六ツ野英語教室 主宰 森沢洋介氏

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■600点までなら「音読」だけでもOK

英語をやり直そうと考えたとき、多少の心得があると、難しい参考書に挑みがちだ。だが英語講師は共通して「基礎からやり直せ」と強調する。

「やり直し」を訴える講師のうち、漫画『ドラゴン桜』のモデルの1人で、『ドラゴン・イングリッシュ基本英文100』『竹岡式やり直し英語』の著者・竹岡広信さんと、『どんどん話すための瞬間英作文トレーニング』の著者・森沢洋介さんには共通点がある。2人ともかつて英語が苦手だったのだ。

森沢さんは、自分の経験について「外国語に憧れ、いろんな学習法を試しては失敗を重ねた」と振り返る。

たとえば「英語上達への近道」と聞いて、英語放送のラジオ「FEN(現AFN)」を1年間聞き続けたり、英語で書かれた小説の丸暗記に打ち込んだりした。そうした紆余曲折を経て、ある結論に到達したという。

「文法や語彙といった知識は、大学入学までに勉強した『受験英語』で、ある程度は身についています。それにもかかわらず、簡単な英作文もできず、日常会話にも事欠く人が多いのは、日本語と英語を変換する回路ができあがっていないから。知識を円滑に稼働させるトレーニングが必要なんです」

間違ったトレーニングは体を壊すだけだ。英語についても「英語放送を聞き流す」「海外留学で英語まみれの生活をする」といった方法では、回路は稼働しない。森沢さんはいう。

「ベンチプレスでいきなり100キロを挙げようとしても無理ですよね。語学学習も同じ。軽すぎるような負荷から始めて、徐々にきつくする。そのうち、感覚的に英語を受け入れられる体質へと変わっていきます」

森沢さんが勧めるトレーニングとは、主に「音読パッケージ」と「瞬間英作文」の2つだ。

音読パッケージでは、1つの英文をいろいろなやり方で計30回、声に出して読む。まずはリピーティング。テープを聞き、英文の内容を完全に理解してから、テキストに沿って一言一句正確にリピートする。次にテープを使わないテキストの音読。そしてテキストを見ずにテープだけのリピーティング。最後はテープの音声を流しながら少し遅れて繰り返すシャドーイング。この4行程を1パッケージとして、1つのテキストに対して音読を15回、残りは5回ずつ、計30回を行う。

森沢さんは英語上達のうえで、音読ほど効率的な方法はないと話す。

「重要なのは、構造や意味のわかっている英文を自分の口から発すること。音読だけでは単調ですが、リピーティングとシャドーイングを挟むことで変化がつく。さらに耳を使うことで聞き取り能力が上がります。音読パッケージを行えば、リスニング対策の時間が節約できます。初心者からTOEIC600点ぐらいまでは、ほぼ音読パッケージだけでいいでしょう」

瞬間英作文では、単語や表現に難しいものが一切ない、きわめて簡単なテキストを使って、短文を暗唱していく。たとえば、「この小説は多くの人に読まれている(=This novel is read by many people.)」といったレベルで構わないのだという。

「ポイントは3つ。簡単な文を数多く作ること、スピードを重視すること、暗記しないこと。英文の組み立てに集中してトレーニングをすることで、英語の回路を自分の中に組み込む。その結果、英語で話せるようになります」

森沢さんが教えてきた経験からは、自分の英語力に謙虚に向き合い、中学レベルの英語からやり直せる人ほど早く伸びるという。たとえばNHKラジオ「基礎英語」の「2」や「3」のテキストとCDは、中学2〜3年レベルで、音読パッケージの教材向きだ。

一方で、「英会話教室でとにかくネイティブスピーカーと話す」という学習方法は勧められない。基礎がなければ、高額な受講料は無駄になる。ただしインターネット電話「Skype」を使った格安スクールならば、腕試しのつもりで利用する価値はあるという。

「これまでの英会話教室はコストの面で勧められなかった。しかしネットを使った海外の英会話スクールには月額数千円程度と格安なものが数多くあります。とくに安いのはフィリピンのスクールです。英語には癖がありますが、癖のない英語なんてありません。たとえ通じなくても、身の程を知る勉強代としては安いものです」(森沢氏)

■発音できない言葉は「聞き取り」もできない

竹岡さんは英語学習では「語彙の習得が最重要」と訴える。

「長く予備校で教えている経験からも、ほとんどの人は高校段階で英文解釈の基本を身につけています。それでも英語への苦手意識が抜けないのは、とにかく語彙が足りないから。極端にいえば、何かものを取ってほしいときには『pick up』と言えばいい。でも『pick up』が出てこなければ、どうしようもないね。『can』か『would』かと悩む前に、まず自分の語彙力を点検して、もし足りなければ覚えていく。語彙力があれば、何とでもなりますから」

単語を覚える要点としては、「発音」と「語源」を挙げる。

「発音できない音は、聞き取れません。自分の発音を正しく直さないかぎり、喋ることも聞くことも中途半端になってしまうわけです」

「pick up」は「ピックアップ」ではない。日本語にたとえれば「ピッカッ」などと聞こえる。「k」や「p」に母音はつかないからだ。音読は効果的な方法だが、自己流ではなく、必ずネイティブの発音を確認する必要がある。

さらに語源は、英語を面白く学習するうえでも、欠かせない。丸暗記が苦痛で、英語を苦手としていた竹岡さんが、英語にはまったのも、語源への理解が進んだからだった。

「『president』という単語は、『pre(前)』『sid(座る)』『ent(人)』と分解できる。『人の前に座っている』から、大統領や経営者という意味になる。『spring』という単語には『春』『ばね』『泉』といった意味がありますが、これは『飛び出す』が原義だからです。発音するとわかるように、爆発するような破裂音が入っています。『スプリング』と日本語で発音しても、本来の意味はわかりません」

さらに、竹岡さんも森沢さんと同じく、「反復」の重要性を指摘する。次々と新しい教材を試すような人は、いつまでも英語力は身につかないという。

「どんな教材でもいいんです。私の本には100の構文しか載っていませんが、徹底して反復するならそれだけでも十分なんです。英語は、国語や数学の部類ではなく、体育や音楽の部類。何度も反復させて、体に染み込ませていくものなんですよ」

つまり英語学習に近道はないのだ。

「TOEIC400点程度の人が900点程度までスコアを上げるとすれば、毎日2時間の学習で最低2年は必要だと考えてください」(森沢氏)

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六ツ野英語教室 主宰 
森沢洋介 
1958年生まれ。大学入学後、独自のメソッドで、日本を出ずに英語を習得。予備校講師などを経て、現在は浦安市で教室を運営。著書に『英語上達完全マップ』『どんどん話すための瞬間英作文トレーニング』など。

竹岡塾主宰 駿台予備学校講師 
竹岡広信 
1961年生まれ。京都大学工学部、同文学部卒業。在籍中、実家の塾で英語講師に。洛南高校などでも講師を務め、「英作文の鬼」との異名を持つ。漫画『ドラゴン桜』のモデルの1人。NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」にも登場した。

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(鈴木工=文 小原孝博、市来朋久=撮影)