日本の海を支える! 「海上技術安全研究所」




日本は島しょ国家ですから、海上通商路と、そこを行き来する船舶はとても重要です。日本は、この重要な船舶に関して世界をリードする技術を持っていますが、その技術革新を後ろから支えてきた「施設」が東京都三鷹市にあります。『海上技術安全研究所』です。

この日本の誇る施設に関して、独立行政法人 海上技術研究所 企画部の広報主管、福田勝夫さんにお話を伺いました。



■なんと100年近い歴史のある組織



――知らない人の方が多いと思うので、まずこの海上技術安全研究所の沿革について教えてください。



福田主管 当研究所の発足は1916年(大正5年)にまでさかのぼります。同年7月に逓信(ていしん)省管船局所属の「船用品検査所」として発足したのがそれです。



その後、1927年(昭和2年)11月に「船舶試験所」に改称されています。戦後になり、1950年(昭和25年)4月に運輸省運輸技術研究所がその機能を引き継ぎました。



さらに1963年(昭和38年)4月に「船舶技術研究所」へと改組され、2001年(平成13年)4月に独立行政法人「海上技術安全研究所」として発足して現在に至っています。



――もう100年近い歴史のある組織なんですね。



福田主管 そうなりますね。逓信省といっても今の人たちにはピンとこないでしょうが。もちろん、私も名前を知るだけで……。



――現在はどのような仕事をしている研究所なのでしょうか。



福田主管 四面を海に囲まれた日本にとって海上輸送の重要性は言うまでもないことですが、安全で環境に優しい海上輸送を実現するためには高い技術力が求められています。



また、その技術力は日本の海事産業にとって競争力の源泉ともなっています。省エネ船の技術などがそうですね。



当研究所はそうした行政、産業界からの要請に応えるための技術基盤・拠点と理解してもらえればいいと思います。



――研究施設としてどのようなものがあるのでしょうか。



福田主管 例えば、400メートル試験水槽というものがありますが、ここでは実際の船舶の模型を使って、実際に走らせ、その特性を実験できます。



また「海洋構造物試験水槽」では、造波装置、送風装置を備えていますが、例えば洋上プラットホームなどの模型を置いて、波や風を送って建物に働く力をシミュレートしてみたりします。



――船舶の運航性能や海洋構造物の耐久性などの試験ができるわけですね?



福田主管 そうです。「氷海船舶試験場」では、水槽に氷を張って砕氷船の運航性能も試験できます。近年の地球温暖化の影響で北極海の氷が解けて、そこに国際航路が開かれる可能性が再び注目されるようになりましたから、こうした水槽の利用が今後多くなるかもしれません。



――この研究所にはいくつの実験施設があるのでしょうか?



福田主管 現在、10以上の施設があります。



■海上技術安全研究所の持つ実験施設



・400メートル試験水槽(大水槽)

・中水槽

・大型キャビテーション試験水槽

・氷海船舶試験場

・実海域再現水槽

・複合荷重試験装置

・電子顕微鏡

・操船リスクシミュレータ

・変動風水洞

・深海水槽

・海洋構造物試験水槽

・高圧タンク



■海難事故の究明にも力を発揮する!



――その中で最新の施設といいますと?



福田主管 2010年9月に稼働した「実海域再現水槽」ですね。



――どんな水槽施設なのでしょうか?



福田主管 その名のとおり、実際の海域で発生している波や風の状況、その中での船舶の運航状況、海難事故の発生過程などを高い精度で再現できる最新鋭の施設です。



長さ80m、幅40m、深さ4.5mの水槽の周囲には382基の造波装置が付いています。また、送風装置もあります。



――この施設を使って行った実験例はありますか?



福田主管 2009年11月に三重県熊野灘で『ありあけ』というフェリー船が船体傾斜する事故が起きました。



実海域再現水槽では、運輸安全委員会の事故原因調査において推定された同船の船体傾斜に至る過程の検証を行って成功しました。



――なるほど。そうすると、海難事故の原因解析というのも重要な仕事の一つなんですか。



福田主管 ええ。当研究所には「海難事故解析センター」という機関があります。2008年9月に発足しました。常設の機関ではないのですが、重大な海難事故が発生した際に、それぞれ豊富な専門的知見を持つ研究者が集まって事故情報を解析します。



その結果を迅速に発信するとともに、詳細解析が必要な場合には事故再現や各種状況のシミュレーションを行うことにより、国の再発防止対策の立案などへの支援を行っていくことを目的としています。



――ほかにもこの施設の利用の仕方といいますと?



福田主管 例えば、造船会社などが船の模型を使って将来開発する次世代船舶の運航性能を実験するといったケースですね。



コンピュータでシミュレートするというのではなく、実海域でのさまざまな波や風の状況を再現して運航性能や安全性能を調べるわけです。



■深海をシミュレートする施設もある!



――ほかにも「深海水槽」や「変動風水洞」といったユニークな施設がありますね。



福田主管 ご承知と思いますが、日本は世界第6位といわれる広大な排他的経済水域(EEZ)を持っており、これを有効活用することが日本の将来の発展に欠かせないものとなっています。



そこで当研究所では、大水深での海洋石油・ガス開発、黒鉱型熱水鉱床やマンガン団塊などの深海底鉱物資源、大水深科学掘削などにおける海中・海底機器の安全性評価技術の開発にも取り組んでいます。



また、浮体式洋上風力発電や潮流・海流発電などの海洋再生可能エネルギーの利用実現に向けても浮体技術等に関する研究を行っています。深海水槽や変動風水洞などはそうした開発・研究に欠かせない実験施設となっています。



――なるほど。船舶技術だけに限らないわけですね。海洋開発などの分野での最近のトピックスはありますか。



福田主管 例えば、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)さんが実施している海底熱水鉱床の開発事業の一環として採掘要素技術試験機の開発にかかわっています。その試験機は2012年9月、JOGMECさんの調査船「白嶺」に搭載されて、洋上試験が行われました。



■日本の船舶の技術革新はどこへ向かう!?



――海技研はさまざまな実験施設で日本の船舶の技術革新を助けていますが、今はどんな方向を志向しているのでしょうか。



福田主管 現在、海運の分野でも「環境問題への対応」が重要な課題となっています。これは少し専門的になってしまいますが、国際航路に就航する船舶に対して「CO2排出規制」が課せられることがIMO(国際海事機関)という国際協議機関の場で決まりました。



これにより、2013年1月以降に建造契約が結ばれる新造船は、エネルギー効率設計指標(EEDI)、簡単にいえばトンマイル当たりのCO2排出量の計算と船種ごとに設定されたCO2排出基準を満たすことが義務付けられることになりました。



当研究所は造船所がそのEEDI認証を得るための技術的な支援を行っていこうとしています。



――船の世界でもエコなんですね。



福田主管 ええ。この新しい国際規制は、日本が主導する形で採択されました。日本の進んだ環境対策技術や省エネ技術によって、日本の海事産業の国際競争力の強化につながるチャンスになるんではないかと考えられています。



――そこにも海技研の果たすべき役割があるわけですね。



福田主管 ええ。既に当研究所にはそのためのプロジェクトチームも発足しています。CO2排出規制は段階的に強化されていきますから、当研究所の環境対策技術、省エネ技術に対する期待は大きいように思いますね。



日本の船舶技術の高度化には、このようなバックアップ組織の果たす役割も大きいと思われます。皆さんは「海上技術安全研究所」を知っていましたか?







(高橋モータース@dcp)