『狙撃の科学』かのよしのり/ソフトバンクパブリッシング
一発で仕留めるスナイパーたちが使うライフル。もし自分がスナイパーになったら、どの銃を選び、どう整備し、どう構え、どう撃つのか? 狙撃に関する知識を科学的に解説したのが『狙撃の科学』。目指せデューク東郷。

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『狙撃の科学』は前提がすごい。
「はじめに」から抜粋しましょう。

「みなさんがどこかの軍の狙撃兵、あるいは『ゴルゴ13』の主人公デューク東郷のような暗殺者、あるいは警察の狙撃隊員、もしくはいままでだれも仕留められなかった山の主のような獲物を仕留めようとしているハンターになったとします」

ハードルが高い。それは考えたこともなかった。
オーケー。ここはロールプレイしましょう。
はい、明日からスナイパーです、準備してね、……と言われてもなんにもわからない人のほうが大多数でしょう。
まずスナイパーライフルってどんなものかわからない。スナイパーライフル基本連射しません、一撃で仕留めるための精密さが要求される非常に特殊な銃器です。
そんな銃器について、どのように選ぶか、どんな弾を使うか、スコープをどう調整するか、などを具体的に解説しているのが、この『狙撃の科学』です。

まずライフルの種類から丁寧に解説。
小型の害獣駆除のバーミントライフルのような超高命中精度のものから、山狩りで獲物をねらう軽量で高威力のマウンテンライフルなど。様々なライフルが用途別に記されています。
「飛行場でコクピットの中のハイジャック犯を射殺」などの場合は、高精度でありつつガラスを抜く重い弾が必要だから7.62mmクラスの弾を使って……と狙撃銃は選択されていきます。
またロシアの有名な狙撃銃ドラグノフは、突撃銃をもった兵士の支援射撃用だった、とかを知るだけでも、何を選べばいいのかの知識につながります。

ライフルの構造についても詳しく解説されています。
面白かったのはエキストラクターというパーツについての解説。
これ何かというと単なる鉄のツメなんです。
弾を撃った後、薬莢が上に飛び出すシーンは映画などでよく出てきますが、あれは薬莢の後ろをエジェクターという棒で突いて、エキストラクターで引っ掛けて上に跳ね上げているから。
単なるツメですが、これがヤワだと全く使えないことに。知らないと気づかない超重要パーツです。

スコープについてはかなり詳しく書かれています。
ぶっちゃけ「スコープは銃より高いくらいのものを選べ」とすら言われているそうです。そのくらい正確さを取るのなら惜しんではいけない。
また10倍で覗けばOKというわけでもない。慣れてないとちょっとしたブレで標的を見失ってしまうからです。

もちろん撃ち方も詳細に載っています。
ライフルを撃つ極意は何と言っても動かないこと。構え方から遠距離射撃の弧、横風の計算なども説明されています。

個人的に面白かったのがハンドローディングの話。
何かというと、空の薬莢に雷管と火薬をいれて、弾丸を取り付けること。
よく見かける下が平らで先っぽがとんがっている、撃つ寸前の状態、実包を作る作業です。
自分で作るの!?とびっくりしたんですが、これ高い命中精度を狙うためには当たり前のことだそうで。ベンチレストというライフル競技では数ミリ単位が求められるのでハンドロードは基本だそうです。
撃った後の薬莢は熱で膨らんでいるのでまずサイズを調整、オイルを塗って雷管を取り付け、火薬をしっかり量って入れます。そして最後にまっすぐ弾頭をはめて完成。
ちなみに薬莢は十数回から数十回まで使えるそうです。あら、意外と頑丈。

その他にも、スナイパーとしてカモフラージュする方法、ライフルの手入れ、実包の種類など、がっちり掲載されています。
普通に生活していたら、まず触れることのない知識満載。
あくまでも「科学」なので、しっかりと計算と実践に基づいた資料が載っています。
写真や図解も豊富。「硝煙のにおい、というのは実は火薬じゃなくて雷管のにおい」なんていう豆知識も山盛りです。
さすがに明日からスナイパーライフルを使って狙撃兵になります、なんて人はいないと思います。
しかしこの本に書かれているのは、一つの点を狙うために人間が考えだし、極め抜いた人たちの知恵の結晶。見えない所で、ミリ単位を狙うため、ありとあらゆる知識力と努力が積み上げられています。
そこから、科学を学ぶ本なのです。

にしても、科学もそうだけど、これ読んでるとスナイパーには精神力とマメさが大事なのは、よーくわかった。
デューク東郷って本当にすごかったんだね……。


かのよしのり 『狙撃の科学』

(たまごまご)