TOKYOMX、サンテレビ、KBS京都ほかで放送中の、京都アニメーションの最新作「たまこまーけっと」。北白川たまこをはじめとしたうさぎ山商店街の人々や、南の島からやってきた鳥=デラ・モチマッヅィたちがくりひろげるあたたかくファンタスティックな物語だ。
 その物語中、ちょっぴり異彩を放っているのがカフェ&レコードショップ「星とピエロ」。マスターがセレクトするレコードは、たまこが探す曲のためであったり、その場の雰囲気に合わせていたりで、実に多彩だ。エンディングクレジットで挿入歌として曲名とアーティスト名が紹介されていることから、思わずインターネットで検索してみた、というファンも多いのはないだろうか。
実のところ、マスターがかけるレコードのアーティストはバッハやベートーベン(#8)を除いて?実在しない?。制作サイドの依頼により制作されたれっきとしたオリジナルの楽曲なのだ。
 今回「たまこまーけっと」の音楽制作を統括する山口優プロデューサーに、第9話までに登場したレコード曲について、中村伸一プロデューサーにも同席していただき、詳しく話を伺った。
 
 
架空のアーティストをつくり出す
 
――以前、山田監督にお伺いしたのですが、劇中、マスターのかけるレコードの音楽は、実際のところすべて架空のアーティストで、しかも細かく設定やアーティストのバックグラウンドまで決めたうえで、制作にされているそうですね。
 
山口優プロデューサー(以下、山口)「作業の流れとしては、最初に監督のイメージがあって、それを中村さんが翻訳して、僕がそれをまたかみ砕いて音楽にする、という感じでした」
 
――監督のイメージというのはどの程度のものだったんですか。
 
中村伸一プロデューサー(以下、中村)「劇伴と同じように『このシーンには、こういう曲が合うだろう』というところからスタートしています。例えば第1話だったら、映画のタイトルを例として挙げたり第2話だったら『フレンチポップ』と具体的にジャンル名で言われることもありますし、何となく『○○ぽい音楽』というように漠然と言われることもあります。それをお伝えして、山口さんの方で具体的に音にしていただく、と」
 
――山口さんの作業としては、それを踏まえてまず曲をつくって、あとからより細かい設定を付け加えていくっていう流れになるんでしょうか。
 
山口「いえ、先に設定ですね。それでつくったものが違ったら、また設定を変えたりする。今回はいろいろと細かいところまで追求したんですが、それがおもしろかったんですよ。ぼくは曲をつくる側でもあるし、レコード聴く人間でもあるから、実際につくれそうかっていうことと、レコードとしてあったらいいなっていうことと両方兼ね合わせて、これならできるんじゃない?っていうものをつくっていった感じなんです。作家性を出すということはあまり考えませんでしたね。
 例えば、第1話のケイジ・ノースの場合も、ただそれっぽい曲をつくってもつまんないなと思ったので、出身地の方言とか、歌い方の癖とか、歌詞の内容とか、ライナーに書かれることを前提にあらかじめそういう設定を考えて、それをもとにつくりました。
 第1話と第2話に関しては、60年代初期〜中期の設定と歌モノということで、録音の方法も工夫しています。本編のエンディングに架空のクレジットが出るから、どこまで凝ろうかって考えて。第1、2話はとにかく本気で凝るべきだと。録音も全部ヴィンテージの楽器をレンタルして、オルガンの音が出るシンセなんて今いっぱいあるのに、ほんとにVOXっていう古いオルガンを持ってきてもらって(笑)、ドラムとか、ベースアンプからベース、ギターから全部ヴィンテージにして、録音もモノラル音源にして、マイクセッティングも少ないマイクで60年代に実際にやられていた録音をやったんです。エンジニアさんもそういうのが得意な人を選んで(笑)」
 
――すごいですね……。今回そういうふうに、リアリティある感じでやっていこうという方針はどの段階で決まったんですか?
 
中村「それはもう最初からです。最初に山田監督から劇中でこういうことがやりたいっていうリクエストがあったんです。実在している外国曲とか、昔のヒット曲とかを使うっていうのもあるんですけれども、いろんな事情でそれは難しい、と。じゃあおもしろそうだからつくっちゃいましょう。そして、どうせつくるんだったらパロディ的なものじゃなくて、たまこの世界での60年代の曲、70年代の曲をねつ造しちゃいましょうという発想になって。その時点で、こういうのをお願いするのは山口さんしかいないなと。それでお願いしたという経緯です」
 
山口「アニメでは、つくった音楽って場合によって少ししか使われないし、セリフも入るから、音質的にはそこまでこだわらなくてもいいかもしれなかったんですけど、やっぱりやるからには実際CDで聴いてもわからないくらいの音じゃなきゃ、というつもりでつくってきました。もちろんレコードをかけているシーンなのでレコードの音にしたいんですが、実際は難しいんですよ。レコードの音というのは、レコードという物質にカッティングされてることであの音になっている部分が大きいんですね。特に60年代の音は60年代のカッティングの音でもあるので、再現がとても難しい。そこら辺の音づくりはある程度あきらめも持ちつつ、試行錯誤しながら進めていきました」
 
――マスターがレコードを手に取ってかけるじゃないですか。ちゃんとジャケットも描かれていて、ディテールに対する意識がまたすごいなと思いました。
 
中村「そうですよね。実際どういうジャケがいいのか。これも山口さんが事細かにアイデアを出して、それを元に京アニさんの方で膨らましてもらってつくっているんです」
 
 
Cage NorthMy Love's Like
 
――いくつかの楽曲ついてうかがいたいと思います。まず、1話目のケイジ・ノースですが。
 
山口「ケイジ・ノースは1940年、ロンドン生まれで……」
 
――そこまであるんですか?!
 
山口「ええ。すべての作品に関して1200字のライナーノーツに収まらないくらい、細かい設定をつくってあります(笑)」
 
中村「Blu−rayとDVDの第一巻にケイジ・ノースのCDが付くんですけど、そこにすごく詳細なライナーノーツが付くんですよ」
 
山口「ケイジ・ノースは初期のウォールオブサウンドなんですよね。まだマルチが導入される前の「音の壁」を意識した楽器構成で、実際に一発録音で演奏されてます。ボーカルだけはMAX TUNDRA氏にイギリスで歌ってもらったものを重ねていますが」
 
――本当に詳細な設定が……(笑)。
 
中村「読み応えありますよライナーノーツ。めちゃくちゃおもしろいです!」
 
  
O.S.T.GIRL NEXT DOORZizzania)』
 
――第2話でクレジットされていたこの曲は、どの段階で流れたものですか?
 
中村「『GIRL NEXT DOOR』ですね。最終的にもち蔵がつくったCMあるじゃないですか。あのバックで流れてます。もち蔵が選曲した曲、という設定です」
 
山口「70年制作の青春映画のサントラ」
 
――もち蔵はクラシックな映画も好きなんですね。
 
中村「監督によると、すごく幅広く映画を見る少年でフランス映画とかも高校生のわりには見ている、本物の映画少年ということらしいです」
 
山口「山田監督からのリクエストもけっこうあって、『GIRL NEXT DOOR』というタイトルも監督が付けたんですよね」
 
中村「『それのサントラをつくって下さい』って」
 
山口「でも昔の録音方法を今やるのって大変なんです。打ち込みが使えませんから。もちろんわからない程度に打ち込みも使ってはいるんですけど、メインのところは全部生のストリングスで録っていて。苦労しましたね」
 
――本編では数秒しか流れませんでしたけど、実際の曲の長さはどのくらいあるんですか?
 
山口「ちゃんとフル尺、一曲分です。中村さんからそうしてくれというリクエストだったので。ぼくらは完全にCD用につくっています。アニメーションはどこをどう使われるかってどわからないので、こっちは全部ちゃんとつくる。まとまって一枚になると、すごくちゃんとした曲がそろうようになってますね」
 

HogweedExcerpts from “The Return Of The Drowning Witch”(Part1~Part9)
  
――エンディングによくクレジットされている曲ですね。

山口「これはプログレですね。マスターがプログレ好きという設定で、ああいうおどろおどろしい曲なので、お客さんが来たらいろいろ変えるけど、ひとりでいるときはいつもそれ聴いているという設定の曲です」
 
中村「だからいつもかかっているんですよね(笑)」
 
――設定のお話とは異なりますが、これはどういう発注だったんでしょうか。
 
山口「監督、まだお若いじゃないですか。プログレとかあまり知らないだろうと思ってたんですよね。プログレにもいろいろなタイプがあるけど、まずは松前(公高※作曲家)に任せてつくってもらったんですよ。そしたら監督からNGが出た。『このプログレじゃない』って(笑)。わー、わかってた!って(笑)。そこから先は監督の中のプログレ感に合わせていきました。具体的に言えば、作曲や演奏の複雑さを追究した方のプログレじゃなくて、初期クリムゾンとかピンクフロイドみたいな情念系ですね。いまだに監督がなぜそんなの聴いてたんだろうとは思いますけど(笑)」
 
――マスターがプログレ好きという設定も監督からのものだったということですよね。
 
中村「『星とピエロ』のマスターがああいう感じの人なんで、人物設定からプログレ好きなキャラクターであろうというところからの発注です。で、プログレの中でもダーク系(笑)」
 

ダイナマイトビーンズ恋の歌
 
――そして第9話。ついに判明した、たまこが探していた曲。その答えは、高校生の豆大がつくった「恋の歌」でした。
 
山口「ケイジ・ノースをつくるにしてもそうですけど、とにかく豆大の曲がないことにはそのあとをつくりようがないんです。第1話の鼻歌もつくれないから、最初にこの曲のメロディーをつくりました」
 
――作詞はどのようにされたんですか?
 
中村「初期段階で監督に『詞じゃなくて構わないのでキーワードをください』って書いていただいたものがあるんですけれども、いただいた時点でほとんど詞になっていたんですよね。それを山口さんの方で曲に合わせて組み替えたりして、歌として成立するようにつくっていただいたという感じです」
 
――設定上は豆大が作詞・作曲ということになってるんですよね。
 
山口「というかダイナマイトビーンズ名義ですよね。バンドだからみんなでやったのかも知れない。実際はぼくが作曲で、作詞が山田尚子ですよね(笑)」
 
――豆大役の藤原啓治さんに歌ってもらったわけですが、レコーディングはどんな感じだったんですか?
 
山口「ギターの曲なので、フレーズに開放弦のE(※ ミの音)を使いたかったんです。するとメロディーのいちばん上のところがA(※ ラの音)と高いので、出るのか不安でしたね。藤原さん忙しい方なので、なかなかキーのチェックもできなくて。でも調べてたら高いキーを出して歌ってる曲もあったので『行っちゃいましょう!』って。実際はずいぶん頑張ってもらいました。声質も変えてもらって。高校生のシーンがあったじゃないですか、あのノリで声を出してもらったんです。そうしたら素直でストレートな感じ、若者っぽい感じが見事に出て。違和感なかったですよね」
 
中村「いやあすごくハマりましたね」
 
山口「さすがに役(高校生の豆大)と実年齢が離れてたから、いざとなったらコンピュータで音色変えよう、みたいなことを言ってたんですけど全然そうしなくてよかったです」
 
――設定的なお話ですけど、ダイナマイトビーンズはどこら辺から影響を受けているんでしょうか。
 
山口「監督から具体的なサンプルを上げられていたんですが、それを自分的に解釈して、イギリスのパブロックと呼ばれていた音楽と、その後に来るパンクやニューウェイヴの、そのちょうど間くらいのサウンドを狙ってつくりました。ただ実際作曲や演奏をしているのは、それに影響を受けて自分なりに消化した少年たちですから、上手すぎても格好良すぎてもいけない。歌詞も日本語のストレートなラブソングですし、ある程度のダサさや未熟さあってこその監督の求めていた青春感ですから(笑)。なので、ちょっと変わったことをやろうとしてる青っぽさの部分を若干織り込みつつ、基本はライブで演奏されるラブソングという線は崩さない曲にしました。あと、実はこの曲のもとになっている曲というのもつくっています。それは追い追い明かされる予定です」
 
――他に苦労された点などありますか?
 
山口「アレンジや演奏の下手さ具合は少し難しかったですね(笑)。リアルに下手すぎると映像の邪魔になっちゃいますしね。あと実際の演奏も含めて、機材の設定はかなりリアルにやりました。このくらいの年代のライブだったらこれ、みたいな。実は音よりも作画用にかなり細かい設定が必要で、メーカーやモデルはもちろん、色の微妙な違いやパーツのありなしまで、楽器にものすごく詳しい人に協力してもらってかなり細かい設定をしました」
 
――今回の劇中歌の制作の裏には、とてつもないこだわりがあったんですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。
 



発売中のニュータイプ4月号では、第9話までに登場した劇中歌(7曲分)の設定をコンパクトにまとめて掲載中。1200字のライナーノーツには遠く及びませんが、ぜひチェックしてみてください! 

 

「たまこまーけっと」
毎週水曜日 深夜0.30〜 TOKYO MXほかで放送中
Blu-ray & DVD第1巻3月20日発売
(C)京都アニメーション/うさぎ山商店街