自分で未来予測を立て、それがどうなるかを知りたい

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仕事とは? Vol.90

作家・ジャーナリスト 佐々木俊尚

ジャーナリスト・佐々木俊尚氏が語る、「ジェネラリスト」であることの危険性


■会社に入ってまず目標とすべきは、専門分野を決めること

就職活動中の人なら気づいているかもしれませんが、日本の会社ってジェネラリスト養成型が多くて、社員に何でもやらせようとします。入社して企画の仕事をしていたら、「一度現場も見てこい」なんて言われて営業に異動して、また企画に戻ったかと思えば、今度は総務に行かされたりする。そういう「ひと通り見てこい」みたいなことって、実際はあまり意味がないと僕は思います。

もちろん、会社のそれぞれのセクションで何が行われているかを知るのは大事ですよ。特に将来その会社で経営陣になるとか、起業したいという目標がある人にとっては、会社の仕事をひと通り経験するというのは大きな糧になります。ただ問題なのは、たいていはその「ひと通り」のスパンが長いんです。大企業の場合は20年くらいかかったりする。そこから幹部になったり、起業できればいいけれど、計画通りに行かないことも十分あり得る。そうなったときに残るのは、中途半端な経験だけ。専門性が蓄積されていないので、リストラや倒産など転職せざる状況になったときにつぶしが利きません。

20年後に悲惨な目に遭わないために、皆さんが会社に入ってまず目標とすべきは専門分野を決めること。自分のやりたいことや向いていることがわからなくても、就職するまではいいんです。でも、社会に出たら、どこで飯を食うかを自分で見つけなければいけない。もっとも僕自身は終身雇用制度が生きている時代に社会に出たので、のんびりしたものでした。専門性の重要性を切実に感じたのは新聞社で12年間事件記者をやった後、IT系の出版社に転職した時です。

事件記者というのは取材テーマに一貫性がありません。今日は収賄(しゅうわい)、明日は殺人、次の日は海外テロとさまざまな事件を取材していくので、自分の中に蓄積ができづらいんです。ジャーナリストとしてこれでいいのかなという気持ちはありましたが、忙しさに紛れて深くは考えていませんでした。そんな時に大病を患ってしばらく事件記者の現場から離れ、プツリと糸が切れてしまったんですね。ネタ探しに追われる毎日にはもう戻りたくない。学生時代から詳しかったITの分野で何かをできないかなと転職を決めたんです。

ところが、いざIT系の雑誌編集部に飛び込んでみると、コンピュータやインターネットの技術や製品について詳しい人は山ほどいるわけですよ。がく然としましたが、いろいろな仕事をしているうちに、ちょうどそのころ頻繁に起き始めたインターネット犯罪については、取材手法を知る人が編集部に誰もいないことがわかりました。そこで、新聞記者時代に培った人脈やノウハウを使って「迷惑メールの帝王の素顔」というようなアンダーグラウンドの記事を書いたら、読者から大きな反響があったんです。

これは面白いと思いましたね。新聞記者というのは大きな事件も扱いますが、そういう事件というのはたいてい発生してから現場に駆けつけて取材をします。その時にはたくさんのメディアが殺到して、記事に差をつけるのはすごく難しいんです。ジャーナリストにとって面白いのはそういう仕事ではなく、誰も取材していないものを掘り起こして書くこと。その点インターネット犯罪というのは当時ほとんどの新聞記者はITの知識がなくて取材していなかったし、IT系の専門誌も取材手法を知らないから手つかず。僕にとっては、宝の山でした。

インターネット犯罪の取材に端を発し、その後はテクノロジーが社会をどう変えていくのかをテーマにジャーナリストとして活動してきました。読者のニーズは高いテーマですが、テクノロジーと社会、それぞれについては語れても、その接点を追い続けてきた人というのはそう多くはありません。独立して10年になりますが、ここまでやってこられたのは専門性があったことに加え、その専門性にニーズがあったからだと思います。専門性というのはニッチすぎるとニーズがなくて仕事になりません。だから、ニーズを見極めながら自分の専門性を高めていくということが大事なんです。

では、「仕事になる専門性」を見つけるにはどうすればいいか。小出しにいろんなことをやってみて成功したらちょっと進めてみる。これを繰り返すしかありません。なるべく早く専門性を身につけておきたいと考えるなら、若手にトライアンドエラーをたくさんさせてもらえる会社を選ぶのも大切かもしれませんね。で、一度「自分はこれで行く」という分野を定めたら、会社から何を言われようとほかに余計なことはしない。強要されるようなら、転職する。そのくらいの覚悟がないと、専門性というのは身につかないものです。


■何が安全かわからない時代。不安じゃない人はいない

最近の学生さんは行動力があると思いますよ。僕のところにもFacebookで知り合った学生さんが「ジャーナリストになるにはどうすればいいですか?」と聞きに来たりします。ただ、ジャーナリストという職種も現在は仕事の分野がものすごく広がっているので、単純には答えられないんです。かつては出版社の編集者と付き合って、「最近、どお?」なんて一杯飲みながら話していたらそれで仕事が降ってきた。でも、今は雑誌も書籍も売れなくて、それだけでは仕事が成り立ちませんから、トークイベントを企画したり、講師をしたり、ありとあらゆることをやってビジネスを開拓しなければいけない。そうなると、取材力や筆力といった基本的な力に加えて、コミュニケーション力などさまざまなビジネススキルが必要になる。先程、専門性の重要性をお話ししましたが、いわゆる「専門バカ」ではやっていけないんです。

常にビジネスを開拓しなければいけないというのは、もちろん会社員も同じです。ただ、フリーランスは収入がいつ途切れるかわからないから、それがある種の原動力になって日常に埋没しないでいられるというのは実感しています。よく「不安じゃないですか?」と聞かれますが、今の時代、不安じゃない人なんていない。むしろ、フリーランスというのは会社員と違って収入源が複数ですから、リスクヘッジになります。何が安全かわからない時代ですから、安全性を基準に仕事を選ぶという行為はもはや無効ではないでしょうか。

「仕事」の概念も変わってきていますよね。そのひとつとして、従来は「お金が発生し、そのお金を受け取るのが仕事」という定義がすんなり受け入れられていたけれど、今はそうとも言えません。僕は毎朝、プライベートの時間にツイッターでキュレーション(情報を収集、分類し、共有すること)をしていますが、それ自体にお金は発生しないし、営業のために始めたわけでもない。でも、結果的にそれがパブリシティになっていますから、仕事だと考えることもできます。テクノロジーによって個人が発信しやすくなったこともあって、何が仕事につながるかわからないというか、極端な話、生きていること、活動することすべてが仕事になるということが起きやすくなっています。

仕事もそうですが、私たちの生活がテクノロジーでどう変わっていくか。単にツールとして生活を便利にするという話ではなく、社会構造そのもの、世の中の概念や仕組みにテクノロジーがどのような影響を与えていくかを描いていく。それがジャーナリストとしての僕の立ち位置です。では、なぜ描き続けるのかというと、見てみたいんです。自分で「世の中がこうなる」という未来予測を立て、それがどうなるのかを知りたい。仕事を続けるということは、そういう面白さがあります。

最後にこれから世の中に出る人に言いたいのは、人の足を引っ張るような輩(やから)は気にしなくていいということです。僕はずっとテクノロジーの世界を取材してきて、インターネット第一世代の70年代前半生まれの人たちをたくさん知っていますが、最近こぞって「今の若者はなっとらん」という話をするので驚いています。自分たちもそう言われていたくせに(笑)。だから、やりたいことがある人は思いっ切りやって、日本の産業を担っていってほしいですね。