与党が1月24日に税制改正大綱を決定した。実に見事な税制改革だと思う。それは富裕層に対する増税あるいは庶民の減税を装いながら、実は庶民を狙い撃ちにした大増税を仕掛けているからだ。

 まずは、最高税率の引き上げだ。所得税の最高税率は現行の40%から45%に引き上げ、相続税の最高税率も50%から55%に引き上げる。確かに高額所得層には1割程度の負担増にはなるが、所得税の最高税率が適用されるのは、課税所得4000万円超の部分だけだ。現在、大企業の社長でも外資でない限り、年収は3000万円程度だから、最高税率が適用されるのは、日本全国で数万人にとどまるだろう。
 実は、富裕層にとって深刻なのは、所得税率よりも法人税率の動きだ。富裕層の多くは個人の会社を持っていて、その会社の経費で車を買ったり接待をしたり、ゴルフをしたりできるのだ。仮に交際費に認定されたとしても、法人税を支払えば、済んでしまう。その法人税は、昨年度の30%から今年度の25.5%へと、すでに引き下げられているのだ。

 相続税増税は、むしろ庶民を直撃する。非課税枠に当たる基礎控除を4割縮小して、3000万円とするからだ。これまで、相続税を納税している人は4%しかいなかった。非課税枠に収まっていたからだ。しかも、基礎控除以下なら、申告の必要もなかった。
 しかしこれからは、都市部で住宅を持っている人、特に自家保有の商店を持っている自営業者は、軒並み相続税を支払わなくてはならなくなる。しかも不動産はあっても相続税納税のための現金がないケースは多い。だから下手をすると商店街が消えてしまうのだ。

 さらに、大綱では住宅ローン減税を拡充。住宅ローン残高の1%を所得税から減税するというものだが、ローン残高の限度額をこれまでの2000万円から、長期優良住宅の場合は最大5000万円に引き上げる。
 しかし、考えればすぐにわかるように、普通のサラリーマンが5000万円もの借金をしたら、生活が行き詰まってしまうだろう。孫への教育資金の贈与を1人1500万円まで非課税にする措置も同じだ。そんな現金をもっている高齢者は、よほどの富裕層に限られるのだ。つまり安倍政権の打ち出した減税は、庶民には縁のない減税ということになる。

 さらに今回の税制改正の目玉といってもよいのが、従業員の給与を増やした企業に対して、支払った給与の増額分の10%を法人税から差し引く制度だ。
 これで、雇用が増えたり賃金が上がれば、めでたしめでたしということになるのだが、そうはならない。いま日本では、法人の7割が赤字だ。特に中小企業は赤字の企業が多い。つまり、この減税策の恩恵を受けるのは、ごく一部の大企業だけになるのだ。

 結局、安倍政権がやろうとしているのは、見た目だけ庶民の味方をしたふりをして、その後制度が回るようになったら庶民の負担を一気に増やすという政策だ。庶民に甘い顔をするのは7月まで。参議院選挙で勝利すれば、そのあと3年間は選挙がない。そこで安倍政権は、本来の理念、「自助」を強く打ち出してくるだろう。それは、言うまでもなく、弱肉強食、小泉構造改革の再来なのだ。