もしも科学シリーズ(46):もしも激辛フードを食べ過ぎたら


寒い時こそ食べたくなる激辛フード。その昔はトウガラシをカイロ代わりに使っていたほどだから、血行促進には打ってつけだ。





もしも激辛フードを食べ過ぎたらどうなるのか?からだが熱く感じる程度ならかわいいものだが、度を超すと粘膜の損傷や胃がんにつながる。過剰摂取が続けば脳や神経にダメージを受け重い疾患に悩まされることになるのだ。



■辛さは痛さ



辛みの代名詞・カプサイシンは、トウガラシ属の植物に含まれる化合物で、炭素、水素、窒素、酸素が原料だ。脂溶性(しようせい)で油やアルコールによく溶けるが、水には溶けにくい性質を持つ。





味の基本は甘/酸/苦/塩/辛の5つと言われているが、生理学的には辛味は存在しない。辛さは味ではなく、刺激にすぎないのだ。カプサイシンの場合、知覚神経につながるカプサイシン受容体TRPV1がその刺激を受け止める。





これは化学物質や熱による「痛み」と同じだから、辛さ=痛さの図式となる。激辛料理を食べると、口の中が痛いほど辛いと言ってしまうが、これでは「痛いほど痛い」と言ったに等しい。もう少しひねりの効いたコメントを用意するべきだ。



カプサイシンの辛さはスコヴィル値であらわされ、値が大きいほど辛い。食品や製品のおよそのスコヴィル値を挙げると、



 ・純カプサイシン(化学合成) … 1,600万スコヴィル



 ・トリニダード・スコーピオン・ブッチ・T … 146万



 ・ブートジョロキア … 100万



 ・ハバネロ … 35万



 ・強力な催涙スプレー … 20万



 ・タカノツメ … 5万



 ・タバスコ(ソース) … 2千



トリニダード・スコーピオン・ブッチ・Tは、2011年にギネス世界記録に認定された世界一辛いトウガラシだ。激辛を売りした1,400スコヴィルの即席ラーメンでさえ体調を崩す人もいるというから、1,043倍も辛いこのトウガラシは拷問道具以外の何ものでもない。



痛さ=刺激と考えると、適量ならプラスに作用する。マッサージや肩たたきと同様に、適度な刺激は血行を促進するので、寒い季節や冷え性には有り難い存在だ。血流の増加は胃粘膜の保護にも役立ち、胃弱や食欲不振を改善する働きもある。



■「からい」は「つらい」



カプサイシンを過剰に摂取するとどうなるか?辛さは痛さだから、どれぐらいの痛みに耐えられるのかに等しく、プラスよりもマイナスに作用し始める。



血行が良くなり汗をかく程度なら問題ないが、それを超えると粘膜を損傷し、内臓疾患につながる。普段から大量に摂取する人は、胃がんの発生率が1.7倍に上昇するとのデータもあるほどだ。



アドレナリンも重大な問題だ。辛さを感じると副腎からアドレナリンが分泌され、痛みから脳や神経を守ろうとするのだ。



事故やケンカで極度の興奮状態になると痛みを忘れ、ケガに気づかないのもアドレナリンのおかげで、興奮状態がある種の気持ちよさにつながるのだが、心拍数や血圧、血糖値が上昇し身体への負担は大きい。



多量に分泌されると脳にダメージを与え、睡眠障害やパニック障害につながる。カプサイシンは引き金に過ぎず直接作用するわけではないが、激辛フードで病気になっては、これこそ痛い話になってしまう。



それでもさらにカプサイシンを摂取すると、マイナスの作用しか果たさなくなる。マウスに経口投与すると、体重1kgあたり47,200μg(マイクロ・グラム)でLD50(50%致死量)となり、静脈に注射では400μg/kgで危険が迫る。



これを体重60kgの人間に当てはめると、食べた場合は2.83g、静脈に入るとたった0.024gで生命の危機にさらされる計算になる。香辛料なのか毒なのか分からなくなってきた。



ただしこのようなことは、現実的には起こり得ない。料理に使われるタカノツメを例にすると、カプサイシンの含有率はおよそ0.17%だから、約1,665gを一気食いするのに相当する。



この光景はもはや食事とは呼べず、人体実験にほかならない。それよりも、カプサイシンが着いた手で顔や目に触れ、炎症を起こす方が現実的な心配だ。



子(し)いわく、中庸(ちゅうよう)の徳たるや、それ至れるかな。なにごとも節度が重要だ。



■まとめ



「痛さ」「単位」で検索するとハナゲがヒットする。鼻毛を抜いた痛みを基準に1ハナゲ、2ハナゲと表現すると記されていたのだが、これはまったくのジョークだ。



こんな愉快な単位なら、症状を訴えるだけで痛みが和らぎそうだから、ぜひ採用してほしいと思うのは私だけだろうか。



(関口 寿/ガリレオワークス)