日本ではそれほど大きく報じられないアラブ・中東情勢ですが、アメリカでは常に人々の関心を集めています。なかでも、ポイントはパレスチナ問題でしょう。

1月22日、イスラエルで総選挙が行なわれました。イスラエルは1948年に独立したユダヤ人国家で、ガザ地区の問題をはじめ、パレスチナとの地域紛争が絶えません。

紛争や戦争が起こりやすい地域には「宗教」「民族」「エネルギー」のいずれかの要素が絡んでいることが多いですが、アラブ・中東は不幸にも3条件がすべてそろっている。地政学的にも重要な位置にあり、大国政治が各陣営に便乗しがちです。ゆえに情勢はなかなか安定せず、常に火種を抱えることになります。

ぼくがパレスチナを初めて身近に感じたのは、北京大学への留学が始まった頃。偶然にも寮の最初のルームメイトが、パレスチナ自治政府初代大統領のヤセル・アラファトの親戚だったのです。彼に出会ったことが、無知だったぼくをパレスチナという地域問題への考察に向かわせました。

そして昨年、アメリカに拠点を移して驚いたのが、アメリカ人のアラブ・中東問題への関心の高さです。イスラエルやパレスチナのみならず、シリア、リビア、エジプトなどの情勢が、連日のように大きくニュースで取り上げられる。尖閣問題がアメリカの国際益を脅かし続けたここ半年でさえ、日中関係よりも多くの紙面を埋め尽くしていました。

ユダヤ人が政治や経済に確かな影響力を持つアメリカは、昔から基本的には“親イスラエル”です。石油をめぐる世界戦略の要衝としても、中東はプライオリティが高い。イラク戦争のように、軍事介入などの強引な手法を選択することもあります。

しかし、近年アメリカの国力が相対的に低下しつつあるなか、中東での影響力も以前ほどではなくなってきた。軍の撤退も進んでいます。これからは以前と同じようにイスラエルを擁護することはできなくなるかもしれない。現に、イラン問題をめぐってアメリカとイスラエルは揉めている。オバマ大統領はアラブ国家への強硬姿勢を強めるイスラエルの外交に不満を示しています。

情勢は混迷を極め、パレスチナのハマスによるイスラエルへのテロ攻撃と、イスラエル軍によるパレスチナへの無差別爆撃の“悲劇の連鎖”は後を絶ちません。

一昨年、ぼくはプライベート旅行でイスラエルに行き、パレスチナ自治区内のベツレヘムやヘブロンにも足を向けました。そこにはイスラエル軍が駐留しており、銃を抱えた兵士たちが物々しい雰囲気を醸し出していました。

イスラエル領内にある聖地エルサレムでは、社会見学に来ていたパレスチナの児童たちと遭遇しました。その中にいた8歳の女の子が英語も達者だったので、ぼくは「こちらの世界はどう?」と、訊いてみました。彼女はこう答えました。

「こっちにはこっちの世界がある。イスラエルをしっかり見て、将来パレスチナが独立国家として歩んでいくために何が必要なのか考えたい」

誤解を恐れずに言えば、彼女の表情と瞳からは、これまで出会ったどんな女性よりも真っすぐで、魅力的なオーラが漂っていました。さらに彼女はこう言い切りました。

「私は、祖国・民族の誇りのために死ねる」

氷のように透き通った瞳は本気でした。「負けた」と観念し、刺激を受けたぼくは、本腰を入れてパレスチナ問題に向き合っていこうと気合いを入れ直しました。

中東の安定のカギを握るのが、アメリカのリーダーシップということは今も変わりません。人々が望む“平和的解決”を取りまとめられるかどうか―これが、第2次オバマ政権のキーポイントのひとつでしょう。日本ではあまり話題にならないようですが、なぜこれほどのインパクトを持つ問題に関心が向かないのか、その理由を逆に教えて!!

今週のひと言

パレスチナは、第2次オバマ政権の外交のキーポイントです!

●加藤嘉一(かとう・よしかず)

日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。現在はハーバード大学ケネディスクールフェロー。新天地で米中関係を研究しながら武者修行中。本連載をもとに書き下ろしを加えて再構成した最新刊『逆転思考 激動の中国、ぼくは駆け抜けた』(小社刊)が大好評発売中!