■やってあげた感を出すのは逆効果

人に恩を売るとき、まず気をつけたいのは、上司であれ部下であれ“自分がやってあげた感”を出してしまうこと。売った恩を返してほしくなった場合、どうしても自分がしたことをアピールしたくなりますが、それはかえって逆効果だと思います。もし自分が「あのとき、あなたのために尽くしたじゃないですか」と言われたら、「結局、見返りを期待してたの?」って、いい気分はしませんからね。

だけど、どうしても自分の貢献をアピールしたいときはある。そういう場合、僕は第三者の口から言ってもらうように工夫します。といっても「あの人の前で貢献した仕事について話してよ」と頼むわけではありません。

普段から目下の第三者にこそ気を使う。すぐ返ってくる見返りより、いつ返ってくるかわからない第三者の言葉ほど力強く、説得力あるものはない。いきなり上司に恩を売りにいくより、まずは自分の部下に恩を売って、急がば回れ的な効果を期待したほうがいいかもしれません。

昔、こんなことがありました。テレビ局に入社して1年半ぐらいの、ADしか経験したことがない若手社員から「深夜番組の企画が通ったので、高須さんと一緒に仕事したい」と依頼を受けたのです。この業界では僕もそこそこキャリアがある立場なので、彼は周りから「そんな小さい番組を頼んだら失礼だろ」と言われたようでした。でも僕はそんな若い人から仕事を依頼されたこともないので、なんかおもしろそうだという一点で会議に参加し、まだテレビのことがよくわかっていない彼と番組をつくりあげました。

その後、彼はバラエティの一線で仕事するようになって、今は成長した彼がさまざまな場所で僕のことを言ってくれているそうです。ただおもしろそうという理由で仕事を引き受けただけですが、結果的に恩を売る形になって、その恩が声として広がり、数倍にもなって返ってきている感じです。

あるプロデューサーの話を聞いたときも、部下の面倒を見て損することはないなと思いました。そのプロデューサーは大物タレントの食事会と、約束を取りやめてもいい部下の食事会のふたつのスケジュールが重なった場合、下の者との約束を優先するそうです。

目上の人には正直に事情を説明して「申し訳ありません」と謝れば、よっぽど大事な用事だと思って許してくれる。でも、むげに部下のほうを断ると「どうせ自分なんて優先順位が低いんだ」と歪んで取ることがある。つまり上の立場の人は深読みしてくれても、下はしないんです。それが部下との約束を守ると、「自分のほうを選んでくれた」と感謝されるし、上の人からも恨まれない。下に恩を売ることで全体がうまくいく、いい例だと思いますね。

ただし恩を売ることは、最終的には仕事でしかできないんじゃないでしょうか。僕のような放送作家の仕事で言うと、つまらなくなりそうな番組をテロップの文言やナレーションでおもしろくできたときです。演出やタレントが心配していたポイントを作家の力で何とかしてくれたなあ、という仕事の恩は残っていくんですよね。

どんな仕事もできるかぎりの時間を費やして貢献する。もしくは人が「しまった」と思った失敗を、黙ってフォローする。そうした仕事の恩であれば、きっと上司にも伝わると思います。

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放送作家 高須光聖
1963年生まれ。大学卒業後、放送作家デビュー。松本人志、浜田雅功とは小中学校の同級生。ダウンタウンのほぼすべての番組を手がける。

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(放送作家 高須光聖 構成=鈴木 工)