気温が45℃になったら人間って生きられるの? -もしも科学シリーズ(39)




NASA・ゴダード宇宙研究所は、2013年は過去最高の暑さになると予測した。今後も気温は上昇し続けるというから、年々と夏がつらくなる。





もしも地球が暑くなったら、人間は耐えられるのだろうか?上昇する体温は暑熱障害を引き起こし、脳細胞へダメージを与える。細胞のタンパク質変性が起きれば、回復はおろか生存の見込みもなくなる。



■ハードボイルドなオレ



2012年の地球の平均気温は14.5℃で、20世紀の平均よりも0.57℃高く、NASAの記録では歴代9位の高温となった。気温上昇は36年間続き、10年ごとの変化は1880年と比べて+0.06℃、1970年以降は+0.16℃と、加速度的に上昇している。





人間を含む恒温動物は熱を作り出すのと同時に、上がり過ぎた体温を下げる放熱をおこなう。メカニズムは大別して、汗による蒸発性熱放散(ねつほうさん)と、汗以外の非蒸発性熱放散の2種類に分けられ、後者はさらに、からだに触れた物質に熱を逃がす伝導、触れていない物質への放射、体温で温められた空気による対流の3つに分かれる。



無風状態ではおよそ60%が放射、20%が伝導と対流でまかなわれ、風や運動で触れる空気が増えると伝導/対流は大幅に向上する。これに加え、吐く息(呼気)や皮膚から放出される水分も放熱に役立っている。



気づかないうちに蒸発するので不感蒸泄(じょうせつ)と呼ばれ、標準的な成人は皮膚から600ml(ミリ・リットル)、呼気から300ml、合わせて1リットルほどの水分が知らぬ間に1日で放出され、体温調節をおこなっているのだ。



体温は腋(わき)や口で測るのが定番だが、生死の局面では直腸など中枢(ちゅうすう)体温が決め手となる。中枢体温は外側に熱を逃がすので、肌の温度は中枢体温よりも低くなければコントロールできない。気温32℃以下なら無風状態でも問題ないが、これを超えたり運動で体温が上がると、気化熱で肌温度を下げるために汗が出る。



水1g(グラム)が蒸発すると約0.58kcal(キロ・カロリー)を放熱できるので、人間の比熱=約0.83に当てはめると、体重60kgの人間の体温1℃は60×0.83÷0.58=約85.9gの汗で下げられる。



もしも気温が上がり続けたらどうなるか?中枢体温は35.5〜37.5℃なら正常、病気や激しい運動による一時的な発熱でも40℃程度は問題ないが、41℃を超えると生命の危険が始まる。



41〜44℃になると暑熱障害が起き、血流を増やそうとする末梢血管が拡張による熱失神、電解質や塩分不足から起きる熱けいれん、激しい渇きや脱力感を感じる熱疲弊(ひへい)が起きる。体力がないひとが42℃に達すると、10時間程度で死亡するから要注意だ。



44〜45℃は生存限界の境界線で、気合と根性で頑張っても数時間しか耐えられない。人体でもっとも熱に弱い脳には、体温が上昇しても熱い血液が届かないシステムが備えられているのだが、冷却そのものがままならぬ気温では、熱い血潮が脳を破壊する。45℃を超えると細胞のタンパク質が変性し、回復はおろか生存の見込みも薄い。



ゆで卵を冷やしても生卵には戻らない。同様に、皮膚や筋肉が変性してしまうと二度と戻らない。「固ゆで」が語源のハードボイルドは、からだには要らない。生きざまだけで結構だ。



■飛び出すな青春



汗や不感蒸泄で失う水分も大きな問題だ。体重に対して失うおよその水分と症状をまとめると、



 ・2〜4% … 強い渇き、不快感、食欲減退



 ・6〜8% … 腕手足の打診痛、よろめき、頭痛



 ・10〜12% … 筋のけいれん、全身無力、腎不全



 ・14〜16% … 皮膚のしわ、眼球陥没、排尿痛



18%を超えると皮膚に亀裂が生じ、尿も作れなくなる。20%失うと生存限界に達し死亡する。



体温を下げるための汗も、身を削った自衛手段にすぎない。しかも、流れ落ちる汗は肌の温度をまったく下げないので、常に不快な汗ダク状態を維持しなければならない。ふかない方が早く汗がひくと言われているのはこのためだ。滴(したた)る汗に意味がないなら、青春ドラマの主人公は浮かばれない。



■まとめ



2003年の猛暑による死者はヨーロッパだけで5万2千人に及ぶというから、気温上昇は近代の疫病とでも呼ぶべきだろう。



もっとも高温でも活動できる生物は、アリ(Cataglyphis bicolor)の55℃。乾燥に強いクマムシも150℃まで耐えられるのに、人間は地球の庇護なしでは生きられない。



来たるべき今年の猛暑に向けて、そろそろゴーヤの種をまこうか。



(関口 寿/ガリレオワークス)