「クラブ 稲葉」白坂亜紀ママ

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政財界をはじめ、数多のエリートを接待する銀座のクラブ。超一流クラブのママたちは将来の出世頭をどう見分けるのか。

■情熱的で努力家でまず目が違う

夜の灯がともると、銀座はまったく別の顔を見せる。主役はもはや表通りのブランド店ではない。日本の好況不況を潜り抜け、灯をたやさずに看板を掲げてきたクラブという存在と、そこで働く女性たちだ。女性たちはもちろん、日本の浮沈とともに、幾多の男たちの浮き沈みも見ている――。そんな一流クラブのママに「出世する男」の特徴を聞いてみた。

「私がお客様について、あれこれ言うのは僭越ですが……」と口調は上品だが、ママたちの金言は鋭い。いずれも銀座の水に鍛えられ、百戦錬磨の女性たちだ。男性だけでなく、人間観察のプロでもある。

吉行淳之介、遠藤周作、柴田錬三郎など、名だたる文化人が通ったクラブである魔里の大久保マリ子ママはこんなふうに語ってくれた。

「出世する人は若いころから勢いがある。今は大先生となった人も知り合ったころは新人だったわけですが、情熱的で努力家で、まず目が違うんです」

そして伸びる男たちはいつも「人」に囲まれているとママたちは語る。

「人として魅力に溢れていて、魅力に人が吸い寄せられていく。この人のためなら努力を惜しまないという人に恵まれることで仕事は成功を収めるのです」(クラブ 由美・伊藤由美ママ)

銀座とはただ成功者が集い、湯水のように美しい女性たちにお金を注ぐ場所ではない。銀座をうまく使いこなし、味方につけた男性が出世するのだ。

その意味でクラブは「第二のビジネスの場」でもある。クラブ 稲葉のママ、白坂亜紀さんは「私たちは『第二秘書室』とも呼ばれているんですよ」という。早稲田大学を卒業し、29歳で自分の店を構えてから、15年以上銀座という街に関わってきた。

「重要なお取引先の接待では担当ホステスまで決まっている会社もあります。この会社の接待ではこの子、というように大きな接待は会社とクラブの連携プロジェクトのようなもの。だからこそ、部下やクラブのスタッフをうまく使える人が成功する男性です」

そのために一番大切なものは「コミュニケーション能力」と亜紀ママは語る。伸びる人は接待の仕方、部下や店のスタッフへの振る舞い方がまず違うのだという。

「好き嫌いを言わず、どの女の子にも気持ちよく接してくれる。ご接待のときも、いろいろな子が自分の席でよいサービスをしてくれたほうが助かるのがわかっているので、まず、どのスタッフに対しても分け隔てなくよくしてくださるんですね」(亜紀ママ)

接待のとき、お客さんはもちろん、部下やお店の子まで全員が楽しめるように気配りを欠かさない。部下を連れてくるときは「お疲れ様。今日は遠慮なく飲め」という具合に、部下を接待しているのかと思うぐらい上司という顔をしないし、威張らない。部下を抑えつけず、いいところを引き出そうとしているのがわかるのだという。

「だからこそ、いざというときに『この人のために頑張ろう」と周りの人たちが一丸となることができるんでしょうね」(亜紀ママ)

そしてサービス精神にもたけている。「知識があっても1人で抱え込むようなケチくさいことはしない。誰かに教えてあげたいというサービス精神がある」(東京・銀座 クラブ ザボン・水口素子ママ)という言葉の通りだ。

これとまったく逆なのは「お気に入りじゃない女の子が来ると、手でシッシと追い払うような人」だ。接待の席で威張っていても、偉い人とはち合わせすると走っていって平身低頭する。

「裏表がないことも、夜の銀座では信頼される要因です。案外狭い世界ですから。接待で威張っている人が、自分より偉い人と出会った途端、豹変すると興ざめです」(亜紀ママ)

威張るならずっと威張るキャラでいてほしい。そういう人は案外可愛いな、と女性に思われていたりする。

「最近は部下が年上なこともあるでしょう。年長の部下を下の席に座らせて平気な顔をしている人もいますが、伸びる人は夜の席では役職は抜きで、年長者を敬える人ですよ」(亜紀ママ)

銀座のクラブは「闘う男が素になれるわが家」でもあると亜紀ママは言う。

「クラブは仕事の場でもあると同時に、癒やしの空間でもあります。ビジネスにも役に立つし、帰ったときにホッとする癒やしの空間になるほうがいい。店の女の子も男の子も、普段は出入りできないようなところに連れていって育ててやろうという気持ちの人が多いですね。常日ごろから、家族のようなお付き合いができる人は銀座の使い方が上手だなと思います」

ただし、わが家同然だからといって、いつも会社の愚痴や悪口を言っているような男性は出世しない。どうしても言いたいときはママだけに「今日は愚痴を聞いてくれ」と前置きをする。普段は愉快な楽しいお酒の席。でもしんみりと語るときもある。メリハリをつけているのだ。

「それも小さな愚痴ではなく、大きな愚痴ですね。部下にも奥さんにも話せないことを、話すことで決断しているんでしょう。人事を相談されることもありますよ」(亜紀ママ)

そんな男性は遊び方もきれいだ。もちろん夜の銀座であるから、色っぽい側面はあるが、伸びる男性は女性も口説かない。

「本気で女性を口説いたら、その店はもう『わが家』でなくなってしまう。そこをわかってらっしゃる方は『デートしようよ』と言っても、その実、うまく疑似恋愛を楽しんでいらっしゃいます。下ネタの扱いも上手で、女性たちが不愉快になる線まで落ちる前にパッと話を変えるんです」(亜紀ママ)

「いつもママに振られちゃってるよ」と、ステキな男性ほど自分の弱みを上手に見せるのだ。つまりは「女性に対しても余裕がある」ということだ。

そして「優しさ」も共通するところだ。お客様の目の前で失礼なことを言ってしまった新人に対して「後で注意してあげて」とこっそり亜紀ママに耳打ちしてくれる人がいる。「失敗しても目の前では怒らない。でも悪いことはちゃんと伝えてくれます。懐が深いんですね。そして女の子たちの努力も部下の努力と同じようにちゃんと見ていて、評価して応援してくれます」。

ただの優しさではなく、本当に人のことを考えている人だけが持つ「独特の優しさ」があるのだとママたちは口々に語ってくれた。

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「クラブ 稲葉」白坂亜紀ママ
1966年、大分県生まれ。早稲田大学在学中にクラブに勤務、現在は銀座で「クラブ 稲葉」をはじめとした4店舗を経営。著書に、今回登場したママたちにインタビューした『銀座の秘密――なぜこのクラブのママたちは、超一流であり続けるのか』。

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(白河桃子=文 澁谷高晴=撮影 PIXTA=写真)