亀田潤一郎先生

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お金持ちの財布には共通点が多い。色形はもちろん、何より驚かされるのは、そのスマートな美しさだ。なぜ、彼らは“たかが財布”をさほどに大切にするのか。その秘密を覗いてきた。

■「サイフ診断」でわかる金持ち父さんの秘密

お財布を意識し始めたのは、いまを遡ること9年前、私がまだ税理士事務所で見習いをしている頃だった。

当時、私には敬愛する、ある中小企業の社長がいた。年収約5000万円。もちろんお金持ちだったが、経営は手堅く、収入の大半を貯蓄に回しておられた。

ある日、社長の目の前で自分のお財布を出して、お金を払う場面があった。すると社長の顔色が、突然曇った。

「君は税理士を目指しているんだよね。僕は君みたいな人に、大切なお金の管理を任せたいとは思わないな」

社長が苦々しい顔つきで見詰めていたのは、私のお財布だった。

「君は、お金に対してきれいなイメージを持っていませんね。だから、そんなボロボロのお財布にお金を入れて、平気なんです。そんな意識の人は、税理士には向いていないんじゃないかな」

当時、私が使っていたのは、よく高校生が持っている2つ折りのマジックテープ式のお財布だった。値段は500円。常にお尻のポケットに入れていたので、ヒップラインに即して湾曲していた。

そして、私はたしかに「お金は汚いものだ」と思っていた。父親が経営していた会社が倒産して借金の一部を肩代わりした私は、極限的な貧乏生活を経験していた。「この世に金さえなければ、こんなことにはならなかった」という思いが強かった。私はお金を汚いと思っていたどころか、恨んでさえいたのだ。

敬愛する社長の一言にショックを受けた私は、その日以来、稼いでいる社長たちのお財布を徹底的にウオッチすることに決めた。1カ月に最低でも5〜10個のお財布を詳細に観察させてもらった。飲み会の席などで、「私、お財布鑑定やっていまして」などと言うと、ほとんどの社長が快くお財布を見せてくれた。

おそらくこれまでに、700個近いお財布を拝見させてもらったことだろう。お陰でいまや、一目見ただけでブランド名とお財布自体の値段を言い当てることができるようになった。

さて、こうして幾多のお財布をウオッチしてきた結果、私はある法則の存在に気づいた。それは……。

「稼ぐ人は必ず長財布を使っている」

という法則である。

人並み以上に稼いでいるビジネスパーソンで、2つ折りのお財布を使っている人はひとりもいなかったのである。

そして、稼いでいる人のお財布は、「薄い」という共通点も持っていた。無駄なカード類や領収書などが入っておらず、お札だけが入っているため、薄いのだ。

「なぜ、長財布を使うのですか?」

「だって、お札が伸び伸びできて居心地がよさそうじゃないか」

稼いでいる人の多くはお金を擬人化して、あたかも自分のパートナーであるかのように語る。彼らにとって、お金は単なる交換の手段ではなく、人生を豊かにしてくれるよきパートナーなのだ。だからこそ、お金が気持ちよく暮らせるよう、美しい長財布の中に入れて、お金を丁重に接遇しているのだ。

私は、彼らとの意識のギャップに衝撃を受けた。私のようにお金を恨み、汚れた2つ折り財布で冷遇している人間のところに、お金が喜んでやってきてくれるはずなどなかった。

この事実に気づいた私は、相当な背伸びをして2万円のプラダのお財布を買った。500円のマジックテープ財布に比べれば、ずいぶん高価なお財布だ。このお財布を手にしたことで、私はお金をかなり大切にするようになった。だが、お財布には、さらなる深淵があったのだ。

私のように、税理士という仕事をやっていると、申し訳ないことだが、ビジネスパーソンの収入がだいたいわかってしまう。業種、売上高、従業員数といった数字を把握できれば、その会社の社長や役員がどのくらいの報酬を得ているか、ほぼ正確に推測できてしまう。

お財布自体の値段を的中させることができ、お財布の持ち主の年収を推定できるようになったとき、私はこのふたつの間に、恐るべき関連性があることに気づいたのである。

お財布の値段×200=持ち主の年収。

すなわち、その人の年収は、持っているお財布の値段のほぼ200倍なのである。私が幾多のお財布を見てきた経験から言って、ほぼ間違いなく200倍前後の範囲に収まる。年収1000万円の人なら5万円前後のお財布を使っており、年収の2000万円の人は、10万円前後のお財布を使っているものなのだ。

この公式は、単に人様の年収をお財布の値段から推し量るためのツールではない。重要なのは、むしろ、この公式に当てはまらないお財布の所有者をどう判断するかにある。私の経験からはっきり言えるのは、以下の2点である。

