イマージェンス社長 桑畑英紀氏

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組織・人事改革のスペシャリスト集団であるイマージェンスは、顧客に対し「ホウレンソウサーベイ」なるサービスを提供している。上司と部下の関係性を調べれば、チームの状態がわかるという。理想のコミュニケーションを聞いた。

■部下が報告をしぶる

原因はたいていその上司本人の誤解にあります。ホウレンソウは部下から上司への一方向のものだという思い込みです。

ホウレンソウの意味を紐解くと、報告は「結果や経過を相手に告げること」ですが、連絡は「情報や気持ち、考えを互いに伝え合うこと」。相談は「問題・課題について互いに意見を出して話し合い、何らかの解決策を導くこと」ですから、双方向が基本。しかし実際には双方向の連絡や相談になりにくい。

たとえば、課題解決の進捗を聞くときに、部下の考えや悩みなどを汲み上げず、納期と結果だけに関心を示す。「とにかく来週一杯で話をつけて報告してくれ」と。すると部下は、ホウレンソウを上司がラクにマネジメントするためのものだと感じ、意見交換の連絡も、課題解決の相談もする気にはならないでしょう。

部下をコントロールするためのホウレンソウも要注意です。「もう少しまとまった仕事を任せてほしいな……」と感じ、その能力もある部下に、一方的に「○○はこうやって、△△はこうやって。報告書も頻繁に出すように」と細かすぎる指示を出して従わせ、形式的な報告を求める。これでは部下の自主性は育ちません。

部下がホウレンソウしたがらないのは、その双方向性を無視しているからです。

組織力の強化を図る際、われわれは社員をとりまく行動環境を分析します。社員は自立的か服従的か。誇りを持っているか劣等感が強いか。会社と社員の信頼関係は成立しているのか単なる契約関係か……。これらはすべて行動環境が決めています。この行動環境を分析し、社員にとってプラスになる要因を緑、マイナス要因を赤に分類していくのです。

赤い要素が増えるほど「部下が主体的に行動できない不健康状態」になります。実際、不祥事を起こした会社を分析すると、ほとんどのケースは真っ赤でした。

行動環境は、人事・報酬制度、意思決定のプロセス、組織の構造など、さまざまな要素が絡んでつくられますが、一番大きなウエートを占めるのは、上司と部下のコミュニケーションです。いいホウレンソウで緑の行動環境にできれば、社員は自律的で活性化した状態になります。

いったい何のためのホウレンソウなのか? これを取り違えると、先に挙げた例のように、ホウレンソウは「上司のためにやらされるもの」でしかなくなり、行動環境は悪化していきます。

ホウレンソウの意義は、管理だけでなく、部下の士気を上げ、成長を促すという視点からとらえる必要があります。報告が上がったら問題や課題を一緒に話し合って解決策を探る。それによって部下に「自分では気づいてないことを考えさせてもらったな。相談してよかった」という納得感を与える。これが大事です。

私の経験から言うと、いい上司は部下に対してもホウレンソウをしています。上司の立場だからこそ得られる情報を共有したり問題を相談し、部下からうまく情報とやる気を引き出しているのです。

「ホウレンソウしてよかった」と感じている部下は、執拗に命令されなくても、いいことも悪いことも自分からホウレンソウするものなのです。

■ミス、クレーム対処の悪い事例

ミスやクレームが発生したとき、いかに早く報告させるか。そのためには、「早く報告してよかった」という実感を部下に持たせることが大事です。

結果だけを評価して、頭ごなしに失敗をなじる。これは最悪の対処法です。

ある部下が、トラブルを未然に防げなかったとします。でも、報告してもろくに経緯も聞かずに怒られるだけだと思い、しばらく取り繕って隠していた。そして、問題は日増しに大きくなって……。不祥事が生まれる典型的なパターンです。

人が何か行動を起こすとき、必ず一定の「心理パス」を通ります。この例では、問題が発生した時点で、部下のほうにも早く報告しなければ大変になるという危機感はありました。しかし、行動しようと一度は決意したものの、「そうは言っても、どうせ上司には一方的に責められるだけだし、自分で何とかしてみよう……」という思いが頭の中に渦巻き、ホウレンソウを妨げてしまったのです。

往々にしてこうしたトラブルは、上司自身が阻害要因になっていることを自覚せず、ただ「ホウレンソウせよ」と命じているときに起こるものです。

また、ホウレンソウが上がってきたとき、部下に対して立派なアドバイスを一方的に与えるのも好ましくありません。

先に、コントロールするためのホウレンソウが定着すると、部下の思考停止が習慣化して自主性が育たなくなるという弊害を挙げました。特にプレーヤーとして優秀な上司によく見られる問題です。

ホウレンソウが上司の優越感を確認する場になると、部下はおもしろくありません。指示を聞いても、心のどこかで「上司に後悔させたい。失敗すればいい」と悪魔の囁きさえ聞こえます。

いい上司は最良の答えをポケットの中に置いて安易に出しません。そして、答えを部下が自ら考え出したかのように質問で導いていく。例えば、こんなふうに。

「交渉決裂か……。で、何が原因だ?」

「説明段階だったので、わかりません」

「そうか。どんな説明をしたの?」

「事実関係の説明をこうやって……」

「たとえ事実でも、そうやって突きつけられたとしたら、君ならどう感じる?」

「なんか責められているような気がしますね。そうか、それで急にA社が責任論を持ち出して態度が硬化したのか……」

ただ答えを出すのではなく、こうやって視点やヒントを与えて答えに導くのです。一見面倒に思えますが、部下はそこから学び応用しますから急がば回れです。

では、部下が上司よりも優秀な場合はどうでしょう。上司風を吹かせ、持論を無理に押しつけたりすれば、部下はどんどん距離を置き始め、ホウレンソウを忌避するようになります。逆に、優秀な部下を活かすスタンスで、上司の立場でしかできない組織的なサポートをすれば、部下は進んでホウレンソウしてきます。

要は、部下にとって上司が同じ船に乗っているんだという「納得感」を与えることができるかがポイントです。部下だけが船に乗っていて、上司は川岸から「波がどうなっているか報告しろ」「船に問題があるのなら相談しろ」と言っているようではダメ。上司も船に乗りこみ、「きつくないか」「どのルートが効率的か」と、一緒に考えなければならないのです。

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イマージェンス社長 桑畑英紀 
大手電機メーカー、外資系消費財メーカー、マーサージャパン組織・人事改革コンサルティング部門代表、取締役などを経て、2008年に現在の会社を設立。りそな銀行社外取締役。

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(イマージェンス社長 桑畑英紀 構成=小檜山 想 撮影=上飯坂 真、太田 亨、市来朋久)