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「社長の一日」では恥ずかしい記憶がある。
創業して間もない頃、名古屋ローカルの朝番組で僕の一日をドキュメンタリー仕上げで取り上げられたことがある。要請があったときは死ぬ気でお断りしたが、手を合わせてお願いされたことと、そのディレクターには店紹介でお世話になったことがあるので恥を忍んで引き受ける羽目に。

企画書を眺めて愕然として、引き受けたことを後悔した。
朝昼晩と密着されて山の神と娘も画面にでる菊地家オールスターキャスト出演なのである。
朝は寝室までカメラが入ってきて娘が僕を起こすシーンから始まるのである。
和気あいあいの食事風景。
日本の正しい食事が並んでいる。
味噌汁・海苔・漬物・魚の干物・卵焼き等。玄関の出勤風景。
エンジンをかけるシーンとボロ車が四つ角を曲がるシーン。
店のシャッターを開けるシーン。

当然のことだが、TVクルーは僕の車を追い抜いて店の前で待ち構えている。
店内風景、レジ打ちシーン。お客様へのインタビュー。
なぜこの店が好きかなどと聞いている。

おい、よせよ。サクラではないけど、お客様はディレクターの意に沿うように答えている。
電話のシーン等々恥ずかしさのオン・パレード。
これで終わりではない。
最後に最も恥ずかしいことが待っていた。
娘がピアノを弾くシーンとお父さんをどう思うというインタビュー。
とにかくへとへとに疲れた。
娘のピアノはバイエルンの教則に敗北した残滓として茶の間の隅っこに佇んでいて
猫の昼寝の格好の場所になっている。

この経験則から学んだことのひとつはTVは決して真実を伝えない、ということであった。
似たようなドキュメントを観るにつけ、あの時のことを思い出して苦笑している。
登場した人に大変ですねと声のひとつもかけてやりたくなる。
TVと茶の間、攻守所を変えて逆から眺めると真実が見えるという、これは好例であります。
ところで「僕の一日」の真実は他愛のない平凡な一日です。
煙草をたくさん吸って、コーヒーをがぶ飲みして、メタボを気にしながら飲む
コーラが愛おしく美味しい一日です。
人様に自慢できる一日ではない。

仕事のことは頭から離れることはありませんが、それで報酬を取っているのですから、
あたりまえの話です。
家に仕事を持ち帰るのは長年の習性になっています。
白状すると、朝起きるのは9時くらいです。
10時出勤の事務所なので9時50分くらいに家を出ます。
キー一発でアクセルを一回吹かしただけで事務所に着くくらいの距離です。
社員のことを考えていちばん遅く出勤します。
トップの過剰な率先垂範は時として害になると思っています。


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■プロフィール■ 

菊地敬一
ヴィレッジヴァンガード創業者。

1948年北海道生まれ。
賞罰共になし。
原付免許、普通自動車免許、珠算検定6級 保持。
犯歴前科共になし。

大学卒業後、書店勤めを経て、39歳で独立。
名古屋で、遊べる本屋『ヴィレッジヴァンガード』を創業。
独自のセレクトとPOP、ディスプレイで
「変な本屋or雑貨屋」としての地位を確立し,
396店舗を展開するに至る。