日本では支持率も好調な安倍政権ですが、ここアメリカからは、180度異なる側面も見えます。米中両国が抱える“懸念”の正体とはなんなのでしょうか?

安倍内閣が高い支持率を維持しています。「アベノミクス」と呼ばれる金融緩和政策への期待値が高く、円安・株価上昇という傾向が顕著であるためでしょう。確かに、デフレ不況からの脱却は経済成長を取り戻す上で必要なことです。

先月スイスで開かれたダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)に出席した知人たちは、「アベノミクスは注目されていたよ」とぼくに報告してくれました。ただ、中長期的に見た場合、諸外国の安倍政権に対する視線は楽観的ではありません。特に日本を挟むふたつの大国、アメリカと中国の為政者や有識者たちは懸念を抱いているようです。

米中にとっては円高のほうがありがたい、という単純な理由もありますが、懸念の根本にあるのは為替相場の問題ではない。安倍首相の極端なまでの政策・政治姿勢が、彼らを不安にさせているのです。

経済大国復権だ、バブルの再来だ、と騒ぐ日本国内にいると実感がわかないかもしれませんが、日頃外から日本を見ているぼくは何か妙な空気を感じてなりません。政権を奪取した後、特に最近の安倍首相の言動や表情からは、なんともいえない“極端さ”が伝わってくる。

米中の懸念材料の正体は、日本の「右傾化」です。

これは、安倍政権発足後に突然噴出したものではありません。いわゆる“タカ派”の論客だけでなく、ぼくが付き合ってきた米中の知日派の有識者たちも、近年の日本の右傾化傾向に警戒感を募らせている。

もちろん、多くの日本人は「日本が右傾化して、軍国主義が復活するわけないじゃないか!」と思っていることでしょう。

彼らは何をもって「右傾化」と言っているのか? 有識者たちは次のように説明します。

「政治や社会が不安定であるがゆえに、政治家が極めてセンチメンタルな感情や方策を持ち出す傾向にある。国益が感情に妥協し、戦略が民意に迎合する。対外的には強硬に吠えている」

彼らはさらにこう言います。

「第2次世界大戦前の日本の雰囲気とよく似ているようだ。日本が戦前のように再度、制御不能になるのではないかと心配している」

なかには、「パールハーバーを思い出すよ」とまで言う人もいるほどです。日本に住む日本人にしてみれば大げさに聞こえるかもしれませんが、こういう声も存在するのです。

ただし、米中両国が政府レベルで同じ認識を持っているわけではありません。中国政府は、往々にして日本の右傾化への懸念を“陰謀論的に”政治利用する。自国民のナショナリズムを煽るプロパガンダのカードに使っています。

こんな話をしても、まだ多くの人は「時代錯誤もはなはだしい。日本は平和国家だよ」と、耳を傾けないでしょう。しかし、こういうことを真剣に考えるアメリカ人と中国人がいるという事実は、少なくとも知っておかなければならない。政治家は知った上で外交戦略を構築しなければならない。ぼくはそう思います。

経済的にも政治的にも、日本は米中から不安視されている。尖閣問題の処理をめぐっては、ハーバード大学でも「日本はトラブルメーカーで、アメリカの国益を損ねている」と断言する学者や学生が少なくない。ジャパン・パッシングといわれて久しいですが、見て見ぬふりを続ければ、いずれは民間レベルにおいても、米中はおろか世界中から“総スカン”を食らう可能性だってある。

そういうリスクを想定しながら、私たち日本人は未来へと向かっていく必要があるということです。

ちょっと景気がよくなりそうだからといって、浮かれている場合ではありません。日本がそんなに内向きでいいという理由があるのなら、逆に教えて!

今週のひと言

中国のみならずアメリカも、

日本の「右傾化」を懸念しています!

●加藤嘉一(かとう・よしかず)

日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。現在はハーバード大学ケネディスクールフェロー。新天地で米中関係を研究しながら武者修行中。本連載をもとに書き下ろしを加えて再構成した最新刊『逆