高機能繊維事業の工場設備を手がけるエンジニア

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ビジネスパーソン研究FILE Vol.202

帝人株式会社 小林直志さん

数々の繊維関連工場の増産化プロジェクトを手がけたエンジニアの小林さん


■時間とコストを見極めながら、数々の繊維関連工場の増産化プロジェクトを遂行

「エンジニアの仕事を端的に言うなら、事業部がやりたいと考えていることを具現化すること。『こんな製品をつくりたい』という事業部や現場(工場)のニーズをくみ取り、その製品づくりに必要な設備をリストアップし、設計プランやコスト、工期などを見積もって計画書を作成。その提案が通ったら、具体的な設計に入り、設備に必要な機械を手配します。現場と連携しながら設備を建設し、製品を安定的に生産できるようにするのが、エンジニアの主な役割の一つです」

プロジェクトの規模によって、計画から完成まで半年から1年半ぐらいかかるが、仕事の7割はデスクワークで、主に、設備レイアウト計画・設備仕様の確認からスケジュール・コスト管理などの設計業務が中心。小林さんは入社以来、高機能繊維の機械設備のエンジニアとして、自動車部品や光ファイバーの補強材、防護衣料といった幅広い用途に用いられる最先端の素材を生産する機械設備に携わっている。
「繊維をつくる機械設備のエンジニアと聞かされたときは、うれしい驚きでした。なにしろ、繊維関連事業は帝人にとっては創業以来の主幹事業。しかも、最先端素材という新しい分野に挑戦できるわけですから」

初仕事は、2007年5月から9月にかけて参加した国内の繊維関連工場の増産化工事。当時としてはかなり大規模なプロジェクトで、計画はすでに進行中。小林さんは機器の搬入段階からプロジェクトに参加し、工場の建設工事を経験した。
「前職で培ったエンジニアとしての基礎知識や経験は役に立ちましたが、やはり細かい部分はかなり違います。自分の確認不足のためにテスト段階で機械の不具合が生じてしまい、原因はわかるものの解決策がわからなかったときは、かなり悩みました。とにかく現場に何度も足を運んで目の前の問題を観察し、エンジニアの先輩に相談するなどして、ようやく解決。テストランで初めて出てきた製品を見たときは、本当に感激しました」

こうした増産化計画に求められるのは、“早く安く”を実現させること。エンジニアとしては、できる限り時間をかけて完璧な設備をつくりたいが、それでは時間やコストとの折り合いがつかない。
「プロジェクト経験を重ねるにつれて身についたのは、時間やコストの見極めですね。最近は、優先順位の高い確定すべき事項は最初に抑えて、優先順位の低い項目はとりあえず80パーセントで走り出し、最終的に100パーセントに仕上げていけるようにして、効率的な仕事の段取りができるようになりました(笑)」


■自ら手がけたタイ工場が洪水で冠水し、復旧に尽力。現在は、中国のプロジェクトに全力投球

今も記憶に鮮明なのが、自身にとって初めての海外でのプロジェクト。09年に実施した、タイにある帝人グループの繊維工場の増産化工事だ。
「増産化工事は過去の事例のコピーが多いのですが、今回のプロジェクトは、日本とは異なる設備をタイに導入して、日本で生産している製品を再現するという新しい開発案件が含まれていました。新しい開発案件を任される不安はありましたが、それ以上に楽しみで。研究部門からの情報に自分のアイデアを加味してプロジェクトを遂行し、大きな不具合もなく工場を稼働できたことは大きな達成感がありましたし、自信にもなりました」

帝人に入社後、小林さんが最も苦労したのが、実は英語。入社直後に参加したプロジェクトでドイツ製の機械を搬入することになったものの、自分の語学力不足でドイツ人担当者と思うようにコミュニケーションがとれなかったという苦い経験をした。それを機に、小林さんは1年間英会話学校に通い、英語アレルギーを克服した。

タイでのプロジェクトも、現地とのコミュニケーションは英語。業務は日本で行っていたが、メールのやりとりは英語。確認作業の打ち合わせや工事開始後の現場確認などでタイにも数回出張し、英語で交渉を行った。
「現地では、少なからずカルチャーショックを受けました。例えば、日本人なら言わなくてもわかり合えることでも、はっきりと言わなくてはいけない。価値観が違いますから、自分はなぜこうしたいのかをきちんと説明し、納得してもらう必要がある。このプロジェクトを通して“はっきりと意思表示する重要性”を学びました」

09年にタイ工場の増産化工事を担当した小林さんに、11年10月、ショッキングなニュースが届いた。タイで洪水が発生し、自分が手がけた工場が冠水被害を受けてしまったのだ。
「日本のテレビでその光景が映し出されたときは、自分の目を疑いましたね。水が引いた翌2月に現地調査に行き、さびて茶色になった機械を目の前にしたときは、本当に復旧できるのだろうかと途方に暮れました」

数日間滞在して日本に帰国してからは一日も早い復旧を目指して機械部品の調達に力を注ぎ、月に1回のペースで現地を訪問して復旧状況を確認した。タイのグループ会社3社が完全復旧したのは、12年11月のことである。
「思い入れの深い工場だけに、日本にいても気が気ではありませんでしたが、ようやく稼働しホッとしました。タイ人スタッフの中には自宅が冠水被害を受けている方もいるのに、彼らは自宅よりも工場の復旧に力を尽くしてくれた。その行動に日本人マインドに似たものを感じ、よりいっそうタイへの親近感が増しました」

12年からは、タイ工場の増産化に加えて、中国での帝人(中国)商品開発センターの建設工事も担当している小林さん。
「帝人(中国)商品開発センターは、建物自体の美観やオフィスとしての清潔感にもこだわった設計です。これまでは、工場の機械設備重視で、外観を重視した設計など意識したことがありませんでしたから、また新たなことに挑戦できてワクワクしています。タイ人とは異なる国民性に直面し、戸惑うこともありますが、自分の意思をしっかりと伝え、ある程度の強引さを持ってこのプロジェクトをけん引していきたいです」

帝人のエンジニアとなって7年目。小林さんにとっての仕事の醍醐味は、グローバルに送り出している製品づくりの設計に携わっているという実感。設計を通して世界を感じられることが、原動力になっている。
「ゴルフのグローブや普段乗っている電車の座席など、一般には知られていない身近なところに、帝人の製品はたくさん使われています。帝人で働くようになって、ラベルをチェックして会社のロゴマークを探すのが習慣になりました(笑)。エンジニアとしての目標は、『この人に任せれば安心だ』と信頼感を持ってもらえる存在になること。そしていつかは、世界中の人たちが『これはTEIJINの製品だ』とわかる製品をつくる設備を手がけることです」