「史上最年長」の黒田夏子氏と「戦後最年少」の朝井リョウの2人が話題となった、第148回芥川賞・直木賞。しかし、そのなかでベテラン作家として存在感を示したのが、『等伯』で直木賞を受賞した安部龍太郎氏でした。受賞作『等伯』は、戦国という激動の時代を生き抜いた実在の絵師「長谷川等伯」の物語。

 安部氏は、『天馬、翔ける』で第11回中山義秀文学賞を受賞。また、『彷徨える帝』が第111回・直木賞候補に(受賞ならず)。他にも、『信長燃ゆ』『生きて候』などを発表しており、歴史小説作家として安定した人気を誇っています。

 「都に出て天下一の絵師になる――武家から養家に出された能登の絵仏師・長谷川信春の強い想いが、戦国の世にあって次々と悲劇を呼ぶ。身近な者の死、戦乱の殺戮......それでも真実を見るのが絵師。その焦熱の道はどこへ。」と紹介される直木賞受賞作の『等伯』。現代ほど芸術に関する環境が整っていない戦国時代に、絵に没頭する等伯は、世界中の"天才"と呼ばれるアーティストと肩を並べるほどの力の持ち主でした。

 戦うことだけが良しとされる戦国時代。その戦いの裏側では、様々な汚い駆け引きが行われていたことでしょう。そんな中、絵だけは自分を裏切らないと、この混乱の時代を、身を削りながらも生き抜いた等伯。思うようにはいかないことばかりの難しい時代で、どう絵師として活躍したのでしょうか。気になるところです。

 そんな力強い等伯の姿は、安部氏本人と重なるのかもしれません。前回、直木賞候補作にあがったのは、19年も前のこと。それから何の音沙汰もなかったのです、穏やかな時間だけが流れていたとは思えません。苦悩しながらも自分の表現を追求し、世間の評価と戦いながらも、安部氏は歴史小説を書き続けました。「小説だけは自分を裏切らない」そんな気持ちがつまったのが、直木賞受賞作『等伯』なのかもしれません。

 絵師と作家の「苦悩」と「喜び」が相まった作品だと言えるでしょう。



『等伯 〈上〉』
 著者:安部 龍太郎
 出版社:日本経済新聞出版社
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