他部署での経験+チームプレーで未経験でも成果を挙げることができる

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■未経験でも営業で成功はできる

給料をもらって働く以上、仕事は会社から与えられるものである。組織に身を置いているからには、職種は自分ではそう自由に選べない。辞令は覚悟を決めて受け入れ、やり抜くしかない。たとえ、それが未経験の営業だとしても同じだろう。

私は営業の特性は今も昔も変わっていないと思う。人と人とのつきあいの中から、信頼関係ができあがり、モノが売れるようになっていく。もし、アドバイスをするとすれば、まず自分の担当エリアなり得意先を知るために、徹底して現場に出向くことだ。社名を覚えてもらい、名前で呼ばれるようになればしめたものである。

営業の最前線を当社では「お客様接点」と呼ぶ。顧客のニーズが多様化している今日、マーケットでどういうことが起きているかは、得意先も知りたいはずだ。そこで、キリングループ独自の、また自分が足で稼いだ情報を提供し、一緒に戦略・戦術を考える。それによって、さらに信頼が深まることが実感できれば、営業の面白さもわかってくると思う。

確かに、未経験分野への異動には戸惑いや不安が伴うかもしれない。私自身“寝耳に水”の人事を経験した。18年前、オランダのビール大手・ハイネケンとキリンビールの合弁会社、ハイネケン ジャパン(現ハイネケン・キリン)への営業担当副社長としての出向だ。が、そこで外国人社長と一緒に経営の舵取りをすることで、英語力と国際感覚を鍛えることができた。

キリンの営業担当で1人、印象に残っている人がいる。当社でも工場の合理化が進められていた時代、製造から営業担当への職掌転換が少なからず図られる中で、彼はビール製造部門から移ってきた。30歳前後になって、もちろん、はじめての経験だ。当然、交渉相手としゃべる呼吸だとか、重要な商談に入るタイミングなどはまったくわからない。

おそらく、口に出せない苦労もしただろうし、時には大きな失敗をして得意先の怒りを買い、出入り禁止になったことだってあったに違いない。それでも踏ん張り、最終的には地域有数の繁華街を抱える業務用営業チームの課長に成長していった。

実をいうと彼は、営業のプロを地でいくような管理職ではない。部下には「俺は素人だから」という弱さも見せて、周囲を「みんなでしっかり支えなければいけない」という気持ちにした。そんな課員たちを、彼もまたしっかりとサポートした。つまり、口八丁手八丁ではないが、朴訥な人柄は部下や得意先の信頼を勝ち取り、職責をまっとうしたのである。

ただ、最近の営業は、同じセクション内のコミュニケーションにとどまらず、製造とか物流とのチームプレーも求められるようになってきた。それぞれの立場で“お客様の笑顔”に向けて工夫をし、組織全体のクオリティを高めていくというやり方だ。

例えば、新商品を出すとする。長引く不況とシュリンクするビール市場を考えれば、これまで育ててきたブランドを生かすことが大切だ。そこには、すでにいくつもの広告やキャンペーンなどの成功事例がある。それを社内に「水平展開」するのも営業マンの役割といっていい。

そう考えると、営業は未経験だとしても、それまでのキャリアが無駄になることはない。社内外で培ってきたノウハウや見識を、それぞれの商品カテゴリーで生かせるはずだ。また、そうでなければ、これからは“一流の営業”とは呼ばれないだろう。

※すべて雑誌掲載当時

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キリンホールディングス社長 
三宅占二 
1948年、東京都生まれ。70年慶應義塾大学経済学部卒、麒麟麦酒入社。ハイネケン ジャパン副社長などを経て2010年より現職。

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(キリンホールディングス社長 三宅占二 構成=岡村繁雄 撮影=尾崎三朗)