『大人のための恋愛ドリル』柴門ふみ/新潮社
“恋愛の神様”が大人の恋愛事情を徹底リサーチ!

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バレンタインデーである。百貨店のスイーツ売り場は大賑わいだし、Facebookのウォールには手作り中のチョコの写真がバンバンあがってくる。でも、恋愛イベントとしての盛り上がりとしてはイマイチ。少なくとも私のまわりではまるで盛り上がってない。“友チョコ”を女同士で贈り合うとか、家族間でチョコをプレゼントするだとか、楽しそうだけど艶っぽくはない。遠足のおやつ交換みたいだ。

「そろそろバレンタインデーだし、思い切って彼に想いを伝えてみようと思うの」的な話を聞かなくなって久しい。まあ、もう大人だしなー、キャッキャッウフフな恋バナをそうそう聞くような年齢でもなくなったんだよなーと思っていたが、勘違いだった。

『大人のための恋愛ドリル』(柴門ふみ著・新潮社)には、いい年をしたおじさんおばさんの恋愛がたくさん登場する。近年、恋愛に対する“縛り”はなくなり、熟年婚を通り越して晩年婚もアリだし、20歳〜30歳離れた年の差カップルも珍しくない。多様性と可能性は広がり、自由になったはずなのに、「恋愛がうまくいかない」と嘆く男女が多いのはなぜか。そう疑問に思い、恋愛問題に悩む人たちに直接話を聞き、一緒に問題点を考えることにしたという。

本書に登場するのは、三浦春馬と結婚したい四十過ぎの“女の子”に、罪悪感ゼロで不倫にいそしむ30代の人妻、地味なルックスで美女を落としつづける隠れ肉食系に、出会い系にハマる中年男。『黄昏流星群』もびっくりぎょうてんなラブロマンスが展開される。そこには“大人”という言葉から想像するようなものわかりの良さもなければ、枯淡の境地もない。若者以上に“若気の至り”を感じさせる、てんやわんやな恋愛模様が描かれている。

狙った女は八割以上の確率で落とすという38歳・妻子持ちが、バーで女を口説く手口はこうだ。

「この店はフルーツカクテルが美味しいんだよ」
そういって口当たりはよいが、アルコール度数の高い酒で女を酔わす。ちょっと僕、トイレに行きますと言って席をたつ。そして、トイレから戻るなり、無言でいきなりキスをする。
うへぇ、気持ち悪い。でも、これはまだまだ序盤戦に過ぎない。

そのあと店を出て、少し歩こうかと、女を誘う。裏道の坂を少し歩くと、目立たぬようひっそりと建っているのは、彼の行きつけのラブホ。
「あれ、こんなところにホテルがある。入ってみる?」

わははははは。「入ってみる?」じゃねーよ! でも、これ案外うまくいったりするかもなー。

柴門ふみも
「それでそんなにうまくゆくものかと、私は半信半疑ではあったのだが、女を落とすには、言葉で口説かないのが成功の秘訣だというのは、なんとなくわかったような気がした」
と言っていた。しらじらしい小芝居を堂々とやりこなすのも中年の強みだ。

相手の都合も考えずに突き進む“竜巻女”のエピソードはホラーだった。
「あなたと別れることにしましたが、思い出に子供をください」
と不倫相手に迫り、子作りにチャレンジするもうまくいかず、今度は
「こうなったら、誰の子でもいいわ」
と同窓会で再会した既婚男性にアタックし、首尾よく目的を果たす。

「罪悪感もためらいもはじらいも彼女からは一切感じられなかった。(中略)しかも、色香漂う美女でも何でもなく、ただの太った中年女なのである」
本書に出てくる恋愛は、どれもこれもちっとも素敵じゃない。アラサーだの、アラフォーだのと取り繕ってもごまかしきれない年齢の重みも感じる。バカバカしいし、滑稽だ。でも、恋愛ってそういうものだったかもなーとも思うのだ。他人から見たら、まるでどうでもいいチンケな男が世界一すてきに見えたり、底意地の悪い女が絶世の美女に思えたりする。面倒くさい。でも、楽しい。サイモン節にすっかりのせられ、最前線に戻るなら、ともあれ減量ですかねーなんて思いかけて、気づいた。恋愛でしくじるたびに「ダイエットがんばろう」と日記に書きつけていたハタチの頃と考えることがまるで変わってないじゃないか。無念である。
(島影真奈美)