この連載では、自分の存在を「物語」にして「商売」にしていく女を「アキンド女」と名付け、成功していながらも自分の「女」の「物語」を売りにすることをよしとしない「サムライ女」と名付け、紹介している。

ウエノ・カヤマ・ちきりん

 以前、現代の象徴的な「アキンド女」として、漫画家の西原理恵子(以下、サイバラ)、私漫画家の倉田真由美(以下、くらたま)、経済評論家の勝間和代(以下、カツマ)を紹介した(→サムライ女とアキンド女〜3人の“成功者”)

 では一方で、現代の象徴的な「サムライ女」は誰だろうか。

 1人が社会学者の上野千鶴子(以下、ウエノ)、もう1人は精神科医の香山リカ(以下、カヤマ)、そして最後に「おちゃらけ社会派」と自称するブロガーのちきりんだ。

 サイバラ、くらたま、カツマが、恋愛や結婚や離婚や出産までを赤裸々に語る一方で、ウエノ、カヤマ、ちきりんのプライベートを知る読者は少ないだろう。

 ちきりんにいたっては、本名も身元もかくし、トークショーなど写真が表に出る場合には、お面をかぶって(!)登場するくらいである。アマゾンの自著のページでもお面をつけて動画に出ているのだ(自分のアタマで考えよう リンク )

男性名で描く女性漫画家

 彼女達はあくまで、自分達の「本業」のみで勝負しようとする。女性にとっては、「女性」であることがウリになる場合と、「女性」であるために色眼鏡で見られる場合があるからだ。

 そのため、男性名(あるいは性別がわかりにくい名前)のペンネームを使う女性漫画家は少なくない。

 とくに少年漫画や青年漫画の世界では、「女の漫画家か」と思われないように、編集部側から男性名のペンネームを薦められることもあるという。

 例えば「モテキ」がベストセラーになった漫画家、久保ミツロウは、少女漫画家時代は本名で描いていたが、少年漫画に移るときに男性名にペンネームを変えた。

 ほかにも、「鋼の錬金術師」や「銀の匙」の漫画家の荒川弘や、「金田一少年の事件簿」の作画を担当するさとうふみやも、少年漫画を描く男性名の女性漫画家である。

 私が対談している津村記久子も(“ダメ力”のみがき方)、新人賞に応募したときは男性名を使っていたが、デビューに当たって女性名に変えたという。
 
 久保は女性漫画家と知られたあとも、「顔出しをしてもいいことはない」と思っていたという。キャラクターが面白いため、今ではテレビにも出るようになったが、「出たことがよかったかどうか」悩むという。

 私自身も「顔出しはしたくないなあ」「とくにテレビは嫌だな」と思っていたため、草食男子ブーム以降、名付け親として顔出しもして、テレビにまで出るようになって、よかったのか悪かったのか、今でも判断がつきかねているので、その気持ちはよくわかるのだ。

「働かない」選択をしたちきりん

 そういう意味では「ちきりん」というのは、性別すらも超越したペンネームである。

 もともとは彼女が会社員だった時代に始めたブログが「Chikirinの日記」である。

 おちゃらけ社会派と自称するだけあって、硬派なネタもゆるい感じで語り、ブログは毎回「そんじゃーね!」と締めるのだ(ちなみに、「ちきりんぱーそなる」というブログのほうでの締めは「おほほほほー!」と、とことんゆるい)。

 これによって人気ブロガーになり、「ゆるく考えよう」「自分のアタマで考えよう」「社会派ちきりんの世界を歩いて考えよう」の「考えよう」三部作とでもいうべきシリーズがベストセラーになった。

 彼女のアマゾンなどで使われている著者紹介はこうだ。

—— 月150万PVを誇る人気の社会派ブログ「Chikirinの日記」の執筆者
 兵庫県出身。バブル期に証券会社に就職し、その後、米国大学院留学を経て、
外資系企業に勤務。2011年からは“働かない生活”を謳歌しながら、ゆるく生きている。
 旅行やグルメ、日常のあれこれを綴る「ちきりんぱーそなる」ブログも人気 ——

 実際、ちきりんはブログを開始した当初は会社で働いていたが、2011年に会社を辞めて今では「働かない」という選択をしている(ブログを書いたり、本を出すのは、日記を書く延長のようなもので、「働く」ことにはならないのだそうだ)

 会社を辞める理由について、まだ会社員時代だった時代に、対談でこんな風に語っている。

 (対談より)「なぜニートになろうとしているかというと、私はこれまでちゃんと勉強して、ちゃんと学校に行って、ちゃんと就職してきた。中身はおちゃらけ人間ですが、履歴書だけを見ればエリートの部類に入るかもしれません。でもそうではない人生も、ちゃんとやっておいた方がいいと思ったから、ニートになろうと決意しました。

 どんな人生であっても面白いと感じられると思うのですが、1種類しかやらないというのは面白くないと思っていて。とりあえずニートになる前に、失業者になってみますね」(対談→こちら)

 もちろん、この時代にちきりんの環境は恵まれているだろう。

 とはいえ、「まじめにおちゃらけ人間」をやるちきりんの存在は、若い世代や女性にとって、一つのロールモデルになっているのだ。

“女性版・池上彰”で、草食系 勝間和代

 彼女の人気は、社会派として「女性版・池上彰」のような明快さと、「草食系 勝間和代」とでもいうべき脱力感が両立しているところにあるのではないかと思う。

 またちきりんは、女性だからといって「女性として」という視点には安易に立たない。これにより、男性読者の支持も得ているのだ。

 私たちは、どんなときでも「女性として」と思いがちだが、「サムライ女」たちは必ずしもそうではない。

 そして、ちきりんをはじめとするサムライ女たちのように、「女性として」という視点にとらわれない方が、本人も周囲も楽になることがあるのだ。

 彼女たちの存在から、それを学んでいきたい。