もしも科学シリーズ(50):もしも騒音にさらされたら


都会を取り巻く騒音。平成23年度は典型7公害の2位を占め、全国で1万5千件以上の苦情が寄せられたほどだから、被害に悩まされている方も少なくないだろう。





人間はどれだけ大きな音に耐えられるのか?アドレナリンの分泌、上昇する血圧、さらに大きくなれば全身に悪影響が及ぶ。たとえ犬のほえ声でも、体調が崩れるほど人間は音に弱いのだ。





■聞こえない大音量



音の大きさは音圧レベルと呼ばれdB(デシ・ベル)の単位で表される。自然対数(Log)が使われるため計算が少々複雑で、6dBが4倍、10dBは10倍、20dBだと100倍の違いを意味する。



1台で60dBの目覚まし時計を4台に増やすと+6dBの66dB、100台なら60+20=80dBと計算する。



全国環境研究協議会の資料によると、騒音の目安は以下の通りだ。



 ・30〜40dB … ホテルの室内



 ・40〜50dB … 図書館や美術館内



 ・50〜60dB … 銀行や役所の窓口周辺



 ・60〜70dB … レストランや喫茶店内



 ・70〜80dB … セミの声、電車内



 ・80〜90dB … 犬のほえ声、ゲームセンターやパチンコ店内



商業/工業地域でも昼間の基準は60dBだから、セミは100倍やかましいことになる。90dB以上が続くと聴力に支障をきたすため、作業場ではミミ栓など防音保護具の着用が義務づけられる。



犬のほえ声も同レベルだから、ムダぼえしないよう早めにしつけ教室に通わせよう。



騒音にさらされると、人間の身体にはどのような変化が起きるのか?うるささを感じると痛覚をまひさせるアドレナリン、逃避反応に見られるノルアドレナリン、血圧や血糖値を高めるコルチゾールの分泌が促進される。



心機能が活性化されるのと同時に、心筋梗塞(こうそく)へ発展する恐れがあるので、音と言えども油断はできない。さらには唾液中の免疫グロブリンAが増加し粘膜を守ろうとする。どれも騒音をストレスと判断し、身を守ろうと働くのだ。



30〜65dBなら不快感などの心理的影響だけで済むが、90dBに達すると自律神経系へ影響するのと同時に、内耳にある外有毛(がいゆうもう)細胞を破壊し難聴や耳鳴りを引き起こす。



さらに音量が上がり120dB以上になると全身の組織に悪影響が及ぶ。音は空気の振動だから、身体をゆすられているのに等しいのだ。174dbになると0.1気圧の差に相当する。



海抜1,000mの高地へ行き来するのと同じだから、具合が悪くなるのも不思議ではない。



世界一やかましいサイレンは、1952年にクライスラー社が作った空襲警報用サイレンで、30m離れた場所で138dBを記録している。



ジェット・エンジンのそばでも120dB程度なので、その100倍近い音量なら聞き逃す人もなく優秀なサイレンと言えるだろう。



ただし、うるさすぎて作動中に半径60m以内にいると何も聞こえなくなってしまうから注意が必要だ。



お願いだクライスラー。これをクラクションに応用するのだけはやめてくれ。



■特技は大音量



音源に近づけばよりうるさく感じ、離れるほど影響を受けにくくなる。音圧レベルは距離の2乗に反比例するので、例えば音源から1mの距離で60dBなら、2mに離れると4分の1となり、60-6=54dBになる。



音量にまつわる記録を調べてみると、イギリス人男性によるゲップの109.9dB、カナダ人男性の舌打ちが114.2dBで世界一に認定されていた。人間が、セミの100倍相当の音を放つのだから、履歴書に書ける堂々たる特技と言えよう。



残念ながらマイクとの距離が記されていなかったので、1mと仮定して比較してみよう。



空襲警報用サイレンの138dBは30m先での測定結果だから、1mに近づけば900倍、およそ+29dBの167dBとなり、電車内の1億倍のうるささだ。



0.1気圧相当の174dBは、このサイレンのさらに4倍強だから、もはや音ではなく衝撃と呼ぶべきだろう。



逆に30mにそろえると、ゲップは80dB、舌打ちは85dBとなる。数値はずいぶん小さくなったが、それでもピアノやエレクトーン、マージャンのパイを混ぜる音量に匹敵する。



イライラして舌打ちを連発したら、通報されてもしかたがない。生活騒音の目安となる45dBから逆算すると、およそ3,000m離れる必要がある。



もしゲップが出そうになったら、半径3km以内にひとがいないか、すぐに確認したほうが良さそうだ。



■まとめ



機械の作動音をあらわすのに「図書館並みの静かさ」と表現されることがあるが、残念ながら最近の図書館は談笑や携帯の通話に満たされ、真逆の存在になりつつある。



次に静かなのは霊園か墓地だろうか。「墓地並みに静かな部屋」では、小さな子どもが怖がらないか心配だ。



(関口 寿/ガリレオワークス)