もし、人生が400m走だったら。

 NTTドコモ「ひとりと、ひとつ。」キャンペーンやサッポロビール「大人エレベーター」シリーズを手がける、広告会社TUGBOATのクリエイティブ・ディレクター・CMプランナー・コピーライターの岡康道氏。岡氏は1956年生まれで、50代後半にさしかかる年齢。どんな世代にも生きる難しさはありますが、岡氏は同世代の難しさを、400m走に例えて、書籍『アイデアの直前』のなかで分析しています。

 岡氏の世代は、学生運動あとの「シラケ世代」というもの。いい大学を出ていい会社に入ってと、シラケながらも黙々と走って、最初の100mを通過したといいます。そこで現れたのがバブルです。「自分がずいぶん速く走っていると感じたが、世界も異常な早さ走っていった」というように、200m地点はあっという間に過ぎました。トラックのカーブに差し掛かると突然狂乱が終わり、リーマンショックとサブプライムが出現。そして、3.11の大震災が起こりました。

 現在は、第3コーナーに位置しているそうで、残りは最後の直線100mのみ。しかし、「彼方にあるはずのゴールが見えないではないか」と岡氏は嘆きます。苦しかった第3コーナーで見えていた僅かなゴールの光が、今は見えなくなっているのです。東日本大震災があったからです。

 「ショックと呼ばれていた第三コーナー地点でさえ、見えていた"それなりの豊かさ"というゴールテープは、あの三月の不幸とともにちぎれてどこかへ行ってしまった。テープを切ることが勝利ではない。しかし立派に走り切ることは勝利にほど近い価値のあることだったはずだ。しかし、今やその"走る"行為そのものが間違っていたのではないかと、問われている。"え?"と僕たちは困惑する。すでにテープを切った先輩たちは、観客席から"走ることへの懐疑"を表明できる。スタート直後の後輩は、レースをやめることもできる。なんなら、別の種目に変えてもいい」

 かつて当たり前のように行っていた人生のレースですが、もはやゴールのない競技となってしまいました。走った後の者は逃げ切り、走る前に者は戦わずに済む。今さら走ることをやめることができない世代の難しさがあるのです。

 400mという変わった表現ではありますが、共感できる人は少なくないでしょう。そして、一度走り出した者たちは、新たにゴールを見つけて設定しなければいけません。あなたのゴールはどこにありますか?



『アイデアの直前 ---タグボート岡康道の昨日・今日・明日』
 著者:岡 康道
 出版社:河出書房新社
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