ワシントンで行なわれたオバマ大統領の就任式を生で“体感”してきました。そこには、日本にも中国にもない本物の「政治」、世界一のお祭りがありました。

完敗です。完全に魅了されてしまいました。1月21日、目の前で見たオバマ大統領の就任演説に―。

就任式の時期、ホワイトハウスのあるワシントン市内のホテル代はべらぼうに高騰していたので、前日は近隣のメリーランド州ゲイザースバーグに宿泊しました。ハーバードの友人たちと朝4時半にロビーで合流したときには、すでに多くの黒人でごった返していました。聞けば、このホテルから100人ほどがワシントンへ向かうとのこと。

レンタカーとメトロを乗り継ぎ、会場に着いたのは朝6時。夜明け直後、気温マイナス5℃の寒さにもかかわらず、歴史の瞬間を見ようという人が集まって音楽が鳴り響き、熱気が渦巻いています。4年前の就任式の人出には及びませんでしたが、それでも約80万の人が集まったという。まさに一大イベントです。

演説開始は午前11時半。5時間半もどうやって時間を潰そうかと思っていましたが、すれ違う人から次々と「Good morning!」「What’s up!?」と声をかけられ、ハイタッチの連続です。人生でこれほどハイタッチをしたことはない。退屈するヒマなどありませんでした。どこからともなく自然発生するオバマコール、周囲のお祭り気分に心地よく身を委ねていると、時間はたちまち過ぎました。

いよいよ演説。オバマ大統領は身ぶり手ぶりを交え、随所に「We,the people」(私たち国民は)、「Together」(一緒に)、「As one nation」(ひとつの国家として)、「As one people」(国民がひとつになって)という言葉を抒情的に織り交ぜ、連帯意識や愛国心を促します。聴く者の心に「言葉が染み込んでいく」様子を実感しました。

爆発する観衆の「USA!」コール。日本人のぼくでさえ高揚感を覚え、コールに参加してしまいました。未来に希望を見いだすような感覚に包まれました。

18分間の演説で、オバマ大統領は聴く人々の心をひとつにまとめ上げた。今後4年間、移民法、財政赤字、景気回復、医療改革、銃規制など解決すべき問題に立ち向かっていく姿勢を、論理よりも感情で示した。人の心を揺さぶるのは必ずしも理性とは限らないことをぼくは学びました。“ガス抜き”の側面も否めませんが、情報社会に生きる現代人が、それでも生で演説を聴きに集まる。ある意味“宗教的”でした。

政治とは、世界一ダイナミックな祭りである―。28歳9ヵ月にして、ぼくは初めて政治の本質を知りました。日本や中国にいては決して味わえない感覚。会場にいた聴衆の多くは黒人で、彼ら・彼女らの目は真剣で、しぐさは本気だった。「アメリカは変わる!」と確信するために、政治という名のお祭りに足を運んでいるのだと感じられた。

マイノリティが「アメリカには無限の可能性がある」と信じている。これがアメリカの強さ、バイタリティの本質ではないか。就任式の前後、黒人、ヒスパニック系、アジア系などの議員やエリートがホワイトハウス周辺に結集し、「次のオバマをどう生むか」「非白人の議員をどう増やしていくか」といったテーマで議論を繰り広げていました。

誤解を恐れずに言えば、アメリカは“世界一大きな発展途上国”なのでしょう。インフラは日本とは比べものにならないほど脆弱で、貧富の差は顕著で、治安も悪い。それなのに、世界中の人々はなぜアメリカの大地を目指し、渇望するのか?

そこには希望を与えてくれるリーダーがいて、民主主義があるから。自由という名の生き方を追求できる可能性に触れられるから。オバマ演説をこの目に焼きつけながら、ぼくはそんなことを考えていました。これに勝るアメリカの魅力が存在するというなら、逆に教えて!!

今週のひと言

オバマ大統領の就任演説に、

アメリカの強さの源泉を見ました!

●加藤嘉一(かとう・よしかず)

日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。現在はハーバード大学ケネディスクールフェロー。新天地で米中関係を研究しながら武者修行中。本連載をもとに書き下ろしを加えて再構成した最新刊『逆転思考 激動の中国、ぼくは駆け抜けた』(小社刊)が大好評発売中!