設けて活動する例もあるが、その場合も経営目標を掲げて事業を拡大するという発想はないだろう。むしろ、ビジネスでの売り上げと社会貢献は両立しないと思われているのではないか。だが、そんな発想はここにいる社会起業家たちの姿を見れば変わるかもしれない。



世界で注目される社会起業家が集めたプログラム「Unreasonable at Sea」に参加しているメンバーたちは、自分たちが立ち上げたビジネスによって世界をよりよくできると信じている。太陽光を使って調理できるコンロ、インターネットでコントロールできる海のゴミを回収するロボット、ノートパソコンにつなぐだけで使える内視鏡など、事業内容そのものが社会を変える力をもち、なおかつ売り上げもシェアも大企業同様に世界トップを目指すという野心ももっている。



彼らに普通に起業して売り上げを社会に還元するのと、最初から社会起業家を目指す違いはどこにあるのかと問えば、「利益の還元先は企業ではなく社会であること。新しい雇用を生み出し、事業を継続させることも重要で、常に先を見ながら動いているところが、短期間で結果を求められる起業家との違い」だと、異口同音の答えが返ってくる。そして、自分たちの仕事こそが“最もクール”で“最もやりがいがある”ものだとも。



彼らの多くは事業をオープンソース形式で運営しているが、それは自らが成功モデルとなってビジネスモデルを拡げ、あとに続く若い世代を増やすことをミッションのひとつとしているためだ。「自国や身の回りにある身近な問題に疑問を抱き、解決したいと思うならば、それをビジネスにして社会に拡げればいい」と彼らはこともなげに言い、実際に動き始めている。



そんな信念をいちばん強くもっているのは、社会起業家たちを同じ船に乗せて航海するという、“クレイジーなアイデア”を実現させたダニエル・エスプタインかもしれない。彼は、28歳にしてすでに3つのビジネスを立ち上げ、“30歳以下の起業家で最もインパクトある”人物と評される。同じ社会起業家とともに環境も文化も商習慣も異なる世界を体験し、社会に変革をもたらす新たなヒントを掴もうとしている。



彼らが航海を終えて最後の港にたどり着いたとき、もしかしたら世界を大きく変える何かが発見されているかもしれない。







Unreasonable at Sea

約100日かけて世界13カ国を巡る社会起業家プログラム



世界で注目される社会起業家たちと彼らを支えるメンターらがともに船に乗り、世界13カ国を約100日間で巡るプログラム。寄港先ではイヴェントやプレゼンを通じてパートナー探しやリサーチなどを行い、ビジネスをブラッシュアップしていく。最初の停泊地となった日本では、東京と京都でピッチコンテストを含むイヴェントが開催された。







雑誌『WIRED』VOL.7
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年4回発行の雑誌『WIRED』通算7号目。特集は「未来の会社」と題し、これからの「働く」を考える。そのほか、「エル・ブリ」の天才料理人フェラン・アドリアがつくる味の先端科学ラボや、IT界の狂犬ジョン・マカフィーの殺人容疑の全真相、GoogleとFacebookによる「検索」における次なる挑戦など、読み応えのある記事が盛りだくさん。






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