福岡市のホームページに設置されたPM2.5の予測状況。市内で1日平均の環境基準を超えているかどうかを公表している

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中国で発生している大気汚染は、もはや日本でも無視できない状況にまで拡大している。

人体の器官に進入し、呼吸器系疾患を引き起こす可能性もある直径2.5ミクロン以下の大気エアロゾル粒子=PM2.5。北京市内ではこのPM2.5の数値が、世界保健機関(WHO)基準の15倍もの量が検出され続けており、事態はかなり深刻である。

もちろん風に乗ったPM2.5は、日本にも上陸しているものと思われる。15日には、福岡市がホームページでPM2.5の予測状況を公表。万が一、国の基準値を超える数値が予測される場合には、市民に注意を呼びかけることになっている。

石油・石炭ストーブ、工場や自動車の排ガス、さらには春節(旧正月)の花火など、さまざまな場面で排出されるPM2.5。これ以上、大気汚染を拡大させないためにはどうすればよいのか。

「海外から越境大気汚染があるとすれば、その性質は基本的には、過去の『四日市ぜんそく』のような公害と似たものと考えてよいと思います。当時、四日市公害にどういう対策をとったかが参考になるのではないでしょうか」

香川大学工学部の掛川寿夫教授はそう語る。汚染大気を防ぐための庶民の防衛策が、事実上は“外出を控える”しかない以上、国が汚染源で排出される有害物質を発生段階で食い止めることこそ重要なのは明らかだろう。

「排出される煙に、有毒物質を減少させる脱硫(だつりゅう)処理(物質から、大気汚染の一因になる硫黄化合物を除去すること)を徹底するだけで、被害は大きく減少します。日本の四日市ぜんそくも、状況改善の決め手になったのは、行政による排出規制でした」(掛川教授)

もちろん越境大気汚染の“発生源”である中国側も、改善への姿勢を示していないわけではない。

日本人の目には、環境や健康への配慮など、何もしていないかのように見える中国だが、胡錦濤政権成立直後の2003年には、環境対策と持続可能な経済発展を重視する「科学的発展観」なる国家方針を提唱している。彼らも、規制の重要性そのものは認識しているのだ。

だが、中国問題に詳しいジャーナリストの富坂聰氏は、現地当局が抱えるジレンマをこのように指摘する。

「有毒物質の排出規制を厳格に適用したり、環境保護のためのコストを払ったりすることは、経済発展にブレーキをかけることにつながりかねず、地方政府や世論の同意を得にくい部分がある。経済が停滞してしまえば、環境問題をクリアする代わりに深刻な失業問題が勃発してしまうため、本腰を入れて問題の解決に取り組めないのが現状なのです」

あちらを立てればこちらが立たず。中国当局としても、「症状は認識しているが、治療法がわからない状態」(富坂氏)とのことで、現今の大気汚染問題が早期に解決することは望み薄のようだ。

(取材/安田峰俊)