なぜなら失われた20年による日本経済の退潮はすさまじいもので、現状の構造下での潜在成長率はせいぜい0.6〜0.7%程度と言われる体たらくです。

もしアベノミクスが2%のインフレ率を実現できたとしても、同時に潜在成長力がそのままであったなら、私たち生活者の所得は決して上がらぬまま物価上昇に曝されるという、単に窮乏化を加速させられるだけの結果となり、換言すれば国民から政府への富の移転が起こるだけの政策だったということになってしまいます。

つまりアベノミクスが私たち生活者に相応の豊かさを連鎖させるには、潜在成長力をインフレ率以上に高めること、即ち今の経済・社会構造を抜本的に躍動感あふれる企業活動が出来る環境に転換させなければならないのです。

そのために「三本目の矢」たる成長戦略と呼ばれる、20世紀以来疲弊して不効率を温存する様々な制度改革と自由化を成し遂げて行くことなしに、アベノミクスの成功はあり得ないと言えます。

新内閣がまず勇ましく雄叫びを上げた大胆な金融緩和宣言ですが、それはアベノミクスの単なる序章であり、真の目的に向けた手段に過ぎないということです。

安倍内閣の支持率は70%と、多くの国民が失われた20年からの脱却に向けて望みを託していることがわかります。

ところがおそらくそのうち大多数の生活者が、このたった3カ月間でこれまでひたすら抱え込んでいた預貯金の価値を、2割の円安進行によって世界水準で見れば2割も目減りさせてしまったわけで、果たしてどれだけの人達がそこへの気付きを持っているのでしょうか。

アベノミクスを支持する一方で自分のお金を預貯金のまま抱え込んでいることの大きな矛盾! この事実に気付かぬなら、後で大勢の人達が慄然とするに違いありません。

失われた20年のデフレ時代には、結果的に「cash is king」。

すなわち現預金で抱えていることが正解だったわけですが、日本経済が再生するための必須条件であるデフレ脱却へのアプローチとは、リスクを嫌い、行動を拒んできた人が大きなリスクにさらされる環境への大転換であり、他方で意志と勇気を持って行動する人が報われる時代の到来を意味します。

つまり既に長期投資をやっている人はとっくのとうにデフレからの転換到来を見越して自らお金を働かせていますから、この間の現預金価値減少をしっかり凌駕して、果実がぐっと育っているはずです。

手前味噌で恐縮ですが、セゾン投信のお客様はこの3カ月で大きく資産を増加させているわけで、アベノミクスは行動する人にちゃんと成果をもたらしてくれる社会構造へと日本を転換させることに他ならないと、長期投資家なら顕著に実感できていることでしょう。