不快指数224.8!巨大洞窟(どうくつ)に迷い込んだら - もしも科学シリーズ(40)


世界最大の洞窟(どうくつ)はベトナムのソンドン洞窟(どうくつ)。あまりにも大き過ぎて、発見から3年たっても調査が完了していない。そんな巨大空間が近年まで見つからなかったのだから、地球はまだまだ未開拓だ。



もしも洞窟(どうくつ)に迷い込んだらどうなるのか?高まる気圧、高温多湿が体力を奪い、似た風景が方向感覚をまひさせる。硫酸、感染症、飢えた洞穴(どうけつ)生物におびえながら、さまよい続けることになりそうだ。



■不快指数224.8



広さ世界一のソンドン洞窟(どうくつ)は、現在分かっているだけでも幅200m、高さ250m、長さ9kmに及び、調査が進めばさらに広がる可能性が高い。長さならアメリカのマンモス・ケーブの総延長591km、水中洞窟(どうくつ)はメキシコのオックス・ベル・ハの240kmが世界最長だ。



もっとも深い洞窟(どうくつ)はグルジアのクルベラ洞窟(どうくつ)の2,191m、人工的な深さは南アフリカのタウトナ鉱山の3,900m、旧・ソビエト連邦がおこなったコラ半島の試験採掘では12.3kmが最深だ。マリアナ海溝が深さ11kmほどだから、自然よりも掘り下げたことになる。



高山で気圧が下がるのとは逆に、のしかかる空気が増える地下は気圧が高くなる。これらの深さをマイナスの標高として気圧を計算すると、



 ・エベレスト山頂 … 0.3気圧



 ・富士山山頂 … 0.6気圧



 ・平均海面気圧 … 1気圧



 ・クルベラ洞窟(どうくつ) … 1.32気圧



 ・タウトナ鉱山 … 1.65気圧



 ・コラ半島 … 5.93気圧



だ。クルベラ洞窟(どうくつ)の最深部では、富士山に登ったのとほぼ同等の気圧変化を受ける。水中では10m潜るごとに1気圧高まるので、タウトナ鉱山なら7m、コラ半島では50mほど潜るのに匹敵する。時間をかけて昇降し、からだを順化させた方が身のためだ。



気圧よりも問題となるのは温度だ。地球核からもたらされる高熱と放射性物質の崩壊熱を受け、深い場所ほど熱くなるからだ。深さと温度上昇の関係は地温勾配(ちおんこうばい)と呼ばれ、地下およそ10,000mまでは、100m下がるごとに2.5〜3℃上昇する。地球の平均気温を15℃、100m下がるごとに2.5℃上昇すると、クルベラ洞窟(どうくつ)はおよそ70℃、タウトナ鉱山では112.5℃になる計算だ。



高温と相まって、水分の多い地下では不快指数が一気に上昇する。地下都市で知られるトルコのカッパドキアでは、気温12℃でも、10mほど掘り下げた地下4階では湿度90%以上になる。高い湿度は汗の蒸発を妨げ、からだに熱をこもらせる。汗をかいても体温は下がらず、脱水症状と暑熱障害の二重奏を見舞うことになる。湿度90%をもとに不快指数を計算すると、12℃は53.8で寒いと感じる範囲だが、70℃なら152.5、112.5℃では224.8となる。55〜85が一般的に許容できる数値だから、クルベラ洞窟(どうくつ)もタウトナ鉱山も非常識なほど不快な空間だ。



■危険がいっぱい



有毒ガスも忘れてはいけない。火山性ガスでおなじみの硫化水素が、湧き出る水や石油によって運ばれてくるのだ。硫化水素は空気よりも重く、酸性の気体で強い刺激臭を持つ。たった100万分の0.3 (=0.3ppm)の量で誰もが気づくほどの臭気を放ち、10ppmでは目に刺激を感じ、20〜30ppmになると肺が刺激される。170〜300ppmまで上昇すると気道や粘膜にヒリヒリした痛みを感じ、700ppmで呼吸マヒや窒息死に至る。さらに濃度が高まると引火爆発の危険、酸素と結びつけば硫酸に変わり、あらゆる角度から生物を苦しめる。その硫化水素をエサにする極限環境微生物(バクテリア)もいるが、人間にとってはデメリット以外、何もない。



洞穴生物も大きな脅威となる。ソンドン洞窟(どうくつ)の調査隊は毒ムカデに悩まされていると聞くが、直接/間接どちらも危険な生き物はコウモリだ。夜行性で視力に頼らず生活するコウモリにとって洞窟(どうくつ)はかっこうの住処(すみか)となり、180万匹と推定されるフィリピンのモンフォート洞窟(どうくつ)のように大コロニーを形成しているケースが多い。



コウモリに咬まれたり引っかかれると、狂犬病に感染する恐れがある。日本ではあまり聞かれなくなった病気だが、いまだに有効な治療方法が確立されていないため、発症するとほぼ100%死亡する。



たとえ接触しなくても、フンから感染する病気がある。光のない洞窟(どうくつ)では、コウモリの糞尿が植物の代わりとなり、昆虫や微生物の貴重な栄養源となっているのだが、同時にウィルスや菌の温床の役割を果たす。腎症候性出血熱を引き起こすハンタウイルスや、ヒストプラズマ症の原因となるカビの一種を増殖させているのだ。ある洞窟(どうくつ)の観光ツアーでは、8名の観光客全員がヒストプラズマに感染した。わずか2時間ほどの滞在だったが、洞窟(どうくつ)内に舞ったヒストプラズマを吸い込んだのが原因というから、安心して息もできない。

それが洞窟(どうくつ)だ。



■まとめ



幻想的な鍾(しょう)乳洞は、水に溶けた炭酸カルシウムから生まれる。天井から下がる鍾乳石は1cm伸びるのに数十〜百年、地面から生える石筍(せきじゅん)はそれ以上かかるから、人間の一生など、意味をなさない時間にすぎない。



コラ半島の試験採掘も地球のたった0.19%掘り下げたけだ。自分の住む惑星を知るには、まだまだ時間がかかりそうだ。



(関口 寿/ガリレオワークス)