もしも科学シリーズ(43):もしも大気汚染が進んだら


今年1月から大気汚染が話題になっている。よどんだ空気は視界を妨げ、交通事故まで引き起こしているから事態は深刻だ。





もっと大気汚染がひどくなったらどうなるのか?花粉よりも小さい微粒子や有害物質に肺を冒され、慢性的な気管支炎やぜん息に悩まされそうだ。



■消えないホコリ



大気汚染の基準は有害物質と浮遊粒子状物質(SPM)、つまり地面に落ちずに空中をただよい続けるちりやホコリの量によって測られる。



粒径10μm(マイクロ・メートル)未満は粗大粒子、2.5μm未満は微小粒子と呼ばれ、それぞれPM10/PM2.5と表現される。いま話題になっているPM2.5は1,000分の2.5ミリだから肉眼では見えないが、大量に集まると視界が悪くなるほど空気を濁らせる。





世界保健機関(WHO)では、1立方mの空気に含まれる浮遊粒子状物質の基準量が定められ、24時間平均と年平均量(マイクロ・グラム)は以下の通りだ。



 ・PM10 … 50μg / 20μg



 ・PM2.5 … 25μg / 10μg





PM10よりPM2.5が厳しく定められているのは、その小ささに起因する。一般的に自動車やエアコンのフィルタで除去できるのは3μm程度なので、PM2.5はこれを透過してしまう。



薬品や水蒸気を吸い込むと呼吸器系にダメージを与えるが、軽度なら回復が見込める。だが肺に達した浮遊粒子状物質は、消えることなく未来永劫(えいごう)残り続ける。



たとえ人体に影響しない物質であっても、たまれば肺の機能を低下させる。もし発がん性や放射性を伴った物質なら、たった一度吸い込んだだけでも、ダメージを与え続けることになるので危険だ。



WHOの調査によると、大気汚染世界一は2011年のモンゴル。PM10の年間量が1立方メートルあたり279μg。ギネス世界記録ではアフヴァーズ(イラン)が世界一で372μg/立方mだ。どちらも基準値の10倍以上となった原因は石炭や石油で、煙に含まれる煤(すす)や微粒子がまん延しているのだ。



中国の大気汚染も同様で、火力発電に使われる石炭がおもな原因と報じられている。



2013年1月の北京では900μg/立方mものPM2.5が観測され、これはWHOの定める24時間平均の36倍、年平均なら90倍、日本の基準の60倍に匹敵する。



およその大きさを比較すると、海岸の細かい砂が90μm、頭髪の直径は70μm、スギ花粉でも30μm程度だから、PM2.5は花粉症対策のマスクでさえ防ぐことができない。



PM2.5が危険視されているのは、0.5〜5μmの黄砂よりも微小なため日本に飛来すると考えられているからだ。北九州地方では、飛来した黄砂がフィルタを詰まらせ、ビルのエアコンなどに影響が出るという。3〜5月の3か月間で年平均のおよそ87%の黄砂が飛来するから、間もなくピークが始まる。





浮遊粒子状物質は、免疫系にも悪影響を及ぼすので、ぜん息や花粉症などのアレルギー症状を引き起こす可能性が高い。今まで免れていた人も、花粉と黄砂とPM2.5がそろう今年は花粉症デビューの年になるだろう。





■自然の逆襲



化学物質で警戒すべきは、大気汚染の御三家とも呼べる窒素酸化物、硫黄酸化物、光化学オキシダントだ。



大気の80%近くを占める窒素は、アミノ酸や肥料など生命に欠かせない元素だが、酸素と結びつき窒素酸化物になると敵に変わる。



水に溶けにくいので肺胞まで達し、のどや肺を刺激する。低濃度でも気管支炎や上気道炎、免疫機能を低下させ感染症に発展し、高濃度になると肺胞や毛細血管が壊死(えし)する。



自動車の排ガスがおもな発生源だから、モータリゼーションが急速に発展した地域で見られやすい。



硫黄酸化物も自動車に起因し、燃料に含まれる硫黄が主成分だ。二酸化窒素と同様にぜん息や気管支炎を引き起こす。



日本ではサルファーフリーが実現され、ガソリンや軽油に含まれる硫黄は10ppm(=0.001%)まで引き下げられているので安心だが、中国では150〜500ppm、最も低いものでも50ppm含まれる。10ppmまで下げるには10年ほどかかると予測されているので、なすすべがないのが現状だ。



光化学オキシダントは、窒素酸化物や炭化水素系物質が紫外線を受けて発生する強力な酸化剤だ。



主成分のオゾンは鼻やのどの粘膜を刺激し、目がチカチカするなどの症状から始まり、免疫機能の低下、染色体異常を起こし遺伝毒性となる可能性が高い。発生には太陽が一役買っているから、当分晴れた日は要注意だ。



■まとめ



この騒ぎに便乗して、空気の缶詰を販売している人が報じられていた。商魂たくましいのは良いが、事態の深刻さを考えると少々脱力感を覚える光景だ。



この先の展開を考えると缶詰では小さすぎる。ドラム缶や空気ボンベ、ガスマスクを用意すべきだろう。



(関口 寿/ガリレオワークス)