『就職難!! ゾンビ取りガール(1) (モーニング KC)』福満しげゆき(著)/講談社。真ん中にどーんといるのが後輩のゾンビ取りガールちゃん。青年は背表紙でひっそりとアミを振っています。

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この人たちの この感じ ゾンビかどうか 微妙だなー
ゾンビじゃなかったら あんまり大きくよけると 失礼な感じになるし……

「アイアムアヒーロー」、「女ンビ」、「ウォーキング・デッド」に「マーベル・ゾンビーズ」など、ゾンビマンガは数あれど、夜道にゾンビに出会って「万が一人間だったら逃げると失礼」と心配するマンガはこれだけ! 「僕の小規模な生活」 「うちの妻ってどうでしょう?」の福満しげゆきのゾンビマンガシリーズの最新作「就職難!! ゾンビ取りガール」がついに発売された。

舞台は、ゾンビが日常的にそのへんをうろついている日本。普通はゾンビが出たら人間を襲ってパニックを起こして社会を崩壊させるものだけど、「ゾンビ取りガール」ではのんびりしていて凶暴でないものが多いため、パニックも崩壊も起こせないまま社会に取り込まれ、人間もなるべく気にせず生活している。ただ、腐りきって動かなくなってジャマだったり、人間にちょっかい出してくる危ないゾンビがいたら、行政が委託した業者が回収しにいく。この「ゾンビ取り」が、とにかく楽しそうな仕事なのだ。

そのあたりを歩いてるゾンビが哀愁ただよってて眺めてるだけで楽しいというのは私だけかもしれないけど、つつくとアアーと怒って、つかまえようとすると腕を振っていやがる程度の知性をもちながら、走れば追いつかれない程度にノロマな直立二足歩行の動物をつかまえるところを想像してほしい。きっと誰でも楽しいと思う。

仕事の歴史が浅くて覚えることも少ないし、道具もやり方も好きに選べる。ベテランは西部劇さながらに投げ縄を操るし、そこまで器用でなければ道具を自作して自分なりのゾンビ取り技術を磨き上げればいい。マンガに出てくる技を取り入れるのだって自由。何をしたって第一人者になれる。

さらに「ゾンビ取り」は人助けだ。腐りきって動かなくなったゾンビの回収でも地味ながら社会の役に立つし、いざ凶暴なゾンビを捕獲しにいけば「助けてくれて ありがとうございます」と助けた子供からお礼を言われるようなヒーローにもなれる。

もちろん危険はある。事故死や病死のゾンビは身体が衰えているから弱いけど、噛まれて感染したものは骨格も筋力も維持されるので力が強くて俊敏で、凶暴なことも多い。噛まれたらもちろん自分もゾンビになる。命に関わるハードな仕事でもある。

ただし、だからこそ社会にうまくなじめなかった人でも入りこむ余地がある。主人公の一人である青年は、ミュージシャン志望だったがパッとせず、なりゆきで零細ゾンビ回収会社「ゾンビバスターズ」に入社。「ゾンビ取りアミ」(刺叉に大きな虫取り網を付けたような道具)を自作したことをきっかけに独自のゾンビ取り技術(マンガ「シグルイ」の技をよくマネしている)を開発して、会社の主力に成長した(このあたりは前日譚の「日本のアルバイト」参照)。

もう一人の主人公の新人バイトの女の子は、黒髪できりっとした顔立ちで、胸も腰もどっしりとした福満しげゆき的美人だけど、「まったくあんた昔から 要領悪いんだから」と姉からいじめられるくらいに引っ込み思案な性格。最初は
「いくらなんでもゾンビ集めてる場合じゃないと思う……私……」
と将来への不安でため息をついているけど、ゾンビ取りに打ち込む青年の姿を見て
「どーせなら私はもっと 動いてるのを捕まえるのを やりたい」
と思うようになり、最初の一体を捕獲した夜に
「もっと ゾンビ 取りてー」
とゾンビ取りに目覚めて、そのうちゾンビの捕獲と聞くと
「かかってこいって感じですよ!」
とガッツポーズをとるほど明るくなり、青年からゾンビ取り術を学んで周囲からも評価され、笑顔でハキハキしゃべるようになっていく。

社会を崩壊させるどころか逆に取り込まれ、なじめなかった人たちが活躍する踏み台にさえなる。こんなに優しいゾンビを生み出したのは、もちろん福満しげゆきのゾンビ愛だ。まだゾンビマンガが少ない2003年から短編ゾンビマンガ「日本のアルバイト」(「カワイコちゃんを2度みる」所収)を描き、2011年にモーニングでその続編(「僕の小規模な生活 6」所収)、そして今回ついに長編のストーリーマンガとして「ゾンビ取りガール」を発表した。きっと足かけ10年、エッセイマンガを描く傍ら、着々とゾンビのことを考えてきたに違いない。その愛は、10ページにわたって文字でびっしりと埋めた「長いあとがき」からもほとばしっている。”その前に、ざっくりとですが、僕なりにですが「ゾンビの歴史」を語らせてくださいよ。”から始まる5ページにわたる「ゾンビの歴史」、続いて語られる「このマンガにおけるゾンビのルール」では、

もうゾンビファンは「ゾンビ中毒」なので「心の静脈」に「ゾンビ注射」を打ち続けなければ生きていけない存在になっていたため、質の悪い、人体に有害なゾンビ注射と知りながら打ち続けてきた歴史があるのです。

「今、ゾンビマンガを描けば、アイアムアヒーローに便乗して、アイアムアヒーローを買った人のうちの何人かは買ってくれるかもしれないんですよ!!」と。僕はさらに言いましたよ。「恋愛ものでもなんでもいいです……ただ……ゾンビだけは出させてください! お願いします!!」って頭下げて言いましたよ。

このマンガのなかの「ゾンビ取りガールちゃん」の作業着がピチピチである件ですが「ワザと胸やお尻を強調したようなマンガを描いているのでは?」と疑われる可能性もあるので、その「言い訳」も考えておきました。

など、福満節満載。ありえないほど長いのに、一気に読んでしまうほど面白い。(tk_zombie)