小宮コンサルタンツ代表取締役 小宮一慶氏

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環境が厳しくなると実力のない人から淘汰されてゆきます。ホンモノしか生き残れない。そういう時期に何をすべきかといえば、まずは自分の仕事と当面の財産を確保することです。それができたら、ホンモノの実力を蓄える努力をする。

厳しい時代にはさまざまな外壁や虚飾が剥がれてくるので、物事の本質があらわになりやすい。自分自身でもこれではダメだと感じやすい時期です。ダメだと感じた人は本質に戻って、じっくり勉強したほうがいい。ダメだと思わなくても勉強する。困らないうちにしておくのが勉強の本質です。いいときも悪いときもコツコツやろうというのが日本人という民族の美徳ではないかと思います。

バブル崩壊後に『清貧の思想』(中野孝次著)が流行しましたが、今また戦後最長といわれた好景気が終焉を迎え、チャラチャラした時代は終わった。本質に戻って、自分を磨く時代に回帰したのです。

いずれまた好景気の波がやってくるのだから、今のしんどい時期を前向きにとらえて、勉強のチャンスだと考える。

不景気といっても大多数の人は仕事を失うわけではありません。失業率が上がってもピークは6%、その手前の5%台で止まると思います。それ以上悪化したら大変ですが、過去の経験則からいってそこまでにはならない。ただし給料やボーナスは減るかもしれません。残業も減る。だからこそ「勉強時間ができた」と思えばいい。

では自分の実力を上げるためには、どんな勉強をすればよいのでしょうか。明治大学の会計大学院で教えていた学生に私がよく言ったのは「頭をよくしたほうが早い」ということです。

会計士の試験は司法試験と同じで会計知識を暗記することが多いので、いかに要領よくものを覚えるかが勉強だと思い込んでいる学生が多い。しかし本当に大事なのは、会計学の本質を理解して頭をよくすること。頭をよくすれば、枝葉末節の会計知識も体系的に理解できるようになるし、会計士の方には失礼な言い方ですが、会計士の試験ぐらいはわりと簡単にパスできるのです。

実力アップにとって大事なのは、知識を詰め込むことではなく、頭をよくすることです。2000ccのクルマも4000ccのクルマも時速100キロで走る分には問題ありませんが、長時間の高速クルージングでは自力の差が出る。坂道や山道を登るときにはやはり4000ccのほうが余力はあります。

頭をよくするというのは、クルマでいうとエンジンの排気量を大きくすることです。2000ccよりも4000ccのほうが楽に走れる。小さなエンジンをやたらにふかしても、実力がないからどこかで息切れします。

頭をよくするという言い方に語弊があれば、思考を磨く、論理的思考力を高めると言い換えてもいい。これはビジネスにとってきわめて重要な“実力”です。特に社会的地位が上がって管理職、経営幹部の立場になれば、難しい判断やデシジョンメーキングを迫られる。そこでは必ず論理的に深い思考ができるかどうかが問われます。

ところが毎日散歩していても急にはマラソンが走れないように、日頃から頭に負荷をかけて、筋力を高め、持久力を養わなければ、ホンモノの論理的思考力は身につきません。複雑な論理思考ができないと、複雑な事象に出くわしたときに「バカの壁」にぶち当たる。

一部の人は反省してそこから壁を乗り越えようと頑張る。しかし一部の人は自分が理解できないのは世の中が悪いと思い込んでしまう。自分の実力を高めたいとか、勉強しようという気持ちがなくなったら、これはもう末期的です。

※すべて雑誌掲載当時

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小宮コンサルタンツ代表取締役 小宮一慶
経営コンサルタント。京都大学法学部卒。東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行、米国ダートマス大学経営大学院にてMBA取得。2005年から09年3月まで明治大学大学院会計専門職研究科特任教授。1996年より現職。『ビジネスマンのための「読書力」養成講座』など数々のベストセラーをもつ。

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(小宮コンサルタンツ代表取締役 小宮一慶 構成=小川 剛 撮影=小倉和徳)