「読顔」は、大学生でも可能で、2秒で十分ということが判明

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せっかく名刺を交換したのだから、うまく人脈としてつなげたい。そう思う人は多いだろう。しかし、その名刺をもらった相手が本当に人脈に値するのか、それを考えているだろうか。顔の表情筋、姿勢、相手との距離、声のトーン……、一瞬で相手を見抜く鑑定術とは。

■デスクに名刺の山。本当にそれは「人脈」ですか?

「あの人には人脈があるから、何をやっても強い」とか「実力はあっても人脈がないから、今度の企画は他社に負けそうだ」というように、人脈は「ある一定の力を持った人」とのつながり、「ヒューマン・ネットワーク」の代名詞として使われています。

ところが、実際に私たちが初対面で人に会って、まず名刺交換をするときに、この「人脈」における最も大事な要素、「ある一定の力を持つ人」というポイントを、すっかり忘れてしまう傾向があります。

例えば、仕事のつながりで、あるいは異業種交流会やパーティで、会社の周年行事や誰かの授賞式などで、私たちは次々と初対面の人たちに会い、名刺交換をします。

多くの人はパッと名刺をいただいて、「CEO」とか「代表」「部長」「課長」などと、なんとなく「トップ」の実力レベルを示す肩書がついていると、もうそれで安心してしまい、「今日は素晴らしい人脈ができた」などとひとり言をつぶやきながら、会社に戻ってせっせと名前や連絡先を入力します。

その頃には、もらった人の顔と名刺の持ち主がまったく結びつかず、「誰だかわからないけれど、とにかく入力しておこう」と、機械的に作業を続ける場合もあります。きっと誰しも覚えがあることでしょう。

そして、その人に本当にある一定レベルの相手への影響力があるか、社会的な生産性に貢献しているかどうか、という肝心な部分を見落としています。

初対面で、その人が「本当に人脈に値するかどうか」、そこを見抜くことこそが、この厳しい時代の勝ち残り作戦の第一です。

残念ながら日本は2010年、GDP(国内総生産)でも中国に抜かれ、世界第2位の経済大国の座を奪われました。その結果、取引上でも中国や韓国のビジネスパーソンとの名刺交換が多々発生します。

日本人相手でもこれほど不注意なのに、まして外国人の名刺の肩書だけを見て人脈になるかどうかなんて、わかるはずがありません。

「人物評価は紙に頼るな」ということをここで肝に銘じないと、人脈づくりの点でも“Japan bashing”から“Japan passing”、さらに“Japan nothing”に転落しかねません。

そこで、私の専門分野がものをいいます。人間の心理と自己表現との間を研究する「自己表現のサイエンス」です。人が「ことば」で何を表現し、ことば以外の表情・仕草・発声などの「非言語的要素」で何を表現しているのか。特に、ビジネスパーソンのすべての表現には、なんらかの「意図性」が隠されています。人間は自分の意図によって、見せたいところを拡大し印象づけながら、人に会っているからです。

それなのに、最も重要な情報発信媒体である「その人」を見抜かずして、どうして人脈ができるでしょうか。

「“その人”を読み取れ。しかも、短時間で」

これが人脈づくりの鉄則です。

では、「短時間」とは何分か? 何分など、とんでもない話です。

「2秒」です。

これには、私が行った実験の根拠があります。

私の日本における実験のヒントになったのが、アメリカの心理学者ティモシー・ウィルソンの「適応的無意識」(Adaptive Unconscious)の考え方です。

彼は、例えば私たちは、自分に向かって突然トラックが走ってきた場合、右によけるか左によけるかなどと、のんびり考えている暇はない。その瞬間に、過去のあらゆる経験値が作動し正しい方向に避けている。そのときの神経を「適応的無意識」と名付けたのでした。そして、人間が1秒間に視覚から受け取る情報が1万4000要素ほどあることも報告しています。

これを実験したのが、ハーバード大学の心理学者ナリニー・アンバディです。学生たちに、教師の授業風景を撮影した音声なしの動画を10秒間見せただけで、彼らは講師の力量をはっきり見抜いたというのです。動画を5秒に縮め、2秒にしても同じだということもわかりました。

早速私も、自分の担当している日本大学の大学院生7人を選び出し、彼らに1分間で自己紹介スピーチをしてもらったのです。そこからすべての音声要素を消し、たった「2秒」の動画を適宜抽出しました。

この「2秒」の実験について、これまで日本眼科医会、耳鼻科医会などをはじめ、多くの医師に参加していただき、さらには、いくつかの一部上場企業で講演に呼ばれるたびに協力をいただいて、ビジネスパーソンの結果も集計しました。回答者数は、計2000人を軽く超えています。

そこでは、驚くべき結果が出ました。回答者たちは、たった「2秒」でこの7人の個性、「正直」「優しい」「誠実」のほかに「頼りない」「暗い」などを、ピタリと正確に言い当てたのです。しかも、動画を5秒、10秒と延長しても、なんと第一印象は変わらなかったのです。