・お財布の200倍が現在の年収よりも大きい人は、これからもっと稼ぐ。
・お財布の200倍が現在の年収よりも小さい人は、これから落ちていく。

つまりお財布とは、自分の「稼ぐ力」に対するセルフイメージを反映しているものなのだ。たとえ現在の年収が300万円しかないにもかかわらず10万円のお財布を使っている人は、間違いなく年収2000万円の方向に進んでいく。なぜなら、「このお財布にふさわしい金額が入ってくるはずだ」と彼ははっきり予感しているのであり、お金はそうした確信を持った人のことが大好きなのだ。

では、お金に好かれない人、お金が逃げていく人のお財布とはどのようなものなのか。代表的なダメ財布に即して、説明してみることにしよう。

【A】ダダ漏れ財布

稼ぎはあるが貯金がないビジネスパーソンに多いお財布である。

まず目につくのが、カード類の多さ。また、外国製のお財布にありがちなことだが、札入れが深すぎてお札が何枚入っているか把握しにくい。このお財布から浮かび上がってくるのは、お金にコントロールされている人間の姿である。

お金は人生のパートナーだが、主従関係は明確にしておかなくてはならない。お金に支配されている人のお財布からは、お金が無際限に漏れていくだけだ。

【B】不安財布

駆け出しの自営業者やフリーランスに多く見られるお財布。お財布はお金のホテルであると私は考えているが、このお財布には絆創膏、胃薬、名刺、忘備のための付箋など、お金以外のものがたくさん入っており、バッグ化している。

こうして、お財布にさまざまな「備品」を入れたがることは、持ち主が生存の不安を抱えていることの表れだ。生きることが不安な人、自信のない人のところに、お金が集まってくることはない。

【C】遊び人財布

ステッチがお洒落な、趣味的なお財布である。汚れがむしろ味わいになっていて、それはそれで悪くない。

しかし、大きな破れが放置されていたり、中に宝くじが入れてあるのはいただけない。破れの放置は、お金の扱いがぞんざいであることの表れだ。また、宝くじは還元率が最も低い賭け事であり(宝くじ45%、競馬75%)、稼ぐ人は100%買わない。このお財布の持ち主は、センスはいいが人生観が遊び人的であり、決してお金に好かれる人ではないはずだ。

■財布マイスター・亀田先生の財布を大解剖!

【1】長財布が鉄則!

お金持ちは、例外なく長財布を使っている。なぜなら、お金持ちはお金をもてなしたいというマインドを持っているからだ。お金をもてなすには、お金が居心地のいい空間を提供しなくてはならない。それには、お金が思い切り手足を伸ばせる長財布が最適なのだ。お財布は、お金のホテル。ホテルの居心地がよければ、お金は仲間を連れてリピートしてくれる。

【2】札は揃えて入れるべし

お札は、上下の向きを揃えて入れる。頭を下向きにすると「入りやすく出にくい」と言われるが、「お金は世間を旅させたほうが大きくなって帰ってくるから上向きに」という人もいる。大切なのは、お札の向きを揃えることで、お金を意識することにある。お金を常に気にかける姿勢が、やがてお金をコントロールする力につながっていく。

【3】余分なものは入れない

お金持ちの財布は、必ず薄い。お札以外に余計なものが入っていないからだ。領収書、ポイントカード、お守りや縁起物などでパンパンになったメタボ財布は、間違いなくお金に嫌われる。なぜなら、お金の居場所が狭いからだ。また、毎日、お財布の掃除をしたい。それは残金のチェックにもなり、お金の使い方を意識することにも役立つ。

【4】カードは必要最低限を

クレジットカードやポイントカードは、財布にあいた「お金の漏れ口」だ。カードを使って買い物をすると、必ずポイントという特典がついてくる。それゆえ、ポイントを貯めるために買い物をするという本末転倒に陥りやすいのだ。これでは、お金どころか、カードにコントロールされているようなもの。カード類は必要最低限に抑えよう。

【5】小銭入れは別に持つ

お金持ちの多くは、札入れと小銭入れを分けている。なぜか。お札と小銭を一緒にすることに「違和感」があるからだ。お財布はお金のホテル、歴史上の偉人が描かれたお札は、お金界のVIP。VIPにくつろいでもらうホテルに、小銭君たちはちょっと邪魔。こうしてお金の世界の物語を空想することで、お金をポジティブに捉えられる。

※すべて雑誌掲載当時

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資金繰り改善コンサルタント兼税理士、ブリンク・リンク・パートナーズ代表取締役 
亀田潤一郎 
1967年、神奈川県生まれ。大学卒業後、税理士事務所、経営コンサルティング会社を経て2003年5月に税理士開業。数字に苦手意識を抱く中小企業経営者向けに独自の通帳活用法を開発、「資金繰り改善コンサルタント」として活躍中。著書に『通帳は4つに分けなさい』『稼ぐ人はなぜ、長財布を使うのか?』がある。

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(資金繰り改善コンサルタント兼税理士、ブリンク・リンク・パートナーズ代表取締役 亀田潤一郎 構成=山田清機 撮影=牧田健太郎)