もしも科学シリーズ(47):もしもテレポーテーションできたら


離れた場所へ瞬時に移動できるテレポーテーション。SFでは定番の移動手段だが、実現可能なのだろうか?





もしテレポーテーションできたら通勤ラッシュとは無縁に暮らせると思ったが、莫大(ばくだい)過ぎるデータや倫理面に加え、瞬間どころか宇宙が滅亡する前に移動が完了するかも疑問だ。





■1,100万年の瞬間



テレポーテーションは瞬間移動とも訳され、現時点では架空の移動手段だ。光速を超えるワープに似ているが、ワープは空間をゆがめて距離を縮める方法を指す。カーペットの上に置かれた物を取るのに、自分が出向くのではなくカーペットをたぐり寄せるのと同じ発想だから、テレポーテーションとは概念が異なる。



もっとも現実的なテレポーテーションは、人間の構造を調べ、情報化し、それを離れた場所で再構築する方法だ。数々のSF手法を生み出したスタートレック・シリーズでは、人間を非物質化して移動する「転送」が描かれている。



A地点の人間を非物質化して宇宙船に収容、それからB地点に送って物質に戻すという。非物質化=エネルギー化と解釈するなら、宇宙船内のパターン・バッファと呼ばれるタンク作りが最大の課題だろう。なぜなら1gの物質をエネルギーに変えると90兆ジュール、広島型原爆1.4個分に匹敵するからだ。



もし60kgの人を転送すると原爆84,000個分の540京ジュール、300リットルの風呂が4.7億年間・毎日タダで沸かせるエネルギーが収まるのだから、タンクは重責を負うことになる。作品中では転送中にトラブルが起こり、帰らぬ人となってしまうシーンが描かれているが、タンク内で事故が起きれば人間爆弾と化し、宇宙戦艦といえどもひとたまりもない。



危ないぞ転送。体重制限を設けるべきだ。



それでは原子に分解したらどうなるか?形が変化しても重さは変わらないので、移動に必要なエネルギーが減ることはなく、分解するだけ時間のムダだ。そこで、材料となる原子は現地調達することにしよう。送信側の情報をもとに、受信側の紙とインクで再現するファクシミリと同じ原理だ。



まずは解像度の高いMRIで人間を分析し、原子レベルの設計図作りから始める。人間はおよそ60%が水(酸素と水素)で、これ以外の原子とおよその構成比率は炭素(20%)、酸素(8%)、水素(4%)、窒素(3.4%)、カルシウム(1.6%)、リン(1%)、カリウム(0.4%)で、これにミネラルと呼ばれる鉄や亜鉛が加わる。



MRIで原子の種類、量、位置を情報化すれば、その人の設計図の完成だ。あとはこれに従って再構築するだけで、どんなに離れた場所でもその人を再現できるはずだ。



問題は設計図データの保存と移動だ。この方法で人間をデータ化すると、およそ35兆GB(ギガ・バイト)にも及ぶと試算されているので、4.7GBのDVD-Rなら7.5兆枚、4TBのハードディスクでも87.5億台を用意しておこう。



最後に移動先に送信すれば完了だが、家庭用光ファイバの毎秒100MB(メガ・バイト)では1,100万年かかり、瞬間どころの話ではない。だめだこりゃ。次いってみよう。



■からみあう量子



それでは量子テレポーテーションを利用すればどうなるだろうか?量子とは、原子のスピンや電子の位置のように変化し続ける要素があるのだから、物質=状態と考える概念だ。その量子ではテレポーテーションの鍵となる性質があり、2つの原子に同じ周期のレーザー・パルスを浴びせるとつながりを持ち、離れた場所でも一定の関係、例えば反対の状態を保ち続ける。



これを「量子のからみあい」と呼ぶ。



これを利用するなら、まずテレポートする人間と、移動先の同じ原子にレーザー・パルスを照射してつながりを持たせる。次に移動先の原子を、人間の原子と同じ状態にする。これをすべての原子におこなえば完了だ。



人間のからだには原子は何個あるのか?体重60kgの人を、先の原子の種類と割合で計算すると、およそ3.5兆×1兆個になる。これに毎秒1個のペースで「からみあい」を起こすと、すべて終わるのは11.2京年後で、データ化より101億倍も時間がかかる。



11.2京年かかる瞬間移動では誇大広告にもほどがある。実用化は少し先の話になりそうだ。



■まとめ



パソコンでファイルを移動すると、まずコピーが始まり、完了してから元ファイルが削除される。元ファイルがバックアップの役割を果たすので非常に安全な手法だ。



テレポーテーションが実用化されたら同じ手法をとるべきだろうが、誰が、どのように削除するのだろうか。倫理的にどう解釈すべきか気になるところだ。



(関口 寿/ガリレオワークス)