ただし、1つ条件があります。この被験者たちには「2秒で読み取れるから、しっかり読み取りなさい」と、あらかじめ集中を促したのです。ぼんやり見ていれば、2秒どころか、その10倍の20秒、あるいは1分かけても読み取れないでしょう。

「集中」がポイントなのです。集中して人を見さえすれば、2秒で読み取れる。しかも、音声なしで。なんと恐ろしいことでしょうか。

相手が本当に「人脈に値する人」なのかどうか、目をこらして2秒間、自分の今までの経験すべてを総動員して相手を判断することが可能なのです。

■“Mr.はずれクジ”を15メートル先から読む。ヒントは「ズレ」

前述のように、集中ができない人は往々にして、私が“Mr.はずれクジ”とあだ名をつけている人につかまってしまいます。

例えばパーティ会場で、パワーがあって影響力のある人、その日の主人公などは大体会場の前方、ひな壇近くやマイクの周辺に集まっています。そこにはライトが当たり、その人々の輝く笑顔、活力のある姿勢などが見えて、たくさんの人が集まっています。

一方、会場の入り口などにポツネンと退屈そうに立っている人がいます。あるいは、会場中央に置かれた食事に群らがって、ひたすら口に食べ物を運び続けている人もいます。

もし、あなたがそんな人たちのそばに寄っていったりすると、暇つぶしの餌食になること請け合いです。

また、相手からパッと名刺をいただいて、「おやまあ、これはよく知っている会社の部長である。きっと素晴らしい実力をお持ちだろう」と思ってしまったあなたは、そこで大きな間違いを犯しています。

「部長」と名刺の肩書に書いてある、その人をよく見てください。

なぜ、そんなふうに食べてばかりいるのでしょうか? なぜ、彼のまわりに誰一人いないのでしょうか? なぜ、彼の着ているスーツのジャケットの肩は丸くなり、ヒジの周辺に横皺が寄ったままなのでしょうか? なぜ、その人は猫背のように背を丸めているのでしょうか?

答えは簡単です。私たちの心の中に、「今ビジネスが上り坂であり、おもしろくてしょうがない」というポジティブな気持ちがあれば、それはまず「背骨」に出ます。背骨は1本の真っ直ぐな骨ではなく、頸椎7個、胸椎12個、腰椎5個などのつながりです。人脈と同じように、骨も脊椎の「骨脈」なのです。気を抜くと、この骨脈はぐにゃりと曲がります。「会社がうまくいっていない」「今年いっぱいで定年だ」などと考えていれば、自然と背骨が曲がります。だから、名刺が表しているパワーと背骨が表しているパワーが真逆なのです。

これが「ズレ」です。

姿勢については幸い、相手との距離が15メートル離れていても見抜くことができます。「なんだか元気がなさそうな人だ。もはや落ち目だろう」といった具合です。

さらに、5メートルまで近寄ったところで、相手の顔の表情を詳細に読み取ることができます。約30ある「表情筋」は、気持ちが活気に満ちているときにはよく動くのです。

私の実験室でのデータによれば、二者間の対話中での表情筋は、平均的には1分間のうち28秒動いています。しかし、落ち目であったり、体が疲れていたり、前途になんの希望もないと、無表情(専門的には「ニュートラル」と呼びます)のままの時間はどんどん長くなり、1分間のうち40秒もまったく動かないこともあります。

こんな人の名刺を有り難くいただいて長話をして、なんの役に立つでしょう。これが“Mr.はずれクジ”の典型です。体の姿勢、表情によく表れます。もちろん、歩幅にも出ます。トボトボと小さな歩幅で歩いている人には、未来がありません。

これも私の実験によると、日本人の平均身長の男性で、歩幅60センチがひとつの目安となります。60センチ、あるいは、それ以上でスタスタ歩いているか。それとも、お年寄りや子どものように小さな歩幅でトボトボと歩いているか。これもまた、“Mr.はずれクジ”を見抜く条件になります。

■相手にも、あなたを見抜く権利がある

これくらいのことをしっかり見抜いて、初対面であいさつやビジネストークがきちんとできれば、あなたの人脈はどんどん広がっていきます。もちろん相手にとっても、あなたをどのように読み取るかが問題であり、相手にもまた同じようにあなたを見抜く権利があります。

「たくさん名刺をもらってきたから、やれ安心だ」などと、ポケットの上から丸く膨らんだ名刺ケースを叩いているようでは、前途に望みはないのです。表情筋の動きを読む、あるいは、姿勢を読む。こんなことは、注意さえすれば誰にでもできることですが、さらにトレーニング方法などに興味をお持ちでしたら、『もう、名刺交換はするな。』(フォレスト出版)や『読顔力』(PHP文庫)など、拙著もいくつかご参考になるかもしれません。

そして、通勤の往復で通りかかるガラス戸などに映る自分の姿勢や顔を見ることも、ぜひ習慣化してください。

英語には、「習慣は第二の天性」というおもしろいことわざがあります。

“Custom is the second nature.”

顔の表情や身体動作、姿勢などに気をつかうことは、習慣化すれば誰にでもできることです。しかも一切の資本いらず、1円の出費もかからないのです。失敗しない初対面からの人脈づくりは、この習慣化にかかっています。