絶対計算者の話




『マネーボール』という映画をご存じでしょうか。この映画は同名のドキュメンタリー本(ビジネス本)を基にしています。弱小球団だった『オークランド・アスレチックス』が「ある理論」に基づいてチームを作り、メジャーリーグの中で非常に効率良く常勝軍団となったという「実話」です。このような話はほかにもあって……。





■経験や勘ではない! きちんと数字で証明する!



経験や勘で説明されてきたことに、データ解析の光が当たり、その経験や勘を完膚なきまでに打ち負かす事態が起こっています。それを成し遂げる、データの定量分析人、それを「絶対計算者」と呼びます。



絶対計算者は、しばしばビッグデータと呼ばれる莫大(ばくだい)なデータの統計分析を行い、意思決定に何が必要なのか、その「因子」を抽出して、必要な式を作り出してみせます。その式の精度は高く、今まで思いもしなかった「因子」が高い影響力を持っていることが分かるのです。



ここでは2例を挙げます。



一つは、ワインの味と性格を熟知しないと分かりゃしないといわれてきた「ワインの価値」を、樽で熟成する前に正確に予測するべく式を作り出した例。



もう一つは、弱小集団だった『オークランド・アスレチックス』を効率良くメジャーリーグの強い球団にした、セイバーメトリックス理論の出自についてです。



■ワインの未来の価格を当てる数式



オーリー・アッシェンフェルターという人が考え出しました。この人はワインが好きで「将来のワインの価格を予測できないか」と考えたのです。



というのは、ワインは投資と同じで、その年のワイン造りを終えて、最終的に樽に寝かせてからある程度の年月がたつまで「どのくらいの価値」になるのか誰にも分からないのです。



ワインの達人と称する人が口に含んでテイスティングして……ご託宣を下すわけです(笑)。アッシェンフェルターさんは、そんなことではなく、もっと絶対的に計算できないのか、統計分析の手法を用いました。



生産年のどんな特徴、すなわち「因子」がワインの価格の高低に影響するのかを分析してみたのです。するとボルドーワインに関しては以下の式が導かれました。



ワインの質 = 12.145+0.00117 × 冬の降雨量 + 0.0614 × 育成期平均気温 - 0.00386 × 収穫期降雨量



つまり、ワインの質というものには(ワインの価格の高低には)、冬の降雨量、育成期の平均気温、収穫期の降雨量が最も影響ある「因子」であることが抽出されたのです。数式の言わんとしていることは誰にでも分かるでしょう。「冬の降雨量が多く、育成期の平均気温が高く、収穫期の降雨量が少ないほど、ワインの質は高くなる」ということです。



お偉い評論家や従来の業者たちはアッシェンフェルターさんの予測を「バカバカしい」としました。しかし! 実はアッシェンフェルターさんの予測は彼らの予測よりもはるかに的中するし信頼度も高いものだったのです。



■野球の得点を導く数式



映画『マネーボール』の基になった、セイバーメトリックス理論の元祖。それはビル・ジェームズさんが自費出版した本『野球抄1977-知られざる18種類のデータ情報』で書いたものでした。最初は75人しか読者がいなかったそうです。



ジェームズさんはこの中で、選手を評価する際のデータを何とすべきかと読者に問います。「エラーを数え上げることは無駄」、「スコアブックからは何も分からない」といった提言をしています。



これは、つまり「因子」は何かを指摘する行為です。野球というゲームを支配するために、どのような因子を評価すべきなのかを問い直しているわけです。彼は自身の提言を自分流にこう言っています。「計算方法を工夫するんだ」と。



1978年、1979年の『野球抄』を経て、彼は膨大なデータを収録し、また手計算によって式を作り上げます。それは野球の得点とは……という式でした。



得点数 = (ヒット数 + 四球数) × 塁打数 ÷ (打数 + 四球数)



彼がこれを作り上げた時点ではもちろんこれは仮説です。ただし目の前にある「現実の得点」は、このようにして成立していると、彼が提示してみせたことに大きな意味があります。これこそ絶対計算者の本領発揮だからです。



ジェームズさんはこの「野球データ解析」を「セイバーメトリックス」と名付けました。セイバー(SABR)はアメリカ野球研究協会の略です。



野球のデータを解析するのを趣味にしている人は、ビル・ジェームズさん以外にも全米にいました。例えば、ピート・パーマーさんという有名な人がいます。この人は「バント、盗塁、ヒットエンドランはすべて自殺行為だ」と論証してみせました。



■アスレチックスのチーム編成はただ勝利のために!



メジャーリーグでは、一部のお金持ち集団はともかく、貧乏な球団は大変です。スタープレイヤーを獲得するのはお金がかかりますし、それでも常勝というわけにはいきません。



オークランド・アスレチックスは知恵を絞ります。野球で勝つために必要な選手とはそもそもどんな選手なのか? 彼らは独自の統計理論によって、選手を探し、チームを編成します。例えば、最も大事な数字は「出塁率」であること。



全米の球団のデータを洗い、安くても出塁率の高い選手を探し出し、その人をチームに入れます。これは革命でした。スカウトが見てきた結果などものともせず、統計学の手法によって見いだした「解答」でチーム編成を行いました。



結果、彼らは正しかったのです。オークランド・アスレチックスはお金をかけず、最も効率良く勝利を積み上げる球団になりました。2000-2002年のシーズン平均では、アスレチックスは50万ドルで1勝、テキサス・レンジャーズは300万ドルで1勝だったそうです。



この大成功を収めたのがアスレチックスのGM、ビリー・ビーンでした。そりゃ映画にもなろうってもんです。



セイバーメトリックス理論を見ていると、「監督なんかいらないんじゃないの」と思わせられます。実際にこれらの理論を基に強い球団になったアスレチックスでは、確かに監督はさほど重要視されていませんでした。



アスレチックスの秘密が明らかになり、他の球団も同様の手法を取ることによって、また新しい「勝つ公式」が生まれてきています。野球においては絶対計算者の戦いはこれからも続くのでしょう。







(高橋モータース@dcp)







アメリカ野球研究協会(SABR)のサイト

http://sabr.org/