「昨年のサラ・ヘンドリクソン選手の優勝を見てカッコいいなと思っていました。それを自分もできて感動した。今までにはないくらい、一番うれしい」

2月17日、スロベニア・リュブノで行なわれたW杯個人第14戦で、今季の優勝回数を8に伸ばして初のW杯総合優勝を決めた高梨沙羅は、素直に喜びを語った。

女子W杯初開催の昨季は、9戦に出場して総合3位(1勝)。今季は何が変わったのか?

まず挙げたいのは、ジャンプスーツの影響だ。これまであまり注目されることはなかったが、実はジャンプスーツは生地やカッティング、サイズなどによってジャンプに違いを生み出していた。

今季、そのジャンプスーツのレギュレーションが変更されたのだ。スーツによる有利不利をなくすため、昨季までの「体のジャストサイズ+6cmまで」から「+0cm」となった。

高梨が力を発揮し始めたのはそこから。8月からのサマーGPは初戦こそ8位だったが、次戦は2位、9月には2連勝して総合優勝を果たした。

スーツが小さくなって空中で得られる浮力が少なくなると、踏み切り時の正確さをより求められるようになる。さらに、空中でも余分な動きをしないで我慢し続けなければ浮力を失い、早く落下してしまう。この変更がジャンプの基本技術と対応力の高い高梨にとって有利に働いたのだ。

その後、冬を前に「スーツが伸び、消耗が激しい」という理由で「+0cm」から「+2cmまで」と再変更されたが、高梨は「+2cmでも楽な気持ちでできる」と気にしなかった。

その言葉は、早くも11月末のW杯開幕戦の優勝で証明される。さらに第2戦、3戦は着地でテレマークが入れられずに減点されて2位と3位となったが、第4戦、5戦で連勝して総合トップをひた走り始めたのだ。

そして、もうひとつの好成績の理由が、やはり、彼女自身の能力の高さだろう。

なかでも、助走のアプローチ姿勢を理想のポジションで維持できる能力はピカイチ。小さい頃に習っていたバレエで身につけたバランス感覚が、助走の滑りで生かされている。

一般的にスキージャンプは大柄なほうがスピードが出て長いスキー板も使えるので有利だといわれる。だが、152cm、45kgと小柄な彼女は、誰よりも低く構える助走姿勢と、スキー板に足の裏全体で正確に乗る技術で体格差を補っているのだ。

さらに、今季からは助走路の溝を冷却してアイスバーンにするクーリングシステムが導入されたことも追い風になった。乗り方の正確さがより求められるようになったからだ。

その優れたアプローチがあるからこそ、イメージどおりの踏み切り(ジャンプ)ができる。さらに踏み切り時の体のポジションが正確だからこそ、減速することなく短時間で空中姿勢をピタリと決められる。それによって高いフライトラインを生み出し、飛距離を伸ばせるわけだ。

ただ、高いフライトラインは着地時の衝撃が大きく、両足を前後にズラすテレマーク姿勢が取りにくくなる。今季もその差で勝ちを落としている試合はあるが、例えば、W杯総合優勝を決めた第14戦では、2本ともほかの選手よりスタートゲートを下げ、ゲートファクターの得点をもらった上で、テレマークを入れやすい飛距離に抑えて圧勝するという試合運びを見せている。

そんな試合を常にできれば、今の高梨に穴はない。そして、その強さを「今飛べても、来年飛べるかどうかはわからない。ジャンプは少し狂うだけで飛べなくなる難しい競技」と常々口にする謙虚な競技姿勢が支えるはずだ。

(取材・文/折山淑美)