今年1月11日頃から、北京をはじめ、中国の主要都市各地で、中国史上かつてないほど深刻な大気汚染状態が続いているのを、ご存じだろうか。

英国BBC放送の北京特派員が「ひどいスモッグで数百メートル先も見えない」と、その惨状を報じれば、中国の環境科学研究院の研究員でさえ、米国ロサンゼルス・タイムズ紙の取材に応じ、「これほどひどいのは史上初のこと」と認めているほど、事態は深刻だ。
「北京市当局は"健康によくない"と、市民に異例の"外出自粛令"を出しています。それでも、呼吸器系疾患の患者などが次々と病院に担ぎ込まれ、急死する人も出ています。また、外出する際の必需品であるマスクが店頭から消えていますね」(全国紙外信部記者)

もっとも、中国の大気汚染のひどさは、いまに始まったことではない。

「開放経済の下、工場がどんどん建てられ、多くの富裕層が生まれた結果、車が急激に増えました。その一方で、環境保護の意識は依然低い。中国の経済発展はコストの低さに大きく依存していますが、環境保護のためには莫大な費用がかかりますからね。大気汚染は、すでに10年ぐらい前から顕在化し、ますます悪化しています」
こう語るのは、中国事情に詳しい国際政治経済学者で、参議院議員(国民新党)でもある浜田和幸氏だ。

工場からの煤煙、車の排ガスはもちろん、いまの季節は暖房用に燃やす石炭から出るガスも加わる。中国では、いまも暖房のメインは石炭なのだ。
「今回、大気汚染が深刻化したのは、これに天候条件も加わったためです。このところ晴天が続いたことで放射冷却現象が起き、北京など主要都市部周辺の地表近くの高湿度の空気がほとんど動かず、汚染物質が濃縮されたんでしょう」(気象予報士)

この大気汚染の度合いの基準として、直径2・5マイクロメートル(μm=1ミリの100分の1)の粒子状物質の濃度がある。日本では、この濃度が1日平均1立方メートル当たり35μg以上だと"危険"とされるが、今回、北京では一時、その25倍近い数値(900μg)を観測したという。

その健康被害について、医療ジャーナリストの牧潤二氏が解説する。
「2・5μmどころか10μm以下の微粒子でも、肺胞に沈着します。すると肺の機能が落ち、呼吸器疾患や心臓病での死亡率が高まります。また、肺がんのリスクも高めるようです。猛毒で知られるアスベストも同じ原理です」

粒子状物質はまさに"猛毒"そのものなのだが、大気に含まれる汚染物質は、これだけに留まらない。
「工場の煤煙、車の排ガスの中には一酸化炭素、二酸化硫黄、窒素酸化物などの有害物質も含まれています。たとえば、窒素酸化物は気道周辺を敏感にし、結果、喘息や花粉症を引き起こすとされます」(前同)

そうした結果、北京、上海、広州、西安の4都市だけで昨年、約8600人が死亡したと、北京大学などが調査結果を出したことがある。

さらに、大気汚染物質が既存の病気のリスクを高めた結果、中国の主要都市部では「年間30万人前後が死亡。約60万人が呼吸器系疾患で入院、25万人以上が慢性気管支炎になっている」と、中国広東省の週刊新聞『南方週末』は報じた。

年間30万人が死亡――信じがたい数字だが、そのすべてが大気汚染が直接原因ではないだろうが、それでも、前出・浜田氏はこう見る。
「日本でも高度経済成長期、やはり大気汚染をはじめとする公害が問題になりましたが、ほどなく法律で規制されました。ですが、中国では、いまだに本気で規制する動きがない。やはり、一党独裁の中国は強権的で、国民の人権は軽いといわざるを得ません。それに、私はもっと驚くべき話を聞いています。北京市内だけで毎年、夥しい数の障害を持った子供が生まれているというんです。むろん、中国政府は公表していませんが。水や食料のひどさもそうでしょうが、大気汚染も原因の一つではないかといわれているんです」

そうした大気汚染から身を守るため、中国では北京をはじめ、周辺地域の人々は、室内では空気清浄機の使用が、戸外ではマスクの着用が当たり前になっている。では、マスクの効果はどの程度のものなのか。
「一般のマスクの網の目の大きさは4〜5μm。花粉は30〜40μmなのでカットできますが、これに対し、粒子状物質は2・5μm以下と、これより小さいので、微粒子用マスク以外は効果はほとんど期待できません。その微粒子用マスクでさえ、完全にシャットアウトすることはできないんです……」(医療関係者)

2月5日公開のvol.2に続く・・・。

週刊大衆2月11日号