老老介護を描いた『愛、アムール』が教えてくれる究極の夫婦愛【最新シネマ批評】

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【映画ライター斎藤香が、皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画の中から、おススメ作品をひとつ厳選してご紹介します】

今回ピックアップするのは、3月9日公開の『愛、アムール』です。2012年度カンヌ国際映画祭パルムドール賞、第85回アカデミー賞外国語映画賞など多数の映画賞に輝いたミヒャエル・ハネケ監督作。

パリの高級アパルトマンを舞台に、病に倒れた妻を夫が介護する。ただそれだけの映画なのに、そこに夫婦愛と絆を感じさせながら老老介護の終末を描いて、胸をわしづかみにされました。これはもしかしたら、数年後の親の姿であり、自分たちの姿。今、どんなに若くても、いずれこういう時が来る。そんな現実を『愛、アムール』の夫婦は教えてくれるのです。

ジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン)とアンヌ(エマニュエル・リヴァ)は、音楽家の夫婦。教え子のコンサートに行った翌朝、いつものように朝食を食べようとしていました。するとアンヌの表情が止まり、視線が合わず、体が動かなくなるのです。これは病気の兆候でした。

手術は失敗し、彼女は車いす生活を余儀なくされます。アパートの管理人は親切だし、娘(イザベル・ユペール)も心配してくれる。ジョルジュとアンヌは変わりない生活をしようとしますが、彼女の体はどんどん老いていき、自分の力では何もできなくなります。献身的に介護するジョルジュは、幸福な日々を思い出しながら、衰弱していくアンヌを見つめ……。

劇的なことが起こるわけではなく、ただ衰弱していくアンヌをジョルジュは献身的に介護します。ときどき気持ちを切れさせながら……。アンヌを見ていると「老いるとはこういうことか」と考えざるをえません。昨日まで動いていた体が徐々に言うことを効かなくなる。そして介護士とソリが合わずプライドを傷つけられる……。寝たきりになったアンヌが「終わりにしたい」という気持ちもわかります。記者は自分と重ね合わせてしまいました。両親のことが頭をかすめたり、自分もいずれこうなるのだ……と思ったり、正直、胸に大きな鉛が入ったような気持ちに。でもそれは『愛、アムール』という映画が、人生の終末をじっくりリアルに描いているからこそ、見ている者に迫ってくるのです。

ハネケ監督が介護というテーマを取り上げたのは、監督の家族にも同じようなことが起こったことがきっかけだそうですが「これは自伝ではない」ときっぱりと語っています。ただ家族で介護するという理想と、現実的な困難と、介護される側への愛情、家族はこれらの板挟みに苦しむと語っています。大切な家族を介護してあげたい、でも自分の人生は?そう考えるのはエゴ?と、もんもんと考えてしまいました。

 アンヌとジョルジュの物語は、最悪のことは起こりませんようにと思いながら見つつ、でもこのままだとそうならざるをえないだろう……と思わせます。情け容赦ない描き方はハネケ監督ならではですが、生が消えゆく中「愛する」という、かすかな光を見せてくれるのが救いです。

ハッピーになる映画ではありませんが、観客に家族、人生、死を意識させて、考える機会を与えてくれる映画であることは間違いありません。そしてそんな深い想いをもたらせるのは、ハネケ監督の力量もありますが、主演のジャン=ルイ・トランティニャン、エマニュエル・リヴァの演技によるものも大きい。特に老いていくアンヌの生の灯が消えていく姿を演じ切ったリヴァは素晴らし過ぎるほど! 85歳の名演をぜひご覧ください。
(映画ライター=斎藤香)

『愛、アムール』
2013年3月9日公開
監督:ミヒャエル・ハネケ
出演:ジャン=ルイ・トランティニャン、エマニュエル・リヴァ、イザベル・ユペール、アレクサンドル・タロー
(C)2012 Les Films du Losange – X Filme Creative Pool – Wega Film – France 3 Cinema – Ard Degeto – Bayerisher Rundfunk – Westdeutscher Rundfunk


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