80人の組織を統括し、創薬を支える臨床検査をコーディネートする

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WOMAN’S CAREER Vol.104

三菱化学メディエンス株式会社 今田貴子さん

【活躍する女性社員】働く女性のパイオニアとして活躍し続ける2児の母である今田さん


■「働き続けたい」という思いとパイオニアとしての責任を胸に歩んできた

病気の診断に欠かせない血液や尿などの診断検査。医療機関で行われている約4000種類に及ぶ診断検査を受託するとともに、検査に用いられる診断検査薬・診断検査機器の開発・製造・販売などを行っているのが三菱化学メディエンスだ。日本唯一の世界アンチ・ドーピング機構公認検査機関でもある同社は、これらの「診断検査事業」に加えて医薬品メーカーの新薬開発時の各種試験における検査・分析・レポーティングをサポートする「創薬支援事業」を2大事業として展開している。

創薬支援事業に携わっている今田さんにとって、三菱化学メディエンスは5社目にあたる会社。新卒入社から現社に至るまでに複数回、企業統合や事業撤退を経験した。それでも必ず再編後の組織で必要とされてきたのは、新薬開発における信頼性保証のスペシャリストとして知識・経験を蓄えてきたからだった。

信頼性保証業務とは、新薬開発において非臨床試験(※1)が実施基準通りに行われているかどうかを第三者の立場から監査する業務のこと。この業務に今田さんが携わるようになったのは社会人3年目、医薬品の研究開発に携わっていた時。非臨床試験の一つである安全性試験(※2)の実施基準として世界各国の医薬品メーカーが準拠していた基準「GLP(Good Laboratory Practice)」が日本にも導入されることとなり、GLPで設置が義務づけられていた信頼性保証部門の立ち上げを任されたのだ。
「ちょうど入社以来担当していた仕事に脂が乗ってきた時期。それにもかかわらず前例のない仕事を一人でやることになり、まさに青天の霹靂(へきれき)でした。GLPが定める基準をすべて満たした組織や試験機器の管理方法、標準作業手順書など信頼性保証の仕組みを整え、厚生労働省の調査でA評価を取得することが使命。A評価を取れなければ作成したデータや資料が新薬の申請資料として採用されず、新薬申請が遅れてしまう可能性もあり、プレッシャーの中手探りで始めました」
※1 培養細胞や動物を用いて新薬の候補化合物の品質や有効性、安全性を検証する試験のこと。多種多様な試験を経て、ヒトで検証する臨床試験(治験)の段階に進む。
※2 候補化合物を実験動物に投与したのちに特定のタイミングで解剖し、各種データを取得して候補化合物の安全性を検証するもの。

今田さんは関連書籍や資料を調べては業界団体の勉強会に参加し、同じ状況にある他社の担当者と情報交換をして不明点を解決。同時に監査対象となる部署の業務内容を把握し、責任者に適した人材の条件や組織体制案、標準作業手順書の項目案を作って関係部署と調整しながら組織体制を整えていった。そうして着手から3年後、無事にA評価を取得。そのことを「とても大きな自信になった」と振り返る。その後数回にわたり企業統合や事業撤退に直面したが、いずれの場合も経験を買われてグループ内の関連する組織・企業に籍を移し、GLP体制の立ち上げに携わることに。1〜2年かけて組織を立ち上げてA評価を得た後は、監査対象となる部署の試験手順やデータ・記録類の検証、担当社員へのヒアリングなどを通してGLPから逸脱した試験を行っていないかどうかを検証する信頼性保証業務に従事した。

しかし、信頼性保証業務に携わって25年を超えるころには閉塞感を感じるようになってきたという。
「それほど苦労や努力をせずにこなせるようになってしまっていましたし、叩き上げで取り組んできた仕事ですから、どんなメンバーと働いても最も経験や知識を持っているのは私という状況。メンバーの中に私を超えてやろうという気概のある人も現れず、このままでは私にとっても組織にとってもよくないと感じるようになったのです。定年まで10年あまり。ほかにもできることがあるんじゃないかと考えていました」

そんなとき、社会人29年目に任されたのがCLSプロジェクト推進部長の職だ。CLSとは、セントラルラボサービスの略で、治験に必要な臨床検査とその周辺の関連業務を受託し、コーディネートする事業。受託した検査を円滑に進めるべく、案件ごとにスタディコーディネーター(業務推進担当者)と呼ばれる社員が医薬品メーカーの要望を精査し、採血管など検査に必要な器具の選択や治験を実施する医療機関から自社の臨床検査部門までの検体の搬送手続き、報告書の形式の擦り合わせ、スケジューリングなどを行い、関係部署と連携・調整する。治験1案件にかかる期間は短くて半年、長ければ3年以上。常時450件あまりの案件を約80名のメンバーで分担して進める。

任された仕事には前向きに取り組むことを信条としていた今田さんだが、それまでは経営層の直下で働くことが多かったため、「部長として何をすべきかまったく想像できなかった」という。そこで上司に一からマネジメントを教わり、自身でも日夜考え続けるとともに現場の仕事を最低限把握するべく勉強を重ねた。
「部長の役割は、事業や組織のあるべき姿を描き、現状とのギャップを課題ととらえて解決すること。そのために、あるべき姿や課題解決のためにやるべきことを自分の方針としてメンバーに訴え、取り組みの進捗状況を日夜チェックするのです。これらを理解し実行できるまで1年ほどかかりました。今は掲げた目標を達成できたときや、お客さまから難しいご要望を頂いた際に皆で知恵を絞って実現できたときには、この仕事をやっていてよかったと感じます」

目下の重点課題は、国際共同治験のニーズに応えられる体制づくりと、国内シェア上位の維持だという。国際共同治験とは、世界規模での新薬の開発・承認を目指して複数の国や地域の医療機関が共通の治験実施計画書に基づいて同時並行的に行う治験のこと。医薬品メーカー各社が実施件数を増やしている分野だ。
「海外での治験実施にあたってお客さまが望まれるセントラルラボサービスを提供できる体制を作り、しかも国内でのシェアもキープし続ける。そのために私たちができることは何か、お客さまが望んでいらっしゃることをもう一度精査して考えるべくアクションプランを立て、それに連動した目標をメンバーの一人ひとりに設定しています」

プライベートでは2人の子どもを育て上げた。出産当時は子育てをしながら働く女性社員も定年まで勤める女性社員も周りにおらず、育児休業制度もなかったが、働きたいという思いで仕事を続けた。そして現在も、パイオニアとしての責任を胸に歩み続けている。
「長女の出産時には仕事を続けるかどうか非常に悩みました。でも、娘を預かってくれた保育ママに『辞めるのはいつでもできるから』と背中を押していただき、また、頼ろうとしていた実家の母から『生んだのはあなただから、自分でどうにかしなさい』と断られて覚悟を決めました。今でも私がこけてしまえば後に続いている女性たちの足を引っ張ってしまう、一番先を歩いているからこそあとを汚してはいけない、という意識は強く持っています。学生の皆さんにしてみれば母親世代の私の話は参考にならないかもしれませんが、私たちに比べると働きやすい道を進んでいることは心に留めておいてほしい。先を行く世代が道なき道を切り開いてきた結果、皆さんの前には男性と同じようにキャリアアップする道ができています。産休・育休の制度も整い、ロールモデルとなる女性もたくさんいるのですから、ぜひ頑張ってほしいと思います」