いまや政界のご意見番となった小泉進次郎・自民党青年局長のコメントを聞けば、五輪招致委員会のロビー外交の稚拙さと東京五輪がいかに窮地に立たされているかがわかる。
 「(レスリングが五輪の除外候補になったことについて)まずは残念だ。日本はルール作りへの取り組みが弱い。国際オリンピック委員会(IOC)の日本人理事の数とか、基準やルールを決める骨組みの中に人を入れ、関与していく努力をもっとしないと。外国はすごく力を入れてやりますからね。地道なロビー活動は、政治の世界でも必要だが、スポーツの世界でも政治力ってのは、やっぱりある」

 2020年五輪からレスリングが除外候補の一報に「寝耳に水だ」と天を仰いだ日本レスリング協会の福田富昭会長。日本中があ然とした2月12日のIOC理事会で、マスコミはレスリング除外ばかりを強調したが、実はもっと重要な意図が秘められていたのだ。
 「これで2020年東京五輪の可能性が極めて絶望的になったということです。1964年の東京五輪では柔道が、'88年ソウル五輪でテコンドーが採用されたように、これまで開催都市が希望する競技は優先的に取り入れられてきた。その経緯からしても日本のお家芸であるレスリングは柔道とともに最重要競技。ロンドン五輪で獲得した金メダル7個のうち4個がレスリング。吉田沙保里と伊調馨は五輪3連覇です。もっとさかのぼれば夏季五輪通算130個の金メダルのうち28個がレスリングで獲得したもの。それを踏まえれば、レスリングを締め出すのは、東京開催にNGを突き付けたのも同じジャッジなのです。いま大事なのはレスリングの生き残り策ではなく、いかにして(開催都市を決める)9月7日のIOC総会までに東京招致への流れを取り戻すか。ロビー外交のテコ入れこそが急務なのです」(全国紙社会部デスク)

 レスリング除外に困惑するのはトルコも同じ。
 ロンドン五輪で実施された26競技からなぜ基幹競技であるレスリングだけが除外候補にされたのか。下馬評では人気も競技人口も少ない近代五種やテコンドー、カヌー、ホッケー、さらにはツール・ド・フランス7連覇のアームストロング(米国)が禁止薬物使用を告白した自転車、体罰問題が明らかになった柔道などが候補とされ、レスリングは噂にさえならなかった。

 「結果からすれば、なるほどそういうことか」と語るのは大手広告代理店関係者。
 「レスリングは東京以上にイスタンブール(トルコ)では人気が高く、まさしく国技です。トルコにはオイルレスリング(トルコ相撲)というローマ帝国、ビザンツ帝国時代から伝統を受け継ぐ格闘技があり、年間40ものトーナメントがある。トルコ人レスラーが大相撲に入門したら、おそらく歴史が変わるでしょう。しかし、トルコ政府はレスリングを大事にしており、かつて小泉純一郎首相が要望した際も、海外流出を許さなかったほどです。その成果が五輪の金メダル数で、これまでトルコが獲得した37個の金メダルのうち実に28個がレスリング。それを承知しながらIOCはレスリングを除外するわけですから狙い撃ちも同然。イスタンブールは東京同様に難しくなったということです」