もしも科学シリーズ(49):もしもエアコンを作るなら


日中の暖かさが春の到来を感じさせる時期になった。ただし、今年も猛暑と予測されているので、過ごしやすいのも今だけだ。



もしもエアコンが無い時代に戻ったら、無事にひと夏過ごせるだろうか?打ち水や行水だけでは物足りない。竹で作ったコンプレッサーとアンモニアがあれば、現代的な冷房が作れそうだ。



■手軽な断熱膨張



もしも原始時代にタイムスリップしたり、無人島に流れ着き電気もエアコンもなかったら、暑さをしのぐ方法はあるのか?

気温以下の温度を手に入れるには、雪や氷など低温の物体を用意するのがもっとも簡単な方法だが、ふんだんに手に入る場所なら冷房など必要もなく、逆に暖をとる方法を考えるべきだ。



現実的な方法としては気化熱や吸熱反応が手軽で良さそうだ。



カシミール効果による負のエネルギーや、宇宙の70%を占めるダーク・エネルギーが利用できるかもしれないが、実用化には時間がかかりそうだし、そもそも入手できるか不明なのでやめておこう。



気化熱は、物体が気体になる時に周囲の熱を奪う現象で、肌にアルコールを塗ると蒸発し、冷たく感じるのと同じだ。



水筒にぬれたタオルを巻いておくと、10℃ぐらい下がるのでハイキングでも定番の方法だ。霧吹きで水をまくか、湿ったタオルを部屋中につるしておけば室温は下がるだろうが、気化した水が湿度を高め、室内はあっという間にジャングル状態となる。



不快指数が上がって余計に暑く感じてしまい、カビの原因にもなるので少々難ありだ。



吸熱反応は使い捨て冷却剤のように化学反応の副産物で、尿素と硝酸アンモニウムの組み合わせが代表的だ。



湿度の心配もなく利用できる、反応後の薬品は再利用できないし、純度の高い材料をどれだけ集められるかを考えると、原始時代や無人島ではハードルが高すぎる。



お勧めは断熱膨張で、注射器の先をふさいでピストンを引くと、なかの温度が下がる現象だ。この方法で体積を20倍に膨らませると、30℃の空気を理論上-173℃まで下げることができる。



まず巨大な水鉄砲作りから始めよう。竹の節を抜いて外側の筒(シリンジ)を、木の棒と皮で内側の押子(プランジャ)で何とかなりそうだ。使い方もシンプルで、まずプランジャを押し込んで空気を排出し、その後に水の出る穴をふさぎプランジャを引っ張る。





ただしこの方法は瞬間芸のようなもので、シリンジ内はやがて気温と同じになってしまう。



冷やし続けるなら何度も繰り返さなければならないのだが、空気を20倍に引き伸ばすとシリンジ内は0.05気圧になるので、大気と0.95気圧の差が生じプランジャを引っ張るのを邪魔する。



もし内径10cmのシリンジなら760kg、20cmでは3,042kgのおもりに等しいから重労働の極みだ。おまけにシリンジとプランジャの摩擦が熱になり、冷却効果を低下させるからたまったものではない。



エクササイズマシンのような冷房で、汗をかきながら涼む。ムダの美学にもほどがある。



■液体アンモニアを作る



現代のエアコンや冷蔵庫を手本に、冷媒(れいばい)の気化熱を利用するとどうなるか?一般的なエアコンはフロンを圧縮し、液化してからスプレーのように吹き出す。



するとフロンは液体から気体に戻り、その際に熱を奪うのだ。フロンを作るのは大変そうだから、ふん尿からアンモニアを回収して冷媒にしよう。その昔はエアコンもアンモニアを使っていたから効果は期待が持てるだろう。



先に作った巨大水鉄砲をポンプに改造して、アンモニアを圧縮しながら樽(たる)に入れる。液化するには気温30℃なら1平方cmあたり11.9kg、35℃なら13.8kgの力が必要なので頑丈な樽と腕力が必要だが、液体アンモニアが出来上がれば完成したに等しい。



あとは竹製パイプをつないでアンモニアを噴射するだけだが、大気に解放すると非常に臭い。濃度0.1%程度でも健康に悪影響し、10%以上になると爆発する危険があるから、別の樽に回収するのが良さそうだ。



回収したアンモニアは、元のたるにポンプで戻して再利用する。タンクやパイプの強度が気になるなら銅がお勧めで、熱伝導性が高いので冷却効果もアップする。



鉱石を集めて精錬するので時間はかかるが、原始時代か無人島なら時間は気にする必要はないだろう。



■まとめ



エアコンの消費電力は、およそ9割がコンプレッサーに使われている。冷媒の液化がどれだけ重労働かを物語る数値だ。



この夏も電力がひっ迫するのだろうか。汗だくになって人力エアコンを動かす姿は、あまり想像したくないものだ。



(関口 寿/ガリレオワークス